著者
友田 明美
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.719-729, 2016-11-01 (Released:2017-05-17)
参考文献数
31

小児期のマルトリートメント(不適切な養育)経験は高頻度に精神疾患の発症を招き, 脳の器質的・機能的な変化を伴うことがわかってきた。たとえば, 暴言虐待による聴覚野容積の拡大や両親のDV目撃による視覚野容積の縮小をもたらし, うつ病や PTSD, 認知機能の低下を引き起こす。他の被虐待経験によるヒトの脳に与える影響も明らかになってきた。単独の被虐待経験は一次的に感覚野(視覚野や聴覚野など)の障害を引き起こすが, より多くのタイプの虐待を一度に受けるともっと古い皮質である大脳辺縁系(海馬や扁桃体など)に障害を引き起こす。さらに反応性アタッチメント障害を持つ青少年たちには線条体におけるドパミン機能異常が明らかになってきた。不適切な養育体験と子どもの依存リスクが脳科学的にも密接に関連している可能性が示唆される。
著者
吉川 徹
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.359-369, 2017-06-01 (Released:2019-08-21)
参考文献数
16

我が国では2006年の国連で採択された障害者の権利に関する条約を念頭に,障害児者に対する合理的配慮に基づく支援についての検討や国内法の整備が進められ,2014年に同条約の批准に至った。本稿では我が国の合理的配慮をめぐる状況を概観するとともに,限局性学習症をもつ人に対する合理的配慮の内容について,検討を行った。また限局性学習症を持つ人が合理的配慮を得るために,医療機関が果たすべき役割について,診断の際の留意事項,疾患教育や環境整備のための提言などについて,検討を行った。
著者
若宮 英司
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.246-253, 2017-04-01 (Released:2019-08-21)
参考文献数
10
被引用文献数
2

LDは学習の基礎技能(読み,書き,計算,算数的推論),DCDは協調運動が特異的に障害される神経発達障害で,視覚情報処理障害は現在のところ対応する診断名がない。この3つは合併することも多く,それぞれ学習に対してネガティブに影響する。不注意など他の障害も含めて学習困難の独立した要因として認識しておくこと,学習困難の訴えがどの要素に起因するのか判別することが援助の第一歩となる。DCDと視覚情報処理障害の概要と,その学習への影響,LDとの関係を概説した。
著者
稲垣 真澄 米田 れい子
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.205-216, 2017-04-01 (Released:2019-08-21)
参考文献数
24

限局性学習症/学習障害(learning disorder/specific learning disorder; LD)は全般的知能が正常で, 学習意欲があるにもかかわらず, 「読字」「書字」や「算数」などの特定領域の獲得が障害され, 学業, 日常生活, あるいは職場で著しい支障をきたす発達障害の一つである。中枢神経系の機能異常によるとされ, 近年脳機能画像による解析も試みられている。本稿は, 代表的LDである「発達性読み書き障害」と, 「算数障害」について, それぞれの概念, 診断につながる臨床症状の診かた, わが国で使用可能な検査と診断手順について解説した。前者では問診におけるチェックリストの活用, ひらがな音読検査での読みの評価が, 後者では KABC-Ⅱの習得度評価が役にたつ。的確な教育的支援のために医療サイドができることは, 言語発達に関する詳細な問診, 神経学的診察, 知能評価, 読み書き・算数の基本的能力や子どものもつ認知特性の評価を行うことであると考えた。
著者
河野 俊寛
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.370-378, 2017-06-01 (Released:2019-08-21)
参考文献数
24

「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」結果(文部科学省,2012)には,学習障害が疑われる子ども達は小学校に約4%から約7%存在しているが,支援を受けている割合は約半数でしかないことが示されている。学習障害の評価は,標準化された学習障害検査を実施し支援を行うプロセスが一般的である。しかし,現在の日本には標準化された検査は少なく,支援から始めるRTIモデルが学校現場で使えるが,子どもの行動を観察し,的確な支援を始める教員の力量を育てる研修が必要であろう。現在の特別支援教育制度においては,学習障害のある子どもは通常学級で学習することになっている。通常学級以外では,通級による指導と特別支援教育支援員を使うことができる。通級による指導を受けている子どもの数も,特別支援教育支援員の配置数も増加傾向にある。支援の方針としては,読み書き算数の困難を改善するアプローチと,読み書き算数の困難に対して補助代替ツールを合理的配慮として提供するアプローチがある。それぞれのアプローチの具体的な方法を紹介した。また,読み書き障害の架空事例によって,小学生から高校生にかけて可能な合理的配慮の具体例を示した。最後に,学習障害のある子ども達が通常学級で適切な支援を受けるためには,多様性が認められた教室である必要性を強調した。
著者
髙岡 昂太
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.730-737, 2016-11-01 (Released:2017-05-17)
参考文献数
29

本稿は, 性虐待の定義, 性虐待をめぐる多職種・多機関ネットワーク, 専門職が知っておくべき最低限の知見, そしてグローバルスタンダードとなった性虐待の多職種・多機関連携を行うためのChild Advocacy Center(CAC)モデルを検討する。介入と支援を一箇所で展開するCACが機能するには10個の認定基準があり, ①医療-福祉-司法の多職種・多機関連携(Multi-Disciplinary Team), ②文化的多様性と問題への対応力, ③司法面接, ④被害者支援とアドボケイト, ⑤全身医学的評価, ⑥メンタルヘルス支援, ⑦チーム全員での事例検討会, ⑧ケースの追跡調査, ⑨組織的な能力(研修など), ⑩子どもを最優先にした設定がある。今後日本においても性虐待をめぐるネットワークを進化させるために, 医療-福祉-司法のMDT構築を促進する仕組みが必要である。
著者
田中 究
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.705-718, 2016-11-01 (Released:2017-05-17)
参考文献数
73

近代になって子ども虐待は民間福祉機関や個人によって気付かれ, 子どもの保護が始められ, それを公的機関, 司法が支援してきた。しかし, そのことで市民社会からは見えにくくなっていた。Kempら(1962)の「殴打された子の症候群(Battered Child Syndrome)」の報告は, 子ども虐待対応の枠組みを, 福祉モデルから医療モデルに変化させた。こうして, 子ども虐待は再発見されたのである。虐待された子どもの現す特異な行動は, 心的トラウマの症状として診断され, 社会病理ばかりではなく養育者の精神病理が虐待の要因として捉えられるようになった。その上で, 子どもの心的トラウマを評価し, 治療することの知見や研究が積み重ねられ, 治療技法が考案されている。さらに, 基本的なアタッチメントへの理解がすすみ, アタッチメントの再構築についても議論されるようになった。こうした治療的な関与には医療だけではなく, 福祉, 保健, 教育, 司法がそれぞれ相補的な役割を果たし, 協働していくことが一層重要である。
著者
桑原 斉 池谷 和
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.148-158, 2018-04-01 (Released:2019-08-21)
参考文献数
37

自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder: ASD)の社会的な認知度が向上し概念が整理されたのは,最近30年ほどのことである。この間に,社会の側ではメディアで報道される犯罪・触法行為についてASDとの関連が取りざたされることが増えているように思われる。また,医療の側ではASDによる犯罪・触法行為についてケースレポートによる報告が蓄積されている。これらの逸話的な報道・報告は,犯罪・触法行為とASDの親和性を強調するが,犯罪・触法行為とASDの関連についての科学的な事実は多くない。本稿では,犯罪・触法行為とASDの関係について,現在までの知見を概説し,若干の考察を加える。