著者
井関 竜也
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-29, 2023 (Released:2023-09-05)
参考文献数
43

近年、政治過程において、選挙を通じて選出されていない非党派的な専門家(テクノクラート)の果たす役割が拡大している。専門家の関与は専門知に基づき複雑な政策課題に対処することを可能にすることが期待されている。一方、選挙によって解任することのできない専門家による政策決定は、政府の有権者に対する選挙を通じたアカウンタビリティを棄損するとの懸念も示されている。そこで本研究は、ヨーロッパ21か国の選挙結果を対象に、テクノクラートである財務大臣が経済投票に与える影響を分析することを通じて、このような懸念が経験的に支持されるのかを検証する。分析の結果、通常の財務大臣のもとでは失業率の悪化が与党の得票減少につながる一方、テクノクラート財務大臣のもとでは失業率と選挙結果との関係が観察されないことが分かった。このことは、専門家の任用によって選挙を通じた責任追及が行われなくなり、アカウンタビリティが機能しない可能性があることを示唆している。
著者
中村 研一
出版者
日本比較政治学会
雑誌
日本比較政治学会年報 (ISSN:21852626)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.131-152, 2007-06-30 (Released:2010-09-09)
参考文献数
37

テロリズムは暴力の一種であり, 他の暴力と同様, 人々を殺傷し, 関心の焦点となり, 激しい感情を呼び起こす。また政治学の観点からは, テロリズムは, 政治変化を起こそうとする政治的行為であり, 同時に, 政治的なものを攻撃する反政治的手法である。こうしたテロリズムを認識するとき, 攻撃者の政治的狙いと反政治的手法を切り離して論じることに意味はない。そこで小論はつぎの5点を論じる。 (1) テロリズムを定義することの困難さがテロリズムの特質を反映している。 (2) テロリズムを人間類型ないし思想として定義することは不適切であり, それを「見せる効果のための暴力」と定義する。 (3) テロリズムをコントロール不能に導く《文法》として, 「見せる効果の極大化」「 (攻撃者と犠牲者との間の) 意図上の非対称性志向」を取り出す。 (4) テロリズムに伴う反道義的アナキー的行動様式は, 二つの《文法》から導かれる。 (5) 暴力の方向とコミュニケーションの方向を分裂させるテロリズムの特徴が, 見る人々の間に同様の連鎖反応を引き起こすとき, 政治空間が解体する。
著者
門屋 寿 谷口 友季子
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-18, 2019 (Released:2020-01-29)
参考文献数
65

冷戦の終結以降、競争的な選挙を実施する権威主義体制が増加した。このような現実を受け、選挙が権威主義体制の命運に与える効果についての実証研究が積み重ねられてきた。しかし、選挙がどのような政治現象に影響し、体制転換をもたらすのかはいまだ不透明である。本稿では、体制転換をもたらす重要なメカニズムである大衆蜂起に焦点を当て、権威主義体制下での選挙が蜂起の発生に与える効果を検証する。本稿の分析結果より、選挙の実施年に蜂起が促進される一方で、自由公正度の高い選挙の実施経験を積むほど、蜂起が抑制されることが明らかになった。この結果は、選挙が短期的に権威主義体制を不安定化させる一方で、長期的にはむしろ安定化させるという、権威主義体制の命運に与える効果を検討した研究と整合的であり、不透明であった選挙の効果のメカニズム解明に貢献している。また、本稿は、大衆蜂起という体制外アクターからの脅威に着目することで、権威主義体制下での選挙の効果についてのさらなる知見を積み上げるものである。
著者
安中 進
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.19-39, 2019 (Released:2020-01-29)
参考文献数
59

本研究は政治体制と栄養不足の関係を考察する。本研究は飢饉と異なり学問的蓄積の乏しい栄養不足を対象に、状況が最も深刻だと考えられているサブサハラ・アフリカにおいて、1991年から2014年にいたるTime-Series-Cross-Section(TSCS)データを用いた統計的分析によって、民主主義国家が他の変数を統制した上で民主主義自体の効果で栄養不足の改善に好ましい影響を与えているという分析結果を報告した。これは民主主義の好ましい影響が特に貧しい国々において見られることを意味し、これまで民主主義は貧しい国々では、うまく機能しないとした先行研究とは異なる結果である。また、貧困国のマラウイを対象にした事例分析によって、民主化後の農業を中心とする政策が栄養不足減少に寄与したメカニズムを説明した。
著者
井元 拓斗
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.83-105, 2021 (Released:2021-10-28)
参考文献数
61

連立政権に参加する政党は、連立パートナーをどのようにして統制するのだろうか。近年の研究では、委員会制や副大臣などの手段を用いることで、連立相手の大臣に対する監視が行われていることが指摘されてきた。本研究はアイルランドを対象とし、書面での議会質問という手段が連立相手への監視に用いられているという仮説を検証する。2011~2016年のフィネ・ゲール/労働党政権を対象とした計量分析の結果、連立相手の大臣に対しては議会質問の提出件数が増加していることが明らかになった。また、財務大臣への質問を対象とした量的テキスト分析からは、連立相手の大臣に対しては選挙区へのアピールを目的とした質問ではなく、対立争点について情報を引き出す内容の質問が多く提出されていることが分かった。以上の結果は、議会質問という監視手段によって、大臣が連立内の合意から逸脱することを防ぎ、連立政権での協調的な政策形成が可能となっていることを示唆する。