著者
石黒 直隆 松井 章
出版者
帯広畜産大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

本研究の目的は、遺跡から出土する古代犬の骨に残存する微量な遺伝子を効率良く増幅し古代犬を遺伝子面で復元し、現生犬から構築したデータベースと比較することにより日本在来犬の起源と成立過程を解析することである。本年度は以下の成績を得た。1)残存遺伝子の増幅法の開発:長い埋蔵期間中、遺跡から出土する骨には土壌中の成分が多く浸み込み、それがPCR反応のインヒビターとなっている。古代犬の骨から効率に古ミトコンドリア(mt)DNAを分離・増幅する為には、このインヒビターを取り除くことが大切である。これまでの検索で、骨中のPCRインヒビターを取り除くには0.5MEDTAによる骨粉の洗浄が最も有効であること、また長期間の洗浄後、プロテネースKにて骨粉中の蛋白を消化することが最も増幅率を高めることが判明した。2)遺跡出土の犬骨からの古mtDNAの増幅:これまでに縄文時代、弥生時代、古墳時代、オホーツク文化時代の遺跡から出土した145本の古代犬の骨より残存遺伝子を分離・増幅した処、74本(51%)の骨より198bpの塩基配列を得た。得られた配列を現生犬のデータベースと比較した処、ハプロタイプM5型とM10型は関東以北の地域に、またハプロタイプM2型は西日本から東北地方まで広く分布していた。一方オホーツク文化期の遺跡からはM5型の犬が多く検出され、オホーツク文化期の古代犬は遺伝的に均一であることが明らかとなった。これらの成績は、古代犬が縄文時代からかなり多様性に富み、その分布には地域性があることを示し、人の移動や分布を知る上で、貴重な資料を提供するものとして期待される。

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