著者
立部 紀夫
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第57回研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.F05, 2010 (Released:2010-06-15)

「金網看板」とは方形の木枠に金網を張り、金網の中央に木を切抜いた文字を付着 した独特な形式の看板である。大正期から昭和初期にかけて都市部を中心として 店舗の庇の上に掲げられたが、現在見かける数は少なくなった。 本稿では「金網看板」の意匠的特質について考察する。
著者
小野 英志
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.1-10, 1998-05-31 (Released:2017-07-21)
参考文献数
58

スタンリ・モリスンは, ゴランツ書店の斬新なブック・ジャケットによって知られるデザイナーあるいはアート・ディレクターであると同時に, 印刷・出版の歴史に関する深い学殖を備えた研究者でもある。1932年に発表され, 現在では最もポピュラーなローマン書体とも見做すことのできるタイムズ・ニュー・ローマンの開発経緯を例として, 彼の書体開発態度を, その著作を通じて検討した。その結果, 書体開発における彼の態度は, ブック・ジャケットのデザインのような場合とは異なり, たいへん慎重かつ保守的であり, そのことがまた彼の書体観ないし書体史観の反映であることが了解された。モリスンにおいてこうした態度を支えているものは, 文字の歴史に関する該博な知識と, それが差し示す書体の正統的形態を尊重する姿勢である。
著者
和田 あずみ 三澤 直加 名古屋 友紀 小野 奈津美 竹村 郷
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第66回春季研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.390, 2019 (Released:2019-06-27)

第四次産業革命を背景に、プレゼンスが弱まっている日本経済。日本の企業では、企業の創造的活動にあたり、柔軟に、常識にとらわれないで活動を創出する目的で、グラフィックレコーディング(以下GR)の活用が広がっている。新宿区立落合第六小学校では、このGRの方法を取り入れ、創造的な人材の育成を目的に小学生へ向けた「おえかきシンキング」授業(全4回)を株式会社グラグリッドと共同で開発し、実施した。全4回の授業を通じて、創造的活動を支え推進する兆しの行動が生徒達にみられるようになった。また、生徒達の変容、授業の振り返りおよび分析を通じて、創造的人材育成に貢献する4点の影響要因として、「個人の壁や視野、固定概念からの解放」「新しい意味づけのための、身体による探索と他者関与」「他者の声を受けとめるために、自分の心の声を『きく』こと」「創造し、まとめるための『イメージ』『マインド』の育成」を導き出した。
著者
侯 茉莉 小野 健太 渡邉 誠
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.17-24, 2010-11-30 (Released:2017-06-24)
参考文献数
14

台湾では戦後早期のデザイン発展およびデザイン教育において、日本からの影響と、米国およびヨーロッパの専門家や学者から多くの協力が得られた。日本の影響のもとに築かれた台湾のデザイン教育が、商工業の発展につれて次第に独自のスタイルを持つようになった。一方、日本でも、ものを作るだけの時代から、更にマーケティング等の視点を取り入れ発展してきた。本論では、100年以上の歴史を経た現在の日本および台湾における高等デザイン教育の状況、また、日本と台湾のデザイン教育の相違を抽出することが目的である。日本の35のデザイン学科および台湾の32のデザイン学科に対し、カリキュラムの調査を行った。具体的には、それぞれのカリキュラムについて、重視されている、あるいは欠けている課程を調べ、数量化理論III類を用いて分析することにより、9つのタイプに分類を行った。それらのタイプと日本、台湾との関係を見ることにより、日本のデザイン教育は多様な要素を含んだ総合的な学問として、台湾のデザイン教育は「ものづくり」ための技術教育を中心に発展してきたことが分かった。
著者
清水 淳子 須永 剛司
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第65回春季研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.290-291, 2018 (Released:2018-06-21)
被引用文献数
1

複雑な社会問題に取り組んでいる当事者たちの課題を解決するため、グラフィック・レコーディングでサポートしました。 この研究の目的は、異なる立場の人々が複雑な問題に直面するときに起こる衝突をどのように解決するかを見つけることです。待機児童の解消を目指すチームと協力しています。私は視覚的なコミュニケーションのプロセスを考察します。私は目に見えるグラフィックだけでなく、人々の思考や関係を考慮し、ビジュアルコミュニケーションの効果を考慮します
著者
中辻 七朗 伊藤 浩史 伊原 久裕
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.3_21-3_30, 2017-11-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
21

本研究は,タイプフェイスについて,専門家と非専門家の類似性判断の差異を実験的に検証した。刺激として用いたのは,セリフ書体およびサンセリフ書体である。実験手法としては,各書体が記載されているカードを各書体の形態の類似度に応じて2次元空間に配置するカード配置法を用いて,空間上の刺激間の距離から各書体の形態の類似度を計測した。専門家と非専門家の空間配置について,配置図間の類似性を評価する跡相関係数を算出したところ,5%水準で有意差が認められ,専門家と非専門家の類似性判断に差異があった。次に,取得された類似度と各書体の文字の太さの相関関係を調べた。サンセリフ書体については,専門家の判断は中程度の相関を示したのに対して,非専門家の判断は強い相関を示したことから,非専門家によるサンセリフ書体の類似性判断は,字体の太さに大きく影響されることがわかった。
著者
森 優子
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.139-146, 2001-11-30 (Released:2017-07-19)
参考文献数
9

文を書くには, 文字以外に句読点をはじめとするさまざまな記号や符号が使用される。文をより正確に, 読みやすく表現するためには, これらの記号類は重要な要素となる。日本語の横組の文で用いられている句読点には, 現在3通りの組み合わせが存在する。本稿では, 句読点の不統一性に着目することでその現状について把握し, 問題点の所在を明確にすることを目的とする。まず, これらの句読点がどのような規則に基づいて決められ, 使用されるに至ったのかを把握するため, 句読の指針を示す記述がある文献について調査した。次に, 句読点の使用の現状を知るために, 現在発行されている定期刊行物がどの方式を採用しているのか調査し, それらの分野ごとの傾向について比較した。最後に, アンケートを通して個人の句読点に関する意識調査を行った。句読点の不統一性に着目した3調査の結果, 句読点に関する一般の規則と, 印刷物における使用の実態, さらに個人が持つ意識の間には差異があることが明らかになった。
著者
阿部 卓弥 諏訪 悠紀 両角 清隆
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第58回研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.131, 2011 (Released:2011-06-15)

実際の議論を分析した結果、議論には4つの段階があることが分かった。 各段階はそれぞれ、議題の共有、意見の発散、議論の収束、結論の共有である。 本研究の目的は非対面的議論の収束段階を支援するWebアプリケーションを開発することである。収束段階とは議論の4つ段階のうち3番目の段階であり、議論の中で抽出された選択肢の中から結論となり得る意見を選択する段階のことである。 議論から収束段階の問題を抽出し、アプリケーションの開発を行った。開発したアプリケーションを用いて、検証実験を行った結果、議論の収束段階において以下の2点が重要であることが分かった。 まず、議論の状態が意見を出す段階から、議論をまとめる段階に変化していることが明確に分かるということ。そして、結論となり得る意見の内容と数が明確であり、メンバーが理解できるということである。
著者
松薗 美帆 伊藤 泰信
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会第70回研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.240, 2023 (Released:2023-12-13)

ここ最近、人類学者とデザイナーがともに協働する形が模索され、デザイン人類学という分野が確立されつつある。今後人類学がデザインにさらに歩み寄り、協働を深めるためには、フィールドで得た洞察をこぼれ落とすことなく、多種多様なステークホルダーにいかに伝えるかは大きなチャレンジとなるだろう。 本稿では株式会社メルペイのクレジットカード「メルカード」の新規立ち上げプロジェクトを事例に、デザインコンセプト創出のためのワークショップにおいて人類学的な視点である「異質馴化」(making the strange familiar)と「馴質異化」(making the familiar strange)を取り入れた実践について述べる。本事例ではプロジェクトメンバー自身の語りを引き出し「馴質異化」の視点を取り入れたのが新しい試みであり、これによってプロジェクトメンバー自身と顧客の対照的な立ち位置に改めて気づき、デザインコンセプトを軸として表現することにつながった。
著者
坂手 勇次 小島 菜穂子
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.6_43-6_50, 2016-03-31 (Released:2016-05-30)
参考文献数
15

本研究では,日本の伝統的な撥水・防水加工和紙素材を再現し,それを応用した2種類のサンプルを制作した。その対象を,特殊な装飾品や伝統工芸品ではなく, 普段の生活のなかの実用品とすることで, 廃れつつある日本古来の紙文化を再認識することを狙いとした。現代ではあまり利用されていないが,昔は撥水, 防水加工を施した和紙が多く使われていたことに着目し, 食器や雨具などの水に関わる日用品を想定した和紙素材の再現を行った。具体的には、まず、漆,荏油(えのゆ), カキ渋などの伝統工法を試し, 次に、最新工法の液体ガラスコーティングを用いて, 和紙の撥水,防水加工の可能性について,実際の試作による検討を行った。最後に, この試作した撥水・防水加工を施した和紙素材を用いてカップ(食器)と合羽(雨具)を制作した。
著者
堀川 将幸 藤村 諒 佐藤 浩一郎 寺内 文雄
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.4_45-4_54, 2022-03-31 (Released:2022-04-26)
参考文献数
16

本稿では,精神的充足に向けたデザインを行うための指針を導出することを目指し,習慣化に関する主体的行動を対象とした精神価値の成長要因を明らかにしている。具体的には,まず,ハマるに至るきっかけから定着化するまでの習慣化に関する主体的行動を調査し,その経験価値の変化の特徴を分析し,これらの結果に基づいた経験価値変化モデルを提案している。次に,習慣化,定着化に至った主体的行動の事例を対象として,評価グリッド法とクラスター分析を実行した。その結果から,習慣化に関する主体的行動における精神価値の成長に起因する4つの心理状態「高揚感」「平穏感」「好奇心」「向上心」が,価値実感期,価値成長期,価値定着期の3期において変化し,定着化するプロセスを示している。また,各状態の具体的な成長要因として,価値実感期での感動体験や潤沢な体験,価値成長期での共同体験や上達体験,価値定着期では日常化体験や到達体験を導いている。さらに,これらの成長プロセスの変遷を考察することで指針構築の一助とした。
著者
石川 義宗
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.2_19-2_28, 2023-09-30 (Released:2023-10-25)
参考文献数
50

本稿の⽬的は我が国のインダストリアルデザインの理論的特徴を明らかにすることである。そのために1970 年前後のJIDAの機関誌を参照し、主に「道具」に関する議論に注⽬する。その議論から少なくとも下記の4つの理論的な分節を指摘することができる。(1)⽇本の現状を省察し、インダストリアルデザインの理論に空間的、時間的変化を付与した。(2)上記(1)の実証として、コンポーネント家具やユニット住宅が注⽬され、「複合機能」や「機能の系」といった概念が提起された。(3)上記(2)を深めるため、⽣活者の創造性に⽬を向け、デザイナーとユーザーの共同意識を浮き彫りにした。(4)上記(3)を⼀般化するため、デザイナーのコミュニティ以外に知⾒を求め、⾃然物と⼈⼯物を俯瞰する視野を獲得した。これらにより、従来の普遍的なインダストリアルデザインの理論に我が国の特徴が付与されたと考えられる。
著者
土屋 篤生 青木 宏展 植田 憲
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.2_1-2_10, 2023-09-30 (Released:2023-10-25)
参考文献数
15

千葉県における伝統的鍛冶技術は、職人の高齢化や後継者不足、社会構造の変化などの要因により消失の危機にあり、その記録および継承が急務である。館山市の房州鎌職人および柏市の型枠解体バール職人への聞き取り調査をもとに、それぞれの製作技術をまとめた。房州鎌:①地金と鋼を鍛接する。②鎌の形状になるように叩いて曲げ、薄く延ばしたのち、型どおりに切断する。③刃元の段差、ミネの勾配およびコバを付け、強度を増す。④水で焼き入れ・焼き戻しをする。型枠解体バール:①四角柱と八角柱の鋼材を鍛接する。頭部に用いる四角柱の方に硬度がより高いものを用いる。②スプリングハンマーを用いて頭を直角に曲げる。③爪を斜めにし、先を割って成形する。④同様にして尾を成形する。尾はおよそ 25 度の角度をつける。⑤焼き入れ・焼き戻しをする。焼き入れでは、工業用の油で半分ほど冷ましたのち、水冷する。両者とも要所の繊細な工程は手作業で、五感を駆使して行うが、鍛接や延ばしなど単純だが力を要する工程には機械を併用することで、高齢でも今日まで続けられている。
著者
上原 勝
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.33-38, 1994-01-31 (Released:2017-07-25)

デザイン材料計画には,2つの考え方があることが分かった。1つは,製品の機能からの考察で,材料選択,材料開発,材料設計,材料改良,新機能付与である。他は,材料の性質からの考察で,新材料や廃棄物の用途開発,転用やリサイクルである。デザイン材料計画の動向を,製品と材料のかかわりの変化,考慮要因の変化,技術の変化,材料の変化,材料の役割の変化について調査した。結論として,次の事を得た。1)新材料の出現は材料と製品との新しいかかわりを作り出している。2)材料計画は全体のシステムやサイクルから考慮しなければならない。3)ゴミ問題に関係し,材料計画は一層重要になっている。
著者
平野 聖 石村 眞一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.55-64, 2007-09-30 (Released:2017-07-11)
参考文献数
33
被引用文献数
1

本論では,扇風機のデザインの歴史を研究することを通じ,我が国家庭電化製品のデザイン開発における特徴を解明する一助としたい。明治,大正時代の史料を調査することにより,以下のことが判明した。明治時代には,先進国から我が国へ輸入された製品が,扇風機を普及させる中心的役割を果たした。欧米では,天井扇の需要が大いにあったが,我が国においてはほとんどなく,卓上扇風機を中心に開発が進められた。我が国における職人の能力は高度であった為,欧米から導入された技術を受容できる余地があった。当初は町工場も扇風機を製造していたが,やがて財閥系の大企業が製造を独占するようになる。大正時代に入ると多くの大企業が扇風機製造に進出し,各社の宣伝活動が盛んになった。大正時代前半には,扇風機のデザインにおける基本的な4つの要素が出揃った。すなわち,黒色,4枚羽根,ガード,首振り機能である。扇風機は高価であったので,大半の人々は扇風機の貸付制度を利用していた。その結果,扇風機はステイタスシンボルとして機能した。