著者
嶋 秀明
出版者
横浜市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究は新規粘膜ワクチンの創出を最終目的とし、ドラッグデリバリーの標的分子として腸管粘膜において抗原取り込みに特化したM細胞上に存在している事が示唆されているSIgA受容体の探索を行うものであった。初年度、次年度において、いくつかの試験方法を試みた結果、適切にSIgA受容体を探索することが困難であり、また、新たにM細胞上にはIgGと結合する分子の存在が示唆された。本研究が新規粘膜ワクチンの創出であるため、同時期に同定されたM細胞特異的な抗原取り込み受容体「GP2」を標的としたワクチン創出を行った。ビオチンと特異的に結合するストレプトアビジンと抗GP2抗体の可変領域を繋いだ融合タンパク質をドラッグデリバリーツールとして用いた。当該タンパク質をanti-GP2-SAと名付け、精製度やGP2に対する結合能、糞便中抗原特異的IgA量および誘導されたlgAによる感染防御の評価をマウス組織や、マウスに対する投与試験によって確認した。その結果、anti-GP2-SAは抗体の可変領域とストレプトアビジン領域を同時に持ち、GP2に対する結合能も損傷を受けていないことが示された。さらに、anti-GP2-SAをマウスに経口投与した結果、抗原特異的な分泌型IgAの力価が、対照群に比べ有意に増加している事が示された。抗原を異なるタンパク質、且つ、複数のタンパク質を同時に結合させたものを投与した場合においても、抗原特異的な糞便中IgAの力価が上昇している事が示された。新規粘膜ワクチンanti-GP2-SAによって誘導された抗原特異的なIgAは、致死性のSalmonellaを感染させた場合に、有意に生存率を上げることが出来ることが示された。また、生存率と誘導された糞便中IgA量との間には有意な相関があろうことが示唆された。なお、これらの結果をまとめた論文は英語論文誌へ投稿されている。本研究結果は、腸管に存在するM細胞を標的とした粘膜ワクチンが、これまで経口粘膜ワクチンが実用化されてこなかった原因となるいくつかの課題をクリアし、さらに、腸管免疫の研究をより詳細に解析することの出来る有用なシステムとなる。

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