著者
今泉 裕美子
出版者
法政大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

<資料収集>本研究の対象時期を含めた日本の南洋群島統治資料の所在をほぼ確認し、複写することができた。従来、南洋群島資料は殆どないとされてきたが、戦後アメリカのミクロネシア信託統治行政の資料収集について情報を得、アメリカが押収した資料、また日本への返還文書、それぞれの所在を確認できた。よって、貴会の特別研究員時代の調査研究とあわせて、アジア及び太平洋島嶼地域、アメリカにおける南洋群島資料の所在について、その全体像をほぼ明らかにすることができたことは、南洋群島研究の進展に大きく貢献するものと考える。とくにハワイ大学調査では米国押収資料のほとんどを複写できたこと、また、ハワイ以外の未発掘資料の所在も確認でき、今後の研究計画もたてることができた。以上のような経緯から本研究の資料調査では、結果的には海外における資料調査に重点が置かれることになった。一方、聴き取りでは、引揚者によるミクロネシアへの慰霊団に同行したほか、ミクロネシア、沖縄、東京近郊で調査を進め、日本統治下の人々の世代別、性別、仕事別の諸分野について聴き取りを行なうことができた。<研究発表>海外での資料を多く確認できたため複写手続に時間がとられた。とくに平成13年9月のテロ事件以後、通信や交渉が滞り、資料の入手段階で通常以上の時間が必要となり、論文作成の遅延をもたらさざるを得なかった。すなわち、研究計画に示したように、日本の国際連盟脱退からアジア・太平洋戦争までの時期について、資料分析が行なえたのは第二次世界大戦開始前後までとなった。しかし、アジア・太平洋戦争期の政策や、実態についての分析は現在進行中であり、本奨励研究の研究成果には間に合わなかったにせよ、今後の研究発表がすでに具体的な日程に上っている。また、論文化できた研究成果には、現地住民政策を委任統治の「島民ノ福祉」向上という委任統治条項履行という観点から分析したもの、および、南洋移民研究のサーヴェイがある。前者では、南洋群島統治における1930年代の現地住民政策の特徴を、日本化政策の浸透が福祉向上という解釈で行なわれたことを明らかにした。後者では、南洋群島移民に関する国内外の研究動向について、本奨励研究対象期の日本の南洋群島統治政策と移民政策および移民の実態から検討し、自らの研究の位置づけを行った。平成14年3月1日には「沖縄県地域史協議会」にて「日本の南洋群島政策と移民」と題する講演会を行い、南洋群島統治と移民との相互関連性について本奨励研究の成果を口頭報告した。以上の作業によって従来報告者が進めてきた研究、すなわち海軍統治期、南洋庁統治期の1920年代に加えて、1930年代の統治研究を行いえたので、今後は、日本の南洋群島統治全期のモノグラフ作成をめざしたい。

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