著者
常川 真央 松村 敦 宇陀 則彦
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.42-51, 2013-10-16 (Released:2013-10-16)
参考文献数
5

近年,ウェブ上で読書状況を公開し,他人と感想などを伝え合う読書支援ウェブサービスが盛んになっている.読書支援ウェブサービスでは,読者同士のコミュニケーションを支援するために,興味が類似したユーザとの出会いを支援する機能が不可欠である.そこで本研究では,類似の読書傾向を持つ読者を発見する手法として"NDC ツリープロファイリング"を提案する.NDC ツリープロファイリングは,日本十進分類法 (NDC) に基づいてユーザの読書傾向からツリー状のユーザプロファイルを作成する.そして,ユーザ同士のプロファイルを比較することにより,読書傾向の類似したユーザを発見する.評価実験を行った結果,ランダム推薦方式に対して本手法が統計的に有意に精度が向上した.一方,共通書籍冊数による手法と TF-IDF によるベクトル空間モデルを利用した手法に対しても精度は高かったものの,統計的に優位な差はなかった.十分な精度向上はできなかったものの,本研究で提案した NDC ツリープロファイリングは,階層構造を持ち,階層毎の重みを調節することでより繊細にユーザの関心を捉えられる可能性を持っている.さらなる調整を行なうことでより有効な類似読者発見を実現できる可能性がある.
著者
平山 陽菜 佐藤 翔 山下 聡子 岡部 晋典 HIRAYAMA Haruna SATO Sho OKABE Yukinori
出版者
情報メディア学会
雑誌
第11回情報メディア学会研究大会発表資料
巻号頁・発行日
pp.32-36, 2012-07-07

本調査では、非正規職員からみた指定管理者制度の実務的側面を、自治体直営図書館との対比を軸としたインタビューに基づき描き出す。被調査者は待遇に対し不満はあるものの、指定管理者制度導入以後、導入以前よりも業務に対しやりがいを感じていた。これは図書館サービスへの自発的提案や自己研鑽の機会が認められるようになったためである。労働者の視点からすると、指定管理者制度導入館の方が魅力的に感じる場合があることが確認された。
著者
矢野 涼介
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.41-61, 2019-11-22 (Released:2019-11-22)
参考文献数
39

本研究では、日本全国の公共図書館において、排外主義に関連する書籍について所蔵調査を行い、公共図書館の所蔵のバランスや、排外主義に関連する書籍はどのようなものが所蔵されやすいのかを明らかにした。2000 年以降に出版された、排外主義および反排外主義に関連する書籍を調査対象とし、内容に即してこれらの書籍を「排外書籍」「反排外書籍」「中立書籍」に分類した。カーリル図書館 API が対応している 1,344 の図書館システム、5,333 の日本の公共図書館について、調査対象書籍 162 点の所蔵調査を行った。図書館への所蔵に影響を与える諸要因について回帰分析を行ったところ、書籍に反排外書籍的な主張を含んでいると、自治体内の図書館に所蔵されやすいことが分かった。排外書籍と反排外書籍のバランスを示す「偏り尺度(d)」を図書館別に測定したところ、都道府県立図書館は他の設置母体の図書館に比べて、排外書籍を所蔵しない傾向にあることが明らかになった。
著者
河田 隆 永田 治樹
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.15-31, 2014-11-26 (Released:2014-11-26)
参考文献数
12

多くの家庭に録画機器が普及し,テレビ番組を録画して自分の好きな時間に視聴する,いわゆるタイムシフト視聴が容易になった.その上,近年動画共有サイトを通じてテレビ放送の関連動画を視聴できるようになり,テレビ番組の視聴形態が多様化している.本研究では,動画共有サイトの利用者が増えている環境下において,これまで多く利用されてきた家庭用録画機器が人々にどのように捉えられているかを確認する調査票調査を実施した. その結果,動画共有サイトを利用しているグループはそうでないグループと比べ,録画機器を用いて番組録画を行う頻度が高く,また録画した番組をダビング保存しようとするなど家庭用録画機器をより積極的に利用する傾向にあった.さらに,先行論文で明らかにした五つのテレビ視聴の態度と家庭用録画機器の利用状況との関わりについて,テレビ番組に対して高関与な人々は放送番組の録画や再生の頻度が高いことが確認された.

9 0 0 0 OA 閉鎖かつ開放

著者
原島 大輔
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.60-80, 2015-03-05 (Released:2015-03-16)
参考文献数
62

本稿で提示する《閉鎖かつ開放》の概念は,他律性ないし物質的な開放性と,自律性ないし情報的な閉鎖性との,共立である.それは,システムの主観性にとっては事故的-事後的な失敗として経験される拘束としての現実のなかで,そのシステムが自己準拠的/自律的に作動している状態である,と記述できる.この閉鎖かつ開放について,ネオサイバネティクスとりわけ西垣通の HACS モデルを参照しながら説明する.閉鎖と開放の共立が生命システムの条件であるから,閉鎖と開放のいずれか一方のみの徹底はシステムの生命性を失わせるが,現行の情報技術環境にはその傾向がある.本稿は,そのような環境における生命システムにとって,固有の閉鎖かつ開放を受け入れることの重要性を主張する.また,そのために閉鎖と開放を媒介する作法としてのメディア・アートのひとつの解釈を,主に三輪眞弘の「逆シミュレーション音楽」を参照しながら提案する.
著者
岡根 好彦
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.67-80, 2020-11-16 (Released:2020-11-16)
参考文献数
53

検索エンジンで機械的に表示された検索結果が表現の自由で保障されるかについて,米国の裁判例や学説は,①検索エンジンのプロセスや結果表示を意見とみるアプローチ,②マス・メディアの編集行為とみるアプローチを通じた検討を示唆している.①のアプローチからは,検索エンジン自体の意見として保障することは”人”ではないので認められず,プログラム作成者の意見として保障することも,検索結果にプログラム作成者の意見は通常反映されていないため,認められない.②のアプローチからは,検索エンジンは編集上の地位を通じて表現をコントロールしていないし,表現物を収集して全体として1つの表現を構成してもいないので,編集行為としても保障されないとの結論が導かれる.
著者
新藤 透
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1-10, 2004 (Released:2004-12-14)
参考文献数
11

『新羅之記録』は,中世・近世初期の蝦夷地(北海道)の様子を今日に伝えている唯一の史料である.明治後期から北方領域を研究する歴史家は,必ず使用してきた史料であり,その重要性は今日でも変わらない.『新羅之記録』は,貴重な史料ではあるが,編纂者が近世期の蝦夷地の大名である松前氏の一族,景広であることから,松前氏の蝦夷地統治が歴史的に正統性を持つように,故意に史実を解釈しているのではないかと指摘されている.それ故,『新羅之記録』自身の史料研究が不可欠であるが,今まで行われてこなかった.小稿では,『新羅之記録』の写本を収集し,書誌事項を明らかにし,簡単ではあるが分類整理を行った.その結果,近代に写本が多く作られ,流布したことが判明した.また,簡略ではあるが写本の系統がみえてきた.更に内容まで踏み込んでの検討が必要ではあるが,その前段階の研究を行ったものである.
著者
長谷川 幸代
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.52-61, 2014-02-14 (Released:2014-02-14)
参考文献数
18

本研究は,人々が公共図書館と書店にもつイメージについて調査,分析,考察することを目的としたものである.図書館情報学をコースとして選択している大学生と,実際に公共図書館を利用している人を対象に,公共図書館と書店について抱いているイメージの内容についてのアンケート調査を行い,その結果を分析,比較した.大学生は,書店のイメージの方が図書館に比べてややポジティブなイメージをもつ項目が多いことが判明した.実際に公共図書館を利用している人にも同様の質問を行ったところ,公共図書館と書店のイメージの差が学生の場合よりも小さく,公共図書館と書店のどちらに対しても比較的ポジティブなイメージをもつ傾向があることが分かった.また,書店は気軽に立ち寄れる場というイメージがあることがわかった.
著者
岡野 裕行
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.29-40, 2019-06-28 (Released:2019-06-28)
参考文献数
61

大学図書館における学生協働の多くは,大学図書館職員が図書館業務の一部を学生に任せる形態になっている.そのため,当初は学生と大学図書館職員のみに関係する活動と認識されていた.この取り組みが全国各地の大学へと普及するにつれて,大学図書館職員以外の人や組織との協働関係も築かれるようになった.また,協働関係が多様化することで,その活動場所も大学図書館内に制限されることなく,空間的な広まりも見られるようになった.学生が自らを協働の主役に位置づけ,立場の異なる人たちと協働関係を築くことで,大学図書館の活性化活動で培った力を,さまざまな機会に応用できるようになった.学生たちが協働相手とパートナー関係を結び,学びの形を自らデザインし直す機会を得ることで,学生視点による創造的活動の成果を大学図書館へ還元することができる.
著者
間部 志保 岩澤 まり子 緑川 信之
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.75-87, 2011-12-22 (Released:2011-12-22)
参考文献数
15

W3C勧告として公開されたSKOS(Simple Knowledge Organization System)は,既存の知識組織化体系を再構築せずに共有し,ウェブを介してリンクすることを目的とした共通データモデルかつ言語である.しかし,シソーラス等の用語体系への適用に比べ,分類体系への適用に関する論議は十分ではなく,有用性が実証されているとはいいがたい.本稿では,デューイ十進分類法を例として取り上げ,SKOSの字句ラベルに着目し,分類体系の適切な表現方法を検証した.その結果,用語体系と分類体系におけるSKOS概念および字句ラベルの表現方法に差異は認められず,分類体系の基本的な要素の表現にも対応可能であり,既存のいかなる知識組織化体系へも適用の可能性を有していることが明らかになった.
著者
間部 豊
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.45-61, 2011-09-13 (Released:2011-09-13)
参考文献数
61

本研究の目的は電子書籍の「出版・流通・利用」に関するこれまでの動向と,電子書籍に対する図書館の対応として電子図書館の動向を俯瞰し明らかにすることである.電子書籍の動向においては,電子書籍端末の動向,電子書籍フォーマットの動向,電子書籍出版の動向,電子書籍の著作権に関する動向の4つについて分析を行った.また図書館における電子図書館の動向においては,国立国会図書館・大学図書館・公立図書館の館種別に分析を行った.分析の結果,電子図書館プラットフォームの構築において(1)電子書籍コンテンツの著作権管理と(2)電子書籍の資料管理方法が大きな検討課題となることが明らかになった.
著者
山西 (増井) 史子
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.1, 2013-05-27 (Released:2013-05-30)
参考文献数
44
被引用文献数
1

本研究は,日本文学と日本語学分野の学会発表を追跡調査し,それにより当該分野の研究における学会発表の現状を明らかにすることを目的としている.調査対象は,日本文学と日本語学の主要 6 学会で 2000 年 ~ 2009 年の 10 年間に行われた学会発表 1,421 件である.調査項目は,学会発表の後に同内容の論文が出版された割合,論文が出版された場合の掲載メディア,論文が出版された場合のタイムラグの 3 点である.結果は,学会発表を行った後に同じ学会の学会誌に論文を掲載していたのは 23% であった.また,4% は学会発表を行った学会以外の学会誌など注目度の高いメディアに掲載されていた.学会発表後に同内容の論文の出版が確認出来たのは全体の 38% であった.これらの結果から,学会発表の内容を論文として出版することの難しさが明らかになった.
著者
吉川 次郎 高久 雅生
出版者
情報メディア学会
雑誌
第15回情報メディア学会研究大会発表資料
巻号頁・発行日
pp.39-42, 2016

あらまし:Wikipediaにおける日本国内の学術情報の参照について、研究分野および言語版ごとの特徴や差異を明らかにするため、日本語版、英語版、中国語版におけるJ-STAGEコンテンツの参照状況の分析を行った。結果、研究分野は生命科学分野の割合が共通して高く、日本語版は理学・工学分野の割合が他言語版に比べて高いこと、日本語版は和文誌や英和混在誌が多いのに対し、英語版および中国語版では英文誌が多いことが分かった。
著者
藤田 良治 山口 由衣 椎名 健
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-13, 2008 (Released:2008-03-17)
参考文献数
10

同一の映像素材に異なるトランジションを使用するとき,視聴者の印象がどのように変化するか心理学的実験により測定した.実験映像は,1)4種類の映像素材,2)4種類のフレームサイズ(画面に対する比率),3)4パターンのトランジション「ディゾルブ」「ワイプ」「カット」「ズーム」,を組み合わせて,合計64種類の映像を製作した.この映像を52名の実験参加者に呈示し,24尺度からなるSD法による印象評価を求めた.得られた評価値の因子分析により,3因子「好感度」「インパクト度」「明晰度」を抽出した.次に,各因子それぞれにおいて,トランジション(4)×フレームサイズ(4)×カテゴリー(4)の因子得点を用いて,3要因分散分析を行った.その結果,同一の映像素材においても,異なるトランジションを使用することにより,視聴者の印象が大きく変わることが明らかになった.本研究の結果,映像編集においてトランジションを適切に選択することの重要性が示され,視聴者に好感度やインパクトを与える映像を作成するための指標の一端を示した.
著者
吉川 次郎 佐藤 翔 高久 雅生 逸村 裕
出版者
情報メディア学会
雑誌
第14回情報メディア学会研究大会発表資料
巻号頁・発行日
pp.27-30, 2015

日本語版Wikipedia におけるDOI リンクが記述された経緯を明らかにするため、英語版Wikipedia の翻訳項目の特定およびそこに含まれるDOI リンクの分析を行った。その結果、DOI リンクが記述されている日本語版の約94%の項目が言語間リンクをもっていること、また、それらの項目間での共通のDOI リンクは、英語版の翻訳を通じて日本語版に記述されたものが大部分を占めることを示唆する結果が得られた。
著者
大森 悠生 池内 有為 逸村 裕 林 和弘
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.68-76, 2023-10-06 (Released:2023-10-06)
参考文献数
15

研究者が初めてオープンアクセス(OA)を実現する要因,及び OA に対する認識の経年的な変化を明らかにするために,2016 年から 2022 年にかけて隔年で実施された NISTEP の質問紙調査の回答を二次分析した.結果,研究者が初めて OA を実現する主な要因は,投稿した雑誌や所属機関のポリシーなどの外的な要因であった.OA を妨げる要因のうち,資金不足解消が OA の実現につながっていること,投稿したい雑誌や所属機関が OA ポリシーを策定することによって OA が推進される可能性が示唆された.また,研究者は外的な要因を契機として OA を実現した後,徐々に OA に貢献したい,といった内的な要因が醸成される傾向がみられた.
著者
後藤 嘉宏
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.41-69, 2018-03-08 (Released:2018-03-08)
参考文献数
81

和文要約 中井正一の「委員会の論理」(1936)における嘘言の媒介には後藤宏行(1965),ついで針生一郎・松岡正剛(1982)が言及し,両者は嘘言によるコミュニケーションの発展を肯定的に把握した.他方,荒瀬豊(1979)は中井における嘘言の克服を強調した.しかし「委員会の論理」を仔細に読むとテクストは双方を支持し,嘘言が遍在する点を本稿は論じる. 「委員会の論理」は,連載時の『世界文化』編集後記で元原稿を紙幅の関係で圧縮するように依頼した旨記され,中井の既存の諸論考の議論を補わないと理解しがたい. 中井の重要概念,基礎射影及びコプラという言葉は「委員会の論理」でそれぞれ一つの節で僅かしか現れないが,先行あるいは後続する彼の諸論考と重ね合わせると,それらは嘘言の文脈で理解できる.また「委員会の論理」の本題とされる十六節のループ状のモデルにも嘘言は媒介する. 以上のように「委員会の論理」において嘘言が遍在することを本稿は論じ,難解な「委員会の論理」の理解をやや明快にする一助となることを目指す.
著者
松井 勇起
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.81-99, 2020

<p>本論文では,メディア知識人としての加藤秀俊を論ずる.その分析枠組みとして,実感論争時の加藤の立場の独自性を扱う.1950 年代に多くのメディア知識人が参加した実感論争の際に,加藤は『中間文化論』で実感を肯定したことで,実感論を理解しない江藤淳と論争した.加藤の実感論はリースマンの思想的根源であるプラグマティズムの観点から論じられたところに独自性がある.プラグマティックな現実観察を前提とする加藤の実感論は,メディア知識人の言説の中で日本の消費社会論の嚆矢となった.加藤は他人指向型に対する共感するが,本論文によってメディア知識人はドイツ思想が強い東大で教育を受けたか否かで他人指向型に対して共感しやすくなるかが左右されることがわかった.戦後多くのメディア知識人が左派・マルクス主義の影響下にあった中で,加藤が高度経済成長を実感として掴んだ点に加藤のメディア知識人としての特徴があるといえる.</p>
著者
松井 勇起
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.81-99, 2020-01-22 (Released:2021-01-22)
参考文献数
70

本論文では,メディア知識人としての加藤秀俊を論ずる.その分析枠組みとして,実感論争時の加藤の立場の独自性を扱う.1950 年代に多くのメディア知識人が参加した実感論争の際に,加藤は『中間文化論』で実感を肯定したことで,実感論を理解しない江藤淳と論争した.加藤の実感論はリースマンの思想的根源であるプラグマティズムの観点から論じられたところに独自性がある.プラグマティックな現実観察を前提とする加藤の実感論は,メディア知識人の言説の中で日本の消費社会論の嚆矢となった.加藤は他人指向型に対する共感するが,本論文によってメディア知識人はドイツ思想が強い東大で教育を受けたか否かで他人指向型に対して共感しやすくなるかが左右されることがわかった.戦後多くのメディア知識人が左派・マルクス主義の影響下にあった中で,加藤が高度経済成長を実感として掴んだ点に加藤のメディア知識人としての特徴があるといえる.