著者
矢武 陽子
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.197-204, 2019-02-28 (Released:2019-03-21)
参考文献数
13

2017年6月に神奈川県内東名高速道路上で発生したあおり運転等に起因する死亡事故が発端となって、あおり運転の危険性が日本で注目されている。しかしながら、同運転行為は今に始まったことではなく、古くからイギリス等で研究されてきた。そこで、この調査では、先行研究をレビューし、そこで明らかになった特徴が日本の事例で当てはまるかを検証し、日本におけるあおり運転の特徴を明らかにすることとする。過去の研究では、年齢が若い、男性、社会的階級、場所および時間、きっかけ(トリガー)が攻撃的運転の要因になっていると提唱している。本稿での事例調査は、自動車運転死傷処罰法に基づく危険運転致死傷罪(妨害目的)が適用された事件を対象とした。その結果、年齢、性別、社会的階級、きっかけ(トリガー)および運転態様については、先行研究と似たような特徴が見られたが、時間では見られなかった。
著者
山川 勝史
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.49-56, 2021-06-30 (Released:2021-06-30)
参考文献数
11

新型コロナウイルス疾患の流行と同時に感染が懸念される場所の一つとして、満員電車が挙げられている。著者は、目に見えないウイルスの振る舞いを流体シミュレーションにより可視化し、これまでに満員電車における感染シミュレーションを実施していた。新型コロナ感染が広がり始めた2020年2月以降、本シミュレーション結果はテレビ、新聞、雑誌等数多くのメディアで取り上げられたものの、放送時間や記事面の制約による説明不足のため誤解を与えるものも少なくなかった。本論説では、これまでにメディアで紹介されたシミュレーションの正確な情報を記載するとともに、著者の考える満員電車における感染リスクについて記述している。ただし結論からいうと、ほとんどの乗客がマスクを着用している日本国内における電車内では、これまで同様、今後もクラスターは発生しにくい環境であると考える。
著者
大場 紀章
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.134-141, 2022-10-31 (Released:2022-10-31)
参考文献数
7

近年の自動車業界には、100年に一度の大変革といわれた「CASE革命」から、世界的な「脱炭素」トレンド、さらには、ロシアのウクライナ侵攻による「脱ロシア」という極めて大きな変革の波が連続で押し寄せている。特に「脱炭素」というトレンドは、従来の温暖化政策とは一線を画しており、筆者の考えでは、自動車業界こそが「脱炭素」の主眼にある。そして、実は「脱炭素」とは「脱石油」を意味している。来たるべき「ポスト石油時代」へ向けて、エネルギー供給の観点からも、交通政策・自動車産業政策が語られることを期待したい。
著者
柴山 多佳児
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.211-220, 2022-02-28 (Released:2022-02-28)
参考文献数
33

欧州では人力キックボードは玩具、電動のものは車両とする枠組みが整い、道路交通上は、おおむね自転車の規則を援用する方向性に落ち着きつつある。電動キックボードのシェアサービスでは、違法駐輪と都市内での偏在が大きな課題である。行政によるモニタリングの仕組みの構築と、前者に対しては、さらに事業者の撤去責任を制度化し、これら課題に対処する方向である。都市交通全体の中で、電動キックボードが徒歩など、他の交通手段をどう代替し、その結果、交通政策目標に対して、どのような影響を及ぼすかは、さらなる研究が必要と考えられる。
著者
萩田 賢司
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.221-230, 2022-02-28 (Released:2022-02-28)
参考文献数
17

新たな電動モビリティの安全性の課題を検討するために、原動機付自転車、自転車、車いす等が関係した交通事故に関して、ヘルメット、走行位置、縦断勾配、尾灯、前照灯、運転免許の有無に着目した分析を実施した。ヘルメットは、高速での衝突時に効果が高いこと、車種ごとに縦断勾配別事故発生割合が変化すること、尾灯、前照灯の見えやすさが不足している場合があること、運転免許保有者は自転車通行方法の遵守割合が高いことなどが示され、新たな電動モビリティの安全面のさまざまな課題が推察された。
著者
浜島 裕英
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.43-52, 2019-06-30 (Released:2019-07-10)
参考文献数
5

Formula One(F1)のタイヤ開発に焦点を当て、どのような経緯で現在のタイヤに至ったのかをたどる。エンジンの出力や車両の重量配分の影響を受けて、タイヤは変貌していった。タイヤの幅広化、合成ゴムの配合技術の発達によるスリックタイヤの登場、そして、バイアスタイヤからラジアルタイヤへのプライ構造の革新的変化が、その主たるものだろう。加えて、燃料消費とは無縁と思われがちなレース用タイヤ開発で生まれた最新の技術が、市販の低燃費タイヤに活かされているというユニークな点についても紹介する。
著者
一ノ瀬 友博
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.22-32, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
71

自動車優先の都市から歩行者中心の都市への転換は、世界で進みつつある。2000年代前半にウォーカブル指標が提案され、都市の歩きやすさについて数々の検討がなされてきた。歩くことが人間の健康にさまざまな効果をもたらすことは、多くの研究によって証明されている。ますます深刻になる地球環境問題、そして、2019年末からの新型コロナウイルス感染症拡大は、この都市の転換を一気に押し進め、15分都市など、ヒューマンスケールの持続可能な都市の構築に向かっている。本稿では、歩行という視点で1990年代終わりから現在まで、どのような議論が世界で繰り広げられてきたか概観する。
著者
金子 賢司
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.74-80, 2018-10-31 (Released:2018-11-01)

警視庁では、都心部においては1つの区を複数の警察署で管轄することにより、事件事故などのさまざまな事象や、運転免許等の各種届出などの大量行政に対応しているが、島嶼部はこれとは逆に、9つの町・村を大島、新島、三宅島、八丈島、小笠原の5つの警察署で管轄している。島嶼部は交通量が少ないこともあり、比較的交通事故の発生は少ない。交通事故の特徴として、観光客がレンタカーで事故を惹起しているケースが多い。
著者
矢野 伸裕 横関 俊也 森 健二
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.190-197, 2021-02-28 (Released:2021-03-03)
参考文献数
20
被引用文献数
1

2017年11月より、高速道路の一部区間において最高速度が試行的に100km/hを超えて引き上げられた。本稿では、この引き上げによる交通状況への影響を検討した研究事例を報告する。そこでは、110km/h規制や120km/h規制への引き上げによる影響が、走行速度の変化、車線変更回数の変化、衝突余裕度(Margin-To-Collision)を指標とした追い越し時の追突リスクの変化、の3つの観点から検討された。2019年3月までのデータでは、総じて最高速度引き上げによる大きな影響はなかったが、一部には興味深い変化も確認された。今後、影響を長期的なスパンで観察する必要がある。
著者
岡本 健
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.51-57, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
20

まず、コンテンツツーリズムについて、政策的な注目、社会に浸透していった経緯、研究的関心を整理する。その際、筆者のこれまでの研究成果を交えながら紹介していく。次に、コンテンツ産業市場やアニメ産業市場の動向を整理することで、インバウンド振興の可能性について論じる。最後に、コンテンツツーリズム研究から導き出された空間概念を用いて、今後の研究および実践の課題を示すとともに、コンテンツのアーカイブとデータベースの整備の必要性を述べる。
著者
橋田 克己
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.53-62, 2019-06-30 (Released:2019-07-10)

本田技研工業(株)の創業者である本田宗一郎氏の「レースは走る実験室」「レースをやらなければ日本の車は良くならない…」という熱い想いから鈴鹿サーキットは誕生した。サーキットでは、車やバイクの限界性能まで突き詰めることでしか得られない『技術』が生まれる。しかし、テストを行うのはいつの時代も生身の人間であり、限界を超えてしまったときに、その被害を最小限に食い止めることは常に最重要課題であり続けている。そして、そこで培われた技術が市販車にフィードバックされることで、乗員の安全性を高めていく。本紹介では、「走る実験室」という使命のもと、たゆまず施設の安全性を高めてきた鈴鹿サーキットの安全対策について、その一部を紹介する。
著者
小川 圭一
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.157-163, 2021

<p>「飛び出し坊や」とは、子供の飛び出しに対する注意喚起をドライバーに促すために設置された、子供などの絵が描かれた看板である。滋賀県内では多数の飛び出し坊やが設置されている。これらは自治会やPTAなどの地域住民が自主的に設置したり、地域住民からの依頼によって地域の交通安全協会が設置したりしているものであるため、地域住民がどのような箇所を危険と感じているかを把握することができる。本稿では、滋賀県草津市、大津市の4小学校区を対象に「飛び出し坊や」の設置状況の実態調査を行い、その特徴を分析する。</p>
著者
辻村(伊藤) 貴子
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.22-31, 2021-06-30 (Released:2021-06-30)
参考文献数
33

新型コロナウイルス感染症の日本における全国的な感染拡大は、医療提供体制の確保をはじめ、社会、経済、教育など、さまざまな領域で数多くの問題を生じさせた。本稿は、感染症と法の関わりについて論じる。法に基づく行動制限措置について、憲法、行政法等に基づく対応の現状や周辺問題に言及する他、患者や家族等に対する偏見差別について、過去のハンセン病政策への反省を踏まえた上で、法的な観点から考察する。
著者
岡本 健
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.51-57, 2020

<p>まず、コンテンツツーリズムについて、政策的な注目、社会に浸透していった経緯、研究的関心を整理する。その際、筆者のこれまでの研究成果を交えながら紹介していく。次に、コンテンツ産業市場やアニメ産業市場の動向を整理することで、インバウンド振興の可能性について論じる。最後に、コンテンツツーリズム研究から導き出された空間概念を用いて、今後の研究および実践の課題を示すとともに、コンテンツのアーカイブとデータベースの整備の必要性を述べる。</p>
著者
合田 美子
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.51-59, 2023-06-30 (Released:2023-06-30)
参考文献数
21

自動運転の高度化に伴い、複数のレベルの自動運転車が混在するようになる。自動運転のレベルによって、自動車の挙動、ドライバーの役割などが異なってくる。このような社会で、安全で安心で円滑な交通を実現するためには、システムや法規などの構造的なアプローチだけでなく、安全な態度と行動を取るドライバーや交通利用者の育成などの教育的手法を用いる必要がある。本稿では、教育工学の観点から、安全教育の仕組みづくりや仕掛けを提案する。特に、自動運転に関して学ぶべき内容、教材、教授法について、実証的検証により効果のあった方法について解説し、今後目指すべき方向性について検討する。
著者
栗田 啓子
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.113-120, 2021

<p>本稿の目的は、フランスにおいて都市間鉄道の時間帯・曜日別運賃が広く支持されている要因を2種類の社会・文化的側面から解明することである。第一の側面として、フランスでは、通勤・通学客を主体とする都市内交通と観光客を主体とする都市間交通が明確に区別されていること、第二の側面として、フランスに固有の政府のエンジニアが公共交通の価格設定や差別料金の理論化に取り組み、差別料金が社会全体の利益に貢献することが納得的に示されたことを明らかにした。</p>
著者
松尾 幸二郎
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.182-189, 2021

<p>本稿では、速度マネジメントのEngineeringアプローチおよびEnforcementアプローチにおける比較的新しい技術の動向について紹介する。具体的には、欧州諸国で2000年頃から研究や実証が始まったIntelligent Speed Adaptation(ISA)やAverage Speed Enforcement(平均速度取締)、および国内における新しい速度取締技術である可搬式オービスの動向について紹介するとともに、Evaluationという視点から速度取締の効果評価の視点について解説する。</p>
著者
松尾 幸二郎
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.182-189, 2021-02-28 (Released:2021-03-03)
参考文献数
61

本稿では、速度マネジメントのEngineeringアプローチおよびEnforcementアプローチにおける比較的新しい技術の動向について紹介する。具体的には、欧州諸国で2000年頃から研究や実証が始まったIntelligent Speed Adaptation(ISA)やAverage Speed Enforcement(平均速度取締)、および国内における新しい速度取締技術である可搬式オービスの動向について紹介するとともに、Evaluationという視点から速度取締の効果評価の視点について解説する。
著者
下ノ村 和弘
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.100-107, 2019-10-31 (Released:2019-10-31)
参考文献数
16

マルチロータ型ドローンの技術的側面について解説する。まず現在、広く用いられているマルチロータ機に共通するメカニズムやハードウェア構成、GPSを用いた自動飛行について述べる。次に、今後の応用展開において研究開発が必要と思われる技術的課題と展望について整理する。さらに、高所作業への応用やより自由度の多いマルチロータ機の開発、環境認識や制御への機械学習の導入といったドローンの応用範囲をさらに広げ得る研究開発についても述べる。
著者
青木 俊介 菅原 義治 森口 将之 羽藤 英二
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.6-14, 2018-06-30 (Released:2018-08-08)

車、バイク、さらに鉄道やバス、タクシーなどの公共交通も含めたモビリティとは、私たちの暮らしと深く関わるものであり、そこに施されたデザインもまた、生活環境や都市空間、街の風景の一部になるものとして、多大な影響力を持っている。社会状況や技術革新、開発者の思考性や思い、利用者のライフスタイルやニーズなどが複雑に絡み合う中から生まれるモビリティデザインは、時代を映す鏡であり、単に“乗り物”という枠を超えて、そこにはさまざまなものが見えてくる。それぞれの専門の立場からモビリティデザインの系譜を辿るとともに、日本におけるモビリティデザインがどのような方向に進もうとしているのか、その将来像と可能性をひもといていく。