著者
瀬戸 洋一
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.77-83, 2014-10-01 (Released:2014-10-01)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

日本におけるバイオメトリック技術は,2004年に金融機関のATM(Automatic Teller Machine)への静脈認証装置の採用,2006年にはIC旅券,2007年にはIC運転免許証への顔データの実装というように,社会基盤システムに着実に展開された.2010年を境に米国においてバイオメトリック市場のパラダイムシフトを目指す「Post 9.11」という動きが出てきた.次のステージに向けた市場の拡大の可能性はあるが,民生利用や行政サービスなどに利用されるには,バイオメトリクス特有の問題への対策が以前にも増して重要となっている.つまり,識別,認証のほか,ビッグデータ分野への応用として追跡という新しい利用分野が立ち上がり,これらの市場拡大には,プライバシーへの対策技術が重要である.本稿では,今後必要な技術開発及び製品化のポイントについて述べる.
著者
新保 史生
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.217-230, 2020-01-01 (Released:2020-01-01)
参考文献数
91

AIや自律ロボットをはじめとする新興技術(エマージングテクノロジー)の急速な発展と産業における利用が議論される一方で,自律型致死兵器システム(LAWS)の研究開発も進展している.国際的な議論としては,特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の枠組みにおける規制について検討がなされ,今後のガイドとなるべき原則指針が提案されている.本稿では,自律型致死兵器システムについて,LAWSに適用される国際人道法,国連軍縮研究所(UNIDIR)の報告書,CCWのLAWS非公式専門家会議から政府専門家会合(GGE)における議論の状況,提案された原則指針の内容,法的・倫理的側面をめぐる検討状況を確認する.
著者
石橋 功至
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.16-24, 2021-07-01 (Released:2021-07-01)
参考文献数
53

数十億を超えるセンサが環境中のあらゆる情報を収集し,これを機械学習によって活用することで,災害の予測や,これまでにない公共サービスを提供する社会の実現が期待されている.しかし膨大な数のセンサを長期的に稼働させる上で,電池切れに伴うメンテナンスコストは無視できない.この問題に対して,光や熱,振動,化学反応,浮遊電磁波といった様々な物理現象から電力を得る環境発電 (EH: energy harvesting) が注目されている.EH電源を用いることで,センサはメンテナンスなしで半永久的に電源供給を受け,情報を伝送することができるが,周囲の状況によって通信に使える電力量が変動してしまうため,従来の安定的な電源供給を前提とした無線通信設計とは異なる設計が必要となる.本稿ではEH電源の原理を紹介した上で,様々なネットワークトポロジにおけるEH電源を用いた無線通信の研究動向,また残された問題について解説する.
著者
板倉 文忠
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.3_25-3_30, 2010-01-01 (Released:2010-10-01)
参考文献数
6

音声信号に対する最も重要な分析方式であるLSP(線スペクトル対)発明の経緯について述べる.PARCOR(偏自己相関)係数方式及びLSP方式は,音声の周波数スペクトル,すなわち声道(口の形)を表現する方法である.これらの方式はいずれも世界中の携帯電話で使われ続けている.PARCOR方式及びLSP方式は,それぞれ,1969年,1975年に日本電信電話公社電気通信研究所(通研)において発明された.本稿では,これらの方式の誕生の経緯を明らかにするために,その出発点(1966年)となった最ゆうスペクトル推定法による音声分析合成方式(ML方式と略す)までさかのぼって紹介する.
著者
高野 雅典
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.275-281, 2017-04-01 (Released:2017-04-01)
参考文献数
92

ソーシャルビッグデータはヒトや社会について分析し理解するための強力なツールである.ソーシャルビッグデータ登場以前には観測が難しかった大量のヒトの詳細な社会的行動を分析できるからである.本稿では社会科学の研究トピックのうち協調行動・社会的グルーミングと社会構造・内集団バイアス・性的選好の四つについて紹介する.それぞれ先行研究をレビューした後,関連するソーシャルビッグデータ分析による研究について述べる.またWebの普及に伴って新たに発生した問題に関するソーシャルビッグデータ分析研究も紹介する.
著者
佐藤 敦
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.302-311, 2012-04-01 (Released:2012-04-01)
参考文献数
14

パターン認識とは,信号の空間的・時間的変化として観測されるパターンを,それが属すべきクラスに対応付ける操作のことである.近年のコンピュータ技術の進展に伴い,大規模データを用いた技術開発が可能になり,パターン認識を最適化問題として捉える機械学習的アプローチが一般的となっている.本稿では,パターン認識問題における数理的側面について,大局的な視点で解説する.
著者
Tomo NIIZUMA Hideaki GOTO
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
IEICE Transactions on Information and Systems (ISSN:09168532)
巻号頁・発行日
vol.E100.D, no.3, pp.511-519, 2017-03-01 (Released:2017-03-01)
参考文献数
24
被引用文献数
3

Wireless LAN (WLAN) roaming systems, such as eduroam, enable the mutual use of WLAN facilities among multiple organizations. As a consequence of the strong demand for WLAN roaming, it is utilized not only at universities and schools but also at the venues of large events such as concerts, conferences, and sports events. Moreover, it has also been reported that WLAN roaming is useful in areas afflicted by natural disasters. This paper presents a novel WLAN roaming system over Wireless Mesh Networks (WMNs) that is useful for the use cases shown above. The proposed system is based on two methods as follows: 1) Automatic authentication path generation method decreases the WLAN roaming system deployment costs including the wiring cost and configuration cost. Although the wiring cost can be reduced by using WMN technologies, some additional configurations are still required if we want to deploy a secure user authentication mechanism (e.g. IEEE 802.1X) on WLAN systems. In the proposed system, the Access Points (APs) can act as authenticators automatically using RadSec instead of RADIUS. Therefore, the network administrators can deploy 802.1X-based authentication systems over WMNs without additional configurations on-site. 2) Local authentication method makes the system deployable in times of natural disasters, in particular when the upper network is unavailable or some authentication servers or proxies are down. In the local authentication method, users and APs can be authenticated at the WMN by locally verifying the digital certificates as the authentication credentials.
著者
松岡 猛
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.128-135, 2011-10-01 (Released:2011-10-01)
参考文献数
8

平成23年3月11日に発生した福島第一原子力発電所事故を確率論的安全評価(PSA)の観点から検討した.地震及び津波により原子力プラントの全電源が喪失し,炉心溶融に至った事故である.全電源喪失時に起こり得る事象/事態をそれらの連鎖・分岐で表現し,炉心損傷確率を算出した.現実には3基の原子炉で炉心損傷が発生してしまったが,評価結果では7日後でも炉心損傷確率は1号機では0.71であり,2,3号機では0.12と小さな値であった.この評価結果から,事故を防ぎ得る可能性がかなりあったことが分かった.その解析結果を基に,福島第一原子力発電所の事故について考察した.
著者
藤野 洋輔 福本 浩之
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.284-297, 2022 (Released:2022-03-01)
参考文献数
20

水中での通信には,吸収減衰が少なく,海水の濁りや太陽光の干渉等の影響を受けない音響通信が一般的に利用されている.しかし,音波の伝搬速度は電波と比べて5桁以上遅いことから,遅延広がり,ドップラー広がりが共に桁違いに大きい二重選択性フェージングが発生し,その伝搬路変動の克服が課題である.一般的に通信の高速化には高周波数帯を利用した広帯域伝送が有効であるが,高い周波数を利用した際により顕著となる高速な伝搬路変動に追従可能な波形等化技術が確立されていなかったため,水中音響通信の高速化には限界があった.近年,高周波数帯利用時に発生する高速な伝搬路変動の克服を目指し,マルチパス波の一部を空間領域で抑圧することで遅延広がり,ドップラー広がりを圧縮する時空間等化技術が提案されている.本論文では,時空間等化技術を解説するとともに,その動作原理や伝搬路変動への耐性を確認するための計算機シミュレーション,伝送実験について紹介する.
著者
新崎 卓
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.108-112, 2017-10-01 (Released:2017-10-01)
参考文献数
21

近年,生体認証の利用が社会の様々な分野で適用されている.生体認証に用いる識別データは2017年5月30日に施行された改正個人情報保護法の下で個人情報(個人識別符号)とされ,個人識別符号としての取り扱いについて明確化された.一方で生体情報の保護を強化しながら活用するテンプレートプロテクション技術の研究開発が進められている.本稿では,改正個人情報保護法やEU 一般データ保護規則と生体認証の関係と,情報漏えい対策としての生体情報保護技術の扱いについて述べる.
著者
満倉 靖恵
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.180-186, 2020-01-01 (Released:2020-01-01)
参考文献数
14
被引用文献数
4

近年,人の感情・感性を定量化する試みがなされている.筆者らは脳波からその感情・感性をリアルタイムに取得する手法を提案し,様々な応用を行ってきた.特に脳を扱う上で重要な計測法やその評価法など,その研究は多岐にわたる.性差による違い・国民性による違いはあるのか,などの研究から,マウスを用いた情動解析などの研究を行っている.特に感情・感性については,人間が持つ高次な機能の一つであり,感性は日本で研究が始められたことから,今後も大事にすべき研究領域であると考える.本稿ではこれらを行った背景や手法について述べ,今後の展望について言及する.
著者
荒木 智宏
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.205-215, 2019 (Released:2019-12-01)
参考文献数
53
被引用文献数
1

長い助走期間を終えて,宇宙での光通信はようやく実用段階に到達した.本論文では,まず宇宙光通信のれい明期からの歴史について概説する.次に,世界の宇宙光通信の研究開発動向について距離別に分類し述べる.更に,宇宙光通信を実現するための技術及び課題を,主に大容量通信技術の観点から紹介する.その中で,特に送受信技術については,IoT 時代を支える大容量通信技術である光ファイバ通信システム・デバイス技術の成果を活用していることを,国際標準化の動向とともに紹介する.
著者
庄木 裕樹 田邉 康彦
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.11, pp.11_12-11_22, 2009-12-01 (Released:2011-06-02)
参考文献数
25

無線通信システムは,通信速度の高速化への要求とその実現によって発展してきた.そして,現在も,更なる高速化を目指して,研究開発や標準化が進められている.では,今後,どこまで高速化されるのか? 高速化できるのか? 本論文では,無線通信の更なる高速化に対する要求とその可能性について探る.