著者
阿部 正人 内藤 信吾 水俣 健一
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.41-48, 2013-01-15 (Released:2016-08-31)
参考文献数
18
被引用文献数
2

静脈血栓塞栓症の早期発見のため,Dダイマーのカットオフ値を設定して,新しい予防・診断体制を確立し,身体拘束を施行した入院患者を対象にその有用性を検討した。Dダイマーが基準値0.5μg/ml以上で,エコー検査または造影CT検査によって血栓の有無を評価した,延べ186例を対象にROC解析を行った。感度,特異度などを考慮し,3.0μg/mlをカットオフ値とした。新しい体制では,Dダイマーが基準値以上でカットオフ値未満の場合は,エコー検査または造影CT検査をルーチンに行わず,SpO2測定を頻回に行い,3%以上の低下を認めた場合に,肺動脈血栓塞栓を疑い胸部および下肢造影CT 検査を検討することとした。2010年9月から2012年3月までに入院した,延べ38例の身体拘束患者において,カットオフ値未満で静脈血栓塞栓症の発症はなかった。静脈血栓塞栓症の診断に対し,Dダイマーのカットオフ値を設定することで,より効率的に診断することが可能となった。
著者
永松 俊哉
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.240-247, 2013-07-15 (Released:2016-12-28)
参考文献数
28

先行研究を概観すると,運動が抑うつ改善に有効であることに一定の合意が得られつつある。海外では質の高い介入研究の実施と,そのエビデンスに基づいたガイドラインも提示されている。運動の種類としては有酸素運動が効果的であり,高齢者には筋力トレーニングも有効とされている。その他の運動様式の効果検証はきわめて少なく,運動の負荷強度ならびに1回の運動に要する時間についても不明の点が多い。運動に伴う疲労を少なくし,かつアドヒアランスを重視するならば,なるべく低強度・短時間が望ましいと考えられる。しかし,国内の研究成果は少なく,精神科診療における具体的な運動の活用策は未だ定まっていない。今後は,日本人を対象とした抑うつ改善ための運動効果の検証が急務であり,作用機序の解明とともにエビデンスに基づいた運動実施ガイドラインの策定が待たれる。
著者
平井 啓
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.310-317, 2016-10-15 (Released:2022-11-05)
参考文献数
7

総合病院におけるサイコオンコロジーなどの身体疾患の領域において,患者や家族の精神医学的・心理学的問題への対応は必須であり,メンタルヘルスの専門家のコンサルテーションによる対応が求められる。精神・心理的コンサルテーション(psychiatric and psychological consultation)は,一般的なコンサルテーションと同様にコンサルタントとコンサルティからなる構造があり,そのなかで,問題解決プロセスに準じて,患者と家族の問題や,コンサルティの課題について包括的アセスメントを行い,それに基づく仮説構築と仮説に対する解決策を考え,それらをコンサルティに提示し,コンサルティと協働で事例の問題解決を進めていくものである。本論では,精神・心理的コンサルテーションの背景となっているコンサルテーション,包括的アセスメント,問題解決技法などの概念について整理を行い,特にコンサルタントに求められるスキルという観点から,この精神・心理的コンサルテーション活動の構造と機能について明らかする。。
著者
山下 洋
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.230-237, 2012-07-15 (Released:2016-05-29)
参考文献数
9

愛着理論は乳幼児期のみならず,思春期の情緒・行動障害への介入において重要な意義をもつことが精神保健の領域でも認識されてきている。本論文では,思春期の臨床における愛着の意義,その評価と介入について概観した。近年は愛着形成の過程とその障害やリスク状態までを含む次元的なスペクトラム・モデルが呈示され,ライフステージに沿った診断と評価が検討されていた。ことに思春期では,自律や性の問題に直面することが新たな脅威となり,愛着障害行動が生じることがさまざまな情緒・行動上の問題の背景として指摘されていた。治療では愛着に基づく介入として,脅威となる状況の変化とともに家族を含む支援システムが愛着対象として機能することが重要となる。
著者
木村 真人
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.2-10, 2011-01-15 (Released:2014-10-11)
参考文献数
31

わが国における脳卒中患者は,致死率の低下と高齢化に伴って増加を続けている。脳卒中後の後遺症として,うつとアパシーは非常に頻度が高く,脳卒中患者のQOLに大きな影響を及ぼす。精神症状を引き起こす病変部位や病態生理学的メカニズムについては,いまだに議論が続いている重要な課題である。脳卒中後うつ病の抗うつ薬治療によって,ADLや認知機能ばかりでなく,生存率までも改善させることが示されており,適切な診断と治療は非常に重要である。また,抑うつ心性を伴わないアパシーが本来のアパシーと考えられ,その場合には,SSRIのような抗うつ薬よりもドパミン作動薬などが有効であり,休養よりも活動的・行動療法的アプローチが必要になる。今後,脳卒中後患者に対してはチーム医療による対応とともに,適切なケアと援助を提供できるような地域ネットワークの構築が望まれる。
著者
荒井 宏
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.334-341, 2012-10-15 (Released:2016-06-18)
参考文献数
4

市中の総合病院では,児童精神科領域の治療だけに専念できる精神科医を確保できることは稀で,普段は大人の診療を行っている精神科医が子どもも診ていかなければならない。多忙ななかで子ども診療を行うためには,子どもの診療の特徴を理解し,それに応じた“工夫”をする必要がある。 受診経路の特徴としては,精神科治療の対象となる子どもの多くが小児科外来を受診しており,小児科医と上手に連携を取りながら診療にあたることが不可欠である。本稿では,始めに当院での児童精神科医療の現状について述べ,次に子どもの診療を行ううえで課題となるポイントをあげた。そして,それらの問題点を克服するための工夫として,当院で行っている①小児科外来スペースでの診療,②臨床心理士との業務連携,③質問紙や資料の有効な活用など,④外部施設の利用,について紹介した。
著者
西村 勝治 佐藤 恵里
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.42-51, 2011-01-15 (Released:2014-10-11)
参考文献数
64

全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)による神経精神病変(neuropsychiatric SLE:NPSLE)はSLE患者の約半数に出現し,予後不良,他の臓器病変合併の増加,QOLの低下と関連している。NPSLEの発症には微細な血管障害(vasculopathy),神経細胞に対する自己抗体の産生,髄腔内のサイトカインの産生など,多因子的なメカニズムが想定されている。NPSLEは疾患特異的な指標に乏しく,診断のためのゴールドスタンダードは存在しないため,NPSLE以外の要因をきちんと除外し,臨床症状,血液および髄液検査所見,脳波,脳イメージング,免疫学的マーカーなどに基づいて総合的に診断する。本稿では,NPSLEのコンサルテーションにおいて精神科医に求められる診断とマネージメントに焦点を当て,最近の知見を中心に概説した。
著者
冨岡 直 満田 大 中嶋 義文
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.33-40, 2013-01-15 (Released:2016-08-31)
参考文献数
13

一般医療への馴染みの薄い心理職が,精神科リエゾンチームの一員として有機的に機能するために必要な要件を明らかにすることを目的とし,他職種と協働するうえでみられる困難の要因と解決策について考察した。同チームは一般病棟で生じる問題の解決を助けるコンサルタントとして機能することが多いため,その視点をチーム内(コンサルタント間),チーム外(対病棟スタッフらコンサルティ)の二側面に分類して検討した。その結果,リエゾンチーム「内」における協働の困難は,チームは類似職種からなるものの,特に心理職の役割は不明瞭であるという点にあり,この解決には専門性の向上と相互尊重の姿勢が必要と考えた。リエゾンチーム「外」における協働の困難は,コンサルタントとしての機能発揮にあるが,医学・医療知識の乏しさゆえに問題自体を理解できないこともある心理職にとって,その障壁はことさら高い。この解決のためには見立て力の向上と,情報交換・問題解決の両レベルでのコミュニケーション能力の向上が重要と考えた。
著者
福榮 太郎 福榮 みか 石束 嘉和
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.55-62, 2013-01-15 (Released:2016-08-31)
参考文献数
21

Japanese Adult Reading Test(JART)は,認知機能障害のある被験者の病前の推定IQを測定する標準化された認知機能検査である。しかし臨床現場でJARTを使用していると,認知機能障害の進行とともにJARTの算出する推定IQも低下する印象を受ける。そこで本研究では,認知機能障害の程度と短縮版であるJART25の値との関連について検討する。またJART25と認知機能検査の下位項目について検討を行い,JART25と関連のある認知機能について検討を行う。もの忘れ外来を受診した828名を対象に,MMSEおよびHDS-RとJARTの関連を検討したところ,MMSEおよびHDS-Rの低値とJARTの低値に関連がみられた。またMMSE,HDS-Rの下位項目とJARTとの関連を検討した。その結果,JART25は,見当識,記憶,理解,遂行機能といった認知機能とは関連が弱く,注意,言語機能,数概念といった認知機能と強い関連を示した。以上の結果から,JART25の解釈に関しては一定の注意が必要であることが示唆された。
著者
野間 俊一
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.122-129, 2014-04-15 (Released:2017-06-03)
参考文献数
5

摂食障害治療にはさまざまな困難が伴う。摂食障害は栄養障害に対する身体管理を行う必要があるため,一般の精神科医から敬遠される傾向があるが,身体管理を最寄りの内科医に委ねることで精神科医の負担はずいぶん軽減するはずである。摂食障害に対して提唱されている複数の治療法の選択は難しいが,パーソナリティ傾向によって「反応・葛藤型」「固執型」「衝動型」に,症状発現の段階によって「急性期」「亜急性期」「慢性期」に分類することで,タイプと病期を目安にして治療法を選択することができる。摂食障害患者は一見病識を欠き治療意欲が乏しいと思われるが,それは彼らの自己愛のテーマとこの病気の嗜癖性のためである。彼らの自己愛を理解しつつ嗜癖としての食行動異常を安心して手放すことができるよう導くことが求められる。摂食障害治療では,身体面を含む現実状況へ配慮しつつ,彼らに安心を与える良好な治療関係を確立することが重要である。
著者
吉澤 門土 千葉 茂
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.48-57, 2014-01-15 (Released:2017-05-03)
参考文献数
36

成人における睡眠障害は4〜5人に1人の頻度でみられる。てんかんでは,この約2〜3倍高い頻度で睡眠障害がみられると報告されている。本稿では,睡眠障害の国際分類・診断,てんかん患者にみられる睡眠障害,および,てんかん発作と睡眠障害の鑑別について概説する。てんかん患者では,不眠症や,過剰な日中の眠気,閉塞性睡眠時無呼吸症候群,睡眠時随伴症,睡眠関連運動障害などが合併しやすい。睡眠障害を合併したてんかん患者では,てんかんは睡眠障害をもたらし,睡眠障害はてんかんを悪化させるという相互促進的な関連性が存在すると考えられる。したがって,てんかんにおける睡眠障害を発見・治療することはてんかんの治療としても重要である。てんかんと睡眠障害の鑑別診断に際しては,背景にある病態生理を明らかにするために,ビデオ・睡眠ポリグラフィ(video-polysomnography;V-PSG)を施行できる医療機関との診療連携がきわめて重要である。
著者
山田 了士
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.27-34, 2011-01-15 (Released:2014-10-11)
参考文献数
43
被引用文献数
1

近年の精神科医にとって,てんかんは徐々にその守備範囲から外れつつある。しかしてんかんをもつ患者において,不安・抑うつや幻覚妄想などの精神症状はかなり高い頻度で合併し,その生活の質にとって最も重要な臨床因子の一つである。自殺もまた,てんかんをもつ患者で頻度が高いことを考えると,精神症状を丁寧にスクリーニングし,治療することの意義は大きい。このように,てんかんの診療において精神科医の果たすべき役割は非常に大きいが,てんかんに伴う精神症状をよく理解している精神科医は必ずしも多くないと思われる。本稿ではてんかん自体に併発する精神症状や,抗てんかん薬などの治療によって惹起される精神症状について概説し,てんかん診療に重要な役割をもつと考えられる総合病院精神科医の理解を得たい。
著者
京野 穂集 竹内 崇 武田 充弘 池井 大輔 高木 俊輔 治徳 大介 西川 徹
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.361-366, 2012-10-15 (Released:2016-06-18)
参考文献数
7

自殺手段として飛び降りを選択した患者と,刃物による自傷を選択した患者との間では,どのような共通する特徴や差異があるかについて調査した。対象は2006年7月より2011年6月までの5年間に,自殺関連行動により救急搬送されERセンター救急科に入院となった患者718名のうち,自殺手段として高所から飛び降りた群(以下「飛び降り群」とする)(n=23名)と,浅いリストカットを除いた刃物による重篤な自傷(頸部,胸腹部,大腿部,腱断裂など)を用いた群(以下「刺傷群」とする)(n=21名)とを比較した。飛び降り群では,男性8名,女性15名と女性の割合が高かったが,刺傷群では男性14名,女性7名と男性の割合が高かった。今回の調査では,飛び降り群より,刃物による重篤な自傷群において,男性の比率がより高い傾向にあることが明らかとなった。また,両群ともに全体統計と比べ内因性精神障害(ICD-10診断のF2+F3)の割合が高い傾向にあった。 自殺企図の要因についてF2圏に注目してみると,飛び降り群(n=7)では自殺企図の要因として,心理社会的要因が半数を占めるのに対して,刺傷群(n=5)では全例とも幻覚妄想状態による自殺企図であることがわかった。刺傷という手段は飛び降りと比べ,より幻覚妄想に親和性の高い企図手段である可能性がある。
著者
中西 翔一郎 光安 博志 川嵜 弘詔
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.327-333, 2015-10-15 (Released:2018-11-01)
参考文献数
11

目的:九州大学病院コンサルテーション・リエゾン部門(以下CL部門)におけるステロイド誘発性精神障害(以下ステロイド精神障害)の発症率,副腎皮質ステロイド薬(以下ステロイド)の用量と精神障害発症頻度を調査する。方法:2008年4月〜2011年3月にCL部門に受診した1,106例の診療録を調査した。1)ステロイド精神障害が多かった5つの診療科(以下,5科)はCL未受診者も含めステロイドの投与方法と用量を解析した。2)5科のCL受診患者のステロイド精神障害発症と臨床的因子について多変量解析した。結果:CL部門受診患者のステロイド精神障害は2.3%だった。5科において注射剤投与の患者は有意にステロイド投与量が多く,ステロイド精神障害の有無で受診前1カ月のステロイドの1日最大量に有意差はなかった一方,ステロイド総投与量は有意に多かった。結論:1カ月のステロイド総投与量がステロイド精神障害の危険因子である可能性が示唆された。
著者
西 大輔 松岡 豊
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.248-253, 2013-07-15 (Released:2016-12-28)
参考文献数
33

総合病院精神科では,軽症や中等症のうつ病の診察を行う機会が多い。National Institute for Health and Clinical Excellence(NICE)やTexas Medication Algorithm Project(TMAP)といった治療ガイドラインでは,うつ病の軽症例に対する第一選択として抗うつ薬を推奨しておらず,うつ病に対する薬物療法以外の選択肢も求められていると考えられる。オメガ3系脂肪酸は,生活習慣に基づいたアプローチのなかでは最も研究が進んでいる介入法の一つである。本稿では,うつ病治療におけるオメガ3系脂肪酸の有効性とメカニズムに関するエビデンスをまとめた。また合わせて,筆者らが行ったオメガ3系脂肪酸によるPTSD予防を目指したランダム化比較試験を紹介した。
著者
中村 元昭
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.125-131, 2016-04-15 (Released:2019-03-19)
参考文献数
22

これまでのうつ病rTMS(repetitive transcranial magnetic stimulation)の臨床試験からわかることは,有効性の効果サイズが中等度であり,電気けいれん療法には有効性で劣るものの,安全性や忍容性において勝っているという点であろう。また,再発予防効果や維持療法としての有効性も徐々に検証されつつある。ただ,薬物治療に反応不十分な患者集団において,rTMSに反応する割合は3 〜4割といわれており,決して満足できる割合ではない。うつ病rTMSの対象集団を見極めて,治療アルゴリズムに配置することが重要である。rTMSの治療効果発現メカニズムについては仮説の域を出ないが,神経伝達物質,神経可塑性,マクロ的神経回路のレベルで概説した。また,うつ病以外の精神疾患に対してもrTMSの可能性が検証されつつあるため,それを紹介した。最後にうつ病rTMSの国内導入の概況と課題を解説した。
著者
谷口 豪 鮫島 達夫
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.113-120, 2016-04-15 (Released:2019-03-19)
参考文献数
32

電気けいれん療法(ECT)は1938年に統合失調症の治療法として開発されたが,背景にはけいれんと精神病症状は生物学的に拮抗するという仮説があった。その後,ECTは統合失調症以外にもうつ病にも有効であることがわかり,近年ではパーキンソン病や視床痛などにも適応を拡大している一方で,てんかん患者の精神症状に対するECTに関しては報告が少なく不明な点が多い。そのため今回は海外文献を基に考察を行った。その結果,てんかん患者の精神症状へのECTの安全性に関しては大きな問題はないと考えられるが,有効性に関しては統一的な見解が出せる段階とは言い難いと考えられた。さらに近年では,てんかんと精神症状の関係は当初考えられていた「生物学的拮抗」な関係より複雑であると考えられている。このため今後は,日本のてんかんを専門とする精神科医とECTを専門とする精神科医が連携して知見を蓄積し,世界に向けて発信していく必要があると考える。
著者
高田 宏宗 柳田 誠 富岡 孝仁 金井 講治 高屋 雅彦 木村 亮 影山 祐紀 竹村 昌彦 丸山 朋子 田尻 仁 松永 秀典
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.287-294, 2013-07-15 (Released:2016-12-28)
参考文献数
17

2007年7月から2012年3月に当センターで出産した精神疾患合併妊婦137例を対象に,胎児・新生児合併症と妊娠中の服薬との関連性を検討した。流・死産7例については向精神薬服用との関連は明らかではなかった。奇形8例の母親全員が妊娠初期に向精神薬を服用していたが,妊娠12週以前に服用していた99例のうち,母体が高齢の場合に奇形発生率が有意に高かった(母体35歳以上:30例中6例,35歳未満:69例中2例,p=0.0041)。さらに,服用した向精神薬の種類数も奇形の発生に有意に相関していた(p=0.0021)。流・死産,奇形以外の合併症については,出産直前の内服によって生じ得るものとそれ以外に分けて検討した。いずれも服薬群のほうが非服薬群より発生頻度が約50%高かった。本研究から妊娠初期に向精神薬を内服していた症例では,高齢妊婦および多剤併用という2つの因子が奇形発生のリスクを高めることが示唆された。
著者
永田 利彦
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.355-363, 2011-10-15 (Released:2015-06-24)
参考文献数
11

神経性過食症の概念が提唱されて四半世紀ほどしかならないのにかかわらず,摂食障害の精神病理は大きく変化し,複雑になる一方である。Fairburnが1981年に認知行動療法の有効性を報告して以来,各種のガイドラインは神経性過食症への最もエビデンスを有する治療としている。摂食障害の精神病理の複雑化に合わせて,Fairburnらは神経性過食症といった亜型分類にとらわれず,感情不耐性など弁証法的行動療法の要素も取り入れた強化認知行動療法を提唱している。しかし,大学病院を受診する摂食障害は数多くの併存症を有し,全般性の社交不安障害に対する認知行動療法や,自傷や自殺未遂といった衝動行為を次々に行う多衝動性に対し,弁証法的行動療法なども考慮する必要がある。
著者
松岡 豊 西 大輔
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.25-32, 2012-01-15 (Released:2015-08-26)
参考文献数
34
被引用文献数
1

レジリエンスを「かなりの逆境にもかかわらず,はね返す,またはうまく対処する能力」と定義した。魚油には,エイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸というω3系脂肪酸が豊富に含まれる。ω3系脂肪酸は脳内リン脂質成分の30%を占め,膜の維持,神経活動,神経可塑性などに大きな影響をもつ。先行研究より,うつ病の病因にω3系脂肪酸不足が関与している可能性が提唱されている。総合病院精神科では,さまざまな身体疾患患者,妊娠中の女性,外傷患者などに生じるストレス関連精神疾患への対応が求められることが多い。こうした患者に対しては,安全性,易実施性,易受容性の観点から,食生活への介入もレジリエンス向上の選択肢として考慮に入れることができる。うつ病とω3系脂肪酸に関する疫学研究・臨床研究,さらには健常者における介入研究,総合病院における臨床試験の経験などを紹介し,ω3系脂肪酸に秘められた可能性について提案した。