著者
前嶋 和弘
出版者
敬和学園大学
雑誌
敬和学園大学研究紀要 (ISSN:09178511)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.143-161, 2005-02

アメリカでは、テレビにおける選挙CM (選挙スポット) は大統領選挙だけでなく、連邦議員選挙や州知事選挙など、さまざまなレベルの選挙で広く利用されており、選挙活動の中心に選挙スポットが位置している。選挙スポットは、候補者にとって、自分の名前を一般に広く知らしめるだけでなく、自分の政策をPRし、相手候補と争う道具となる。そのため、選挙スポットが選挙戦の争点を設定する機能がある。さらに、政治に関する知識が少ない層にとって、選挙スポットが果たす啓蒙機能も少なくない。しかし、有権者は選挙期間中に他の多くの情報の影響の中にさらされているため、選挙スポットが直接、視聴者の投票行動に与える効果については、限定されている。この傾向は特に大統領選で顕著である。また、自己正当化が目立つ「売らんかな」的な選挙スポットの内容に対して、「防衛機能」が働くため、視聴者は選挙スポットそのものに注目しなくなるという現象もある。相手候補を中傷する「ネガティブ・スポット」については、選挙や政治そのものに対する嫌悪感を生んでしまうため、投票率の低下につながるという研究もある。さらに、政党に頼らない候補者個人の選挙戦術として、選挙スポットを放映するケースが多いため、「選挙運動の個人化」を生んでいる。これは国民の政党離れとも無関係ではない。このように、選挙スポットは広く利用されているに関わらず、様々な問題点を抱えている。現在、アメリカ国内でも様々な改革案が出されているが、実行に移すのはいずれも難しいのが現状である。
著者
前嶋 和弘
出版者
敬和学園大学
雑誌
敬和学園大学研究紀要 (ISSN:09178511)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.51-71, 2006-02-28

本研究は、日米の比較政治コミュニケーションのケーススタディーであり、イラク戦争の開戦直前期(2002年10月1日から2003年3月19日)の約6カ月間について、日米双方の代表的なメディアである『朝日新聞』と『ニューヨーク・タイムズ』のイラク情勢や開戦の可能性に関する記事の内容分析を行うものである。具体的には、両紙掲載の記事のうち、イラク戦争を扱った、あるいは関連した記事の全て(『朝日新聞』990記事、『ニューヨーク・タイムズ』1242記事)について、量的な内容分析を行った上で、イラク情勢をめぐる両国のニュース報道の内容が、特定の筋書きを持っていることに着眼し、質的な内容分析を行い、その相違点を包括的に分析した。内容分析の結果、次の5点において、両紙の違いが明確となった。5点とは、(1)アメリカのイラク政策、(2)戦争に対する切迫感、(3)イラク情勢における国連の役割、(4)一般市民の犠牲とその可能性、(5)ニュース・ソースーである。この中でも両紙の間で、大きく差が出たのが、「アメリカのイラク政策」についてであり、『ニューヨーク・タイムズ』の場合、『朝日新聞』に比べて、「アメリカのイラク政策」の記述が量的にも多かったほか、質的に分析しても、政府の対応や、今後の戦略や戦争への準備など、内容も非常に具体的であり、国連核査察に対するフセイン政権の対応の遅れのため、「戦争やむなし」という論調や記述が目立っていた。これに対し、『朝日新聞』の場合は戦争を急ぐブッシュ政権に批判的な論調や記述が主流だった。また、戦争に対する切迫感は、『朝日新聞』が「戦争は選択肢の一つでしかない」といった内容の論調や記述が目立つ一方で、『ニューヨーク・タイムズ』の場合、戦争は「"あるかないが"ではなく、"いつか"」といった切迫した視点からの報道が主であった。さらに、イラク情勢における国連の役割については、『朝日新聞』の方が国連に言及した記事が占める割合が多かったほか、国連の役割自身についても肯定的であり、「世界の運命を決める」国連の有効性が強調されていた。これに対して、『ニューヨーク・タイムズ』の場合、国連の役割に懐疑的であり、イラク査察は効果的でなく、フセイン政権の大量破壊兵器開発をとめるのに十分でないことを指摘した記事が目立っていた。また、一般市民の犠牲とその可能性についても、両紙の扱いは異なっており、『朝日新聞』より、『ニューヨーク・タイムズ』の方が記述そのものの割合が少なかった。ニュース・ソースについても、大きく異なっており、『朝日新聞』は、公式の記者会見をソースにした報道が中心だったが、『ニューヨーク・タイムズ』の場合、政権担当者、議会関係者などからの直接取材が多かった。このように、両紙の「メディア・フレーム」は大きく異なっており、同じイラク情勢を取り扱っていても、記事上では大きく異なった内容が報じられていた。