著者
安部 正真 矢田 達
出版者
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

新規に整備を行ったイオン照射装置を用いて、小惑星模擬表層物質としての含水ケイ酸塩鉱物と無水ケイ酸塩鉱物に対して、太陽風を模擬した水素イオンの照射実験を行った。照射前後の反射スペクトル測定を行ったところ、水素イオンの照射によって、H2OおよびOHに関連する吸収バンドに強度変化が見られた。このことから、水素イオンがケイ酸塩鉱物と反応して水を生成することを示唆する知見が得られた。大気のない小惑星や月表層のケイ酸塩鉱物に水素イオンが貫入し、結晶構造を壊し、活性化した酸素に水素イオンが結合することにより、SiOHやH2Oが形成していると考えられる。今年度は照射する試料を変えて、イオン照射量とスペクトル変化の関係に関する知見を獲得した。微隕石衝突を模擬した宇宙風化実験の結果とも整合する結果が得られている。また、ケイ酸塩鉱物への水素イオンの貫入で形成されるOHやH2Oの温度安定性についての知見を得るために、照射装置のサンプルホルダーに加熱機構を付加する改修を行った。この結果は実際に月表面で観察された水に関する吸収バンドの生成メカニズムを考察するのに役立つと考えられる。また、微隕石衝突を模擬した実験による反射スペクトル変化の測定は主に、可視波長域で行われているため、その結果と比較できるように、本研究で用いているFTIRの観測波長域を可視域まで拡張した。可視域には0.7ミクロンの水質変成に関係する吸収バンドがあり、宇宙風化がこの吸収バンドにどのような変化を及ぼすかについての考察にも役立つと考えられる。これらの改修後の照射・加熱実験および反射スペクトル測定の実施と結果の考察については、来年度も引き続き行う予定である。

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