著者
山内 勇人 河野 恵 大西 誠
出版者
日本環境感染学会
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.81-86, 2006-06-20
参考文献数
7
被引用文献数
5

インフルエンザウィルス感染症は, 病床運営や患者生命にも関わる重篤な院内感染症の一つである. 当院は240床中80%がリウマチ性疾患, 中でも関節リウマチ (RA) が大多数を占めるRAの専門病院である. 2002年度の全国的なインフルエンザの大流行時に, 当院でもインフルエンザ患者が急増した. その主たる原因をエレベーター内での飛沫感染と考え, 入院患者, 職員, 外来患者や面会人を含む病院全体での厳格なサージカルマスク着用による飛沫予防策を緊急導入し, アウトブレークを途絶することに成功した. その経験から, 当院ではワクチン接種の推進に加え, 冬期のサージカルマスク対策を継続して行っている. 更には, 外来有熱患者の受付でのトリアージを2004年度より導入し, 飛沫予防策の強化を図っている. その結果, 入院患者でのインフルエンザ発生は, 2003年度0人, 2004年度は3人と良好な結果である.<BR>当院のようなハイリスク集団におけるインフルエンザの院内感染対策において, ワクチン接種の重要性は言うまでもないが, 病院全体での厳格な飛沫予防策の併用は極めて有用である可能性が示唆された.
著者
片山 由美 月田 早智子 南出 和喜夫 岸下 雅通
出版者
日本環境感染学会
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.49-52, 1995

今回, 院内感染と医療従事者の衣類について検討すべく, 京都大学本医療技術短期大学部学生のキャップの汚染状態を調査した. 菌分離は, 病棟実習中の本学短期大学部3回生36名を対象にキャップの7ヵ所をスタンプして行った. 同時に被検者全員の手指からの分離も行った.<BR>菌分離者は36名中75%の27名であり, そのうち1名のキャップから<I>Staphylococcus aureus</I>が分離され, MRSAであった. その他, キャップや手指からの分離菌種は表皮ブドウ球菌, 真菌類, その他の細菌が占めていた.<BR>キャップの使用期間と菌分離の関係は明確には解らなかったが, キャップの汚染源として使用者の手指・病院環境・医療機器などが考えられ, キャップのみならず医療従事者の頭部は汚染されているという認識をあらためて得た.<BR>本調査において, 表皮ブドウ球菌やその他の細菌がその多くを占めていた.さらに表皮ブドウ球菌などのCNSがすでにメチシリンに耐性を持ち, 院内感染の主流になりつつあるという事実を再確認した. 今後, 院内感染起因菌の変遷に伴い, 感染防止行動の基本である手洗いを徹底させるとともに, 医療従事者の衣類に関する感染防止行動指針の確立が必要と思われる.
出版者
日本環境感染学会
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.155-172, 2002-01-25 (Released:2010-07-21)
著者
白石 正 仲川 義人
出版者
日本環境感染学会
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.275-279, 1999-11-30
参考文献数
7
被引用文献数
1

医療用具の一次消毒には様々な消毒剤が使用されているが, 被消毒物に損傷を与えるような消毒剤の使用は控えるべきである. 今回, 金属の腐食性に着目して鉄片, 亜鉛片, 銅片, アルミニウム片, 真鍮片およびステンレス片を対象に, 浸漬消毒に通常使用されない消毒剤も含めた7種の消毒剤によるこれら金属に対する腐食性, および腐食して錆が発生した鉄片に対する消毒剤の殺菌効果の影響とその原因について検討した. 0.1%塩化ベンザルコニウム液は鉄片に対して30分, 0.02および0.05%次亜塩素酸Na液は鉄片および亜鉛片に対して10分, 銅片に対して1時間の浸漬で錆の発生が認められた. 両性界面活性剤は鉄片に対して0.2%溶液中で1時間後, 0.05%溶液では3時間後に錆の発生が認められた. 0.1および0.5%グルコン酸クロルヘキシジン液, 80vol%エタノールおよび70vol%イソプロパノールは, 少なくとも6時間以内の浸漬では錆の発生は認められなかった. 一方, 鉄錆 (+) 片と鉄錆 (-) 片を対象にグルコン酸クロルヘキシジン液, 塩化ベンザルコニウム液および両性界面活性剤の殺菌効果の相違の有無については, いずれの消毒剤も鉄錆 (+) 片は鉄錆 (-) 片に比べ殺菌効果の低下が認められた. この原因として, 鉄錆 (+) 片から溶出する鉄イオン量が鉄錆 (-) 片に比べ多いことから, 鉄イオンが殺菌効果に影響していことが一因と考えられた.
著者
山本 恭子 鵜飼 和浩 高橋 泰子
出版者
日本環境感染学会
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.329-334, 2002-11-26
参考文献数
23
被引用文献数
8

本研究は非薬用固形石鹸と流水による手洗いを, 石鹸を泡立て擦り合わせる行為, 流水にてすすぐ行為, ペーパータオルで拭く行為の3段階に分け, それぞれの段階における手指の細菌数の変化を明らかにし, 有効な手洗い方法に関して検討を加えた. 石鹸を泡立て擦り合わせることによる手掌部の細菌数を経時的に測定した結果, 泡立て時間が長いほど細菌数は多くなった. 次に, 15秒間石鹸を泡立てた後流水ですすぎ, 手掌部, 指部, 指先の細菌数を経時的に測定した結果, 3部位ともすすぎに伴い細菌数は減少した. しかし, 手洗い前と比較して, 手掌部では120秒間, 指部では60秒間のすすぎで細菌数は有意に減少したが, 指先では120秒間すすいだ後も細菌数が有意に多かった. また, すすぐ過程で指先を他方の手掌部に擦り合わせることを試みたが, 除菌効果に改善は認められなかった. 最後に15秒間石鹸を泡立て15秒間すすいだ後ペーパータオルで手を拭くことによる除菌効果を調べた. 手掌部, 指部では手拭きの前後で細菌数の有意な減少は認められなかったが, 指先では手拭きによる有意な細菌数の減少が認められた. 以上の結果から, 手洗いで除菌効果を得るためには, 石鹸泡立て時間が長いほど充分なすすぎを行う必要がある. さらにすすぎにより指先は手掌部および指部と比べて除菌されにくく, すすぎ後にペーパータオルで拭くことが除菌に有効であると考えられた.
著者
小花 光夫
出版者
日本環境感染学会
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.15, no.Supplement, pp.37-41, 2000-05-15 (Released:2010-07-21)
参考文献数
8

病院内では数多くの微生物が病院感染を惹起する可能性を有しているが, 現在のところ腸内細菌群を中心としたグラム陰性桿菌の中ではMRSAや緑膿菌ほどに問題化している菌種はみられない. しかし, セラチア・マルセッセンス (Serratia maroesoens) などの一部の菌種は弱毒菌であっても汎用消毒薬に抵抗性を有していること, また, 本菌群のかなり多くのものがβ-ラクタム系薬剤を初めとした多種の抗菌薬に対して耐性を有していることなどから, 従来から本菌群は病院感染起炎菌として注目されていた. このことは, 新規のβ-ラクタム系 (特に, 第3世代セフェム系) 薬剤の開発が一時期本菌群に対して向けられていたことからも裏付けられ, その結果として, 本菌群の病院感染起炎菌としての重要性は一時的にはやや減少をみた. しかし, 近年, 基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生菌やメタローβ-ラクタマーゼ産生菌などのような新たな耐性菌が出現してきたことから, 本菌群の病院感染起炎菌としての重要性は再び増加しつつあり, しかも今後益々助長されるものと考えられ, 本菌群の動向には今後とも十分な監視と対応が必要といえる. 本稿では, 大腸菌 (Escherichia coli), サルモネラ (Salmonella spp.), クレブシェラ・ニューモニエ (Klebsiella pneumoniae), エンテロバクター (Enterobaoter spp.), セラチア・マルセッセンス (Serratia marcescens) などについて病院感染起炎菌という観点から感染経路や病原性などについて述べた.
著者
大野 聖子 佐藤 敬子 片岡 恵子 田中 結美 小原 優子 野田 あゆみ 小島 広美 細見 博子
出版者
日本環境感染学会
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.264-268, 2000-08-23
参考文献数
8
被引用文献数
2

1995年と96年の公務災害に申請された針刺し・切創事故をEPINet日本語版を用いて解析を行った.それに基づき携帯型針捨て容器の導入, 病棟で使用する滅菌処置セットに滅菌済みの膿盆を組み込むこと, ゴム栓よりの真空採血用にルアーアダプターを採用などの改善を行った.原因器材としてディスポの注射器針, 翼状針, 留置針, 真空採血針の全体に占める割合は2年平均14件全体の65%から6件30%に減少した.携帯型針捨て容器はコスト的にも100床あたり月5000円程度で一般病院でもまず試みうる対策と考えた.
著者
大石 正夫 宮尾 益也 阿部 達也
出版者
日本環境感染学会
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.255-257, 1998-11-30
参考文献数
5

最近経験されたmethicillin resistant <I>Staphylococcus aureus</I> (MRSA) 眼感染症の7症例について報告した.症例は全眼球炎1例, 眼窩蜂巣炎2例, 角膜炎1例, 眼瞼結膜炎1例および慢性結膜炎2例である.全例に脳疾患, 糖尿病, 腎不全, 気道感染症など全身合併症を有しており, compromisedhostであった.分離されたMRSA7株はvancomycin, arbekacinには全株が感受性で, ペニシリン剤, セフェム剤, 他のアミノグリコシッド系薬剤には耐性であった.治療はVCM点滴静注, ニユーキノロン点眼剤が投与されて症状の改善をみた.MRSA眼感染症の現況と対策につき言及した.
著者
井原 基公 三田尾 賢 小滝 照子 重光 昌信 木村 公重
出版者
日本環境感染学会
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.291-294, 2000-11-09
参考文献数
6

母子同室を行っていなかった母子異室期間と, 希望者に対し母子同室を行った母子同室期間での退院前新生児鼻腔からのブドウ球菌メチシリン感受性黄色ブドウ球菌 (以下MSSAと略), メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (以下MRSAと略), コアグラーゼ陰性ブドウ球菌 (以下CNSと略) 検出率を比較し, 母子同室が新生児のMRSA院内感染に及ぼす影響について検討した.<BR>母子異室期間 (1567例) では黄色ブドウ球菌は5.8% (MSSA5.0%, MRSA0.8%) に検出された. これに対し母子同室期間 (927例) では黄色ブドウ球菌は5.8% (MSSA5.7%, MRSA0.1%) に検出され, 母子異室期間と母子同室期間において有意差を認めなかった. 母子同室期間で母子同室実施者 (555例) では黄色ブドウ球菌は7.6% (MSSA7.4%, MRSA0.2%) に検出された. これに対して母子異室実施者 (372例) では, 黄色ブドウ球菌は7.3% (MSSA7.3%, MRSA0.0%) に検出され, 母子同室実施者と母子異室実施者で差を認めなかった.<BR>この結果から, 母子同室がMRSAを含めた黄色ブドウ球菌による新生児院内感染増加の要因とはならないことが判明した.
著者
矢野 邦夫 浦野 美恵子 鈴木 ノブエ 橋爪 一光
出版者
日本環境感染学会
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.178-182, 2000-05-18
参考文献数
23

近年, 国内において医療施設や高齢者施設における結核の集団感染が報告され, 結核は再興感染症として再び認識されてきた.米国においても同様で, 多剤耐性結核の報告が相次ぎ, 特にHIV感染者用住居施設, 高齢者施設, 刑務所における結核対策の重要性が指摘されている.これらを背景に, CDC (米国疾病管理センター) は数多くの結核関連ガイドラインや勧告を公開しているが, サーベイランスの基本となるツベルクリン反応陽性について日米の基準が異なっているため, 彼らの優れた資料をそのまま日本における病院感染対策に導入できない.具体的には, 日本においてツベルクリン反応は発赤の大きさによって測定されているが, CDCは硬結の測定で行うように指導しており, 発赤を測定していない.また, ブースター現象の確認の必要性が叫ばれているが, BCGを基本的な結核予防策として取り入れていない米国におけるブースター現象のデータを, そのまま日本における対策に持ち込むことはできない.今回, 我々はCDCのガイドラインおよび勧告に従ってツベルクリン反応を施行し, CDCの結核対策に従って日本の医療従事者にツベルクリン反応を施行した場合の問題点を明確にした.
著者
大毛 宏喜 竹末 芳生 横山 隆
出版者
日本環境感染学会
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.320-324, 2002-11-26
参考文献数
23
被引用文献数
6

術後感染対策として閉鎖式ドレーンの有用性と問題点について検討を行った. 当科で開放式ドレーンをルーチンに用い, 1週間前後留置していた1992年と, 原則として閉鎖式ドレーンを用い, 排液量が少なければ48時間で抜去するとの基本方針に沿った2000年とを比較して, ドレーンの使用状況, ドレーン感染およびcolonizationの頻度, さらに分離菌を検討した. 1992年は開腹手術症例148例全例に開放式ドレーンを挿入していたのに対し, 2000年には118例中37例 (31.4%) でドレーンを使用せず, 使用した症例でも多くは閉鎖式で, 開放式ドレーンを使用したのは全体の5.1%にすぎなかった. その結果, 1992年はドレーン感染 (4.7%), colonization (22.3%) を合わせて27.0%認めたが, 2000年は合わせて14.8%と有意に減少した (p<0.05). 特に閉鎖式ではcolonizationを11.1%に認めたのみで感染例はなかった. 分離菌も外因性感染であるMRSAは7.4%から1.7%, コアグラーゼ陰性ブドウ球菌は12.2%から1.7%といずれも有意 (p<0.05) に減少した. ドレーン自体の感染減少に加え, 閉鎖式であるためにガーゼ交換が不要となり, 標準予防策を励行する意味からも, 院内感染対策として有用であったと考えられた. 留置期間は, 1992年に開放式を9.6±2.7日留置していたのに対し, 2000年は閉鎖式では4.2±1.5日, 開放式でも4.3±3.1日と短縮していた. 膵手術などでは比較的長期間ドレナージが必要であり, 半閉鎖式ドレーンで対応した. またドレーンの早期抜去により縫合不全の際の対処が懸念されるが, 1998年1月から2001年12月までの4年間に3例の縫合不全に伴う骨盤内膿瘍を経験し, いずれもCTガイド下ドレナージにより, 再手術や人工肛門造設を要することなく治療可能であった. 閉鎖式ドレーンは感染対策として有効であり, 今後は我が国でも, 閉鎖式ドレーンの利点を生かした使用が望まれる.
著者
小松 侯子 森田 雅之 山本 道子 桜井 磐 吉田 正樹 松本 文夫 高橋 京子 三浦 香苗 関根 優子 石田 政子 辻原 佳人 国分 勝弥 高橋 孝行 白井 裕二
出版者
日本環境感染学会
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.41-48, 1995

病院給食は, 食事療法を目的とした患者に細心の注意を払い, 安全かつ衛生的に食事を提供しなければならない. そこで医療機関における配膳車および食器類の衛生管理運営状況についてのアンケート調査を実施した. またこの調査を基に, 当院の給食用配膳車および食器類の細菌汚染調査を行った.<BR>1. アンケート調査結果から細菌調査を実施した医療機関は74%あり, その内訳は手指培養試験が21%, まな板無菌試験が21%, 厨房室内汚染菌調査が19%などであった.<BR>2.病院給食の配膳および食事介助者は病棟看護婦, 病棟婦で76%を占めていた. その時の手洗い励行率は67%, マスク着用率は15%であった.<BR>3. 当院の給食用配膳車の配膳前, 下膳後の細菌汚染調査では, 配膳前と比べて下膳後に<I>Staphylococcus aureus (S. aureus), Staphylococcus epidermidis (S. epidermidis)</I> および腸内細菌群が多く検出された.<BR>4.配膳車の天蓋, 棚, 手スリ, タイヤの細菌汚染調査で, タイヤから<I>S. aureus, S. epidermidis</I>および腸内細菌群が多く検出された. また, 配膳搬送専用エレベータ床, 配膳室床からも配膳車のタイヤと同様の菌が検出された.<BR>5.独食患者および介助必要患者の病院給食用食器, トレーからは, 下膳後に<I>S. aureus, S. epidermidis</I>, 腸内細菌群が検出された.<BR>以上, 今回の細菌汚染調査結果から, 定期的な配膳車のタイヤ汚染調査は院内の環境汚染状況を把握する一つの方法とも考えられた. また食器類は患者個人専用ではないため, 感染防止上, 使用後は十分に洗浄消毒する必要がある. さらに患者給食の配膳は病棟看護婦, 病棟婦の大部分が携わっていることから, 手洗いの励行を徹底することが改めて認識された.
著者
山本 恭子 桐村 智子 鵜飼 和浩
出版者
日本環境感染学会
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.213-219, 2000-08-23
参考文献数
26
被引用文献数
3

強酸性電解水手洗いによる皮膚への影響を角質層表面の細胞変性と経皮水分蒸散量 (TEWL値) より検索し, 除菌効果と合わせて検討した.<BR>皮膚への影響について, 角質層表面の細胞変性をみると60秒3回の手洗いで強酸性電解水は水道水, ウェルパス<SUP>&reg;</SUP>, ヒビスクラブ<SUP>&reg;</SUP>よりも強い変性が認められたがTEWL値に変化はみられなかった.また, 強酸性電解水1回手洗いを15, 30, 60秒間で比較すると細胞変性は15秒間, 30秒間手洗いではいずれも60秒間と比較し軽度であった.しかしTEWL値は15, 30, 60秒間の手洗いでは変化は認められなかった.除菌率は15秒間手洗いで平均66.6%, 30秒間手洗いで89.5%, 60秒間手洗いで91.0%であり, 15秒間手洗いは30秒間, 60秒間手洗い群と比べ劣っていた.<BR>さらに, 臨床の場における手洗いを考慮し15秒間および30秒間手洗いを連続20回行うと, 両群とも細胞変性が認められたが, 15秒間手洗い群では48時間後, 30秒間手洗い群では72時間後に元の状態に回復した.TEWL値は30秒間手洗い20回終了直後に増加が認められたが24時間後には元の状態に回復した.<BR>以上の結果より, 強酸性電解水手洗いにおいて皮膚への影響を最小限に抑え, しかも除菌効果を得るためには30秒間の手洗いがもっとも適していると考えられた.また, 強酸性電解水手洗を頻回に行う場合には常に手荒れの可能性があり, 手荒れ予防対策を考慮する必要があろう.
著者
伊藤 トモ子 牧 ゆかり 藤原 悦子 山本 りえ 下大迫 祐子 井上 悦子 矢部 博樹 永井 謙一 仲西 寿男 神木 照雄
出版者
日本環境感染学会
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.83-86, 1988-05-20 (Released:2010-07-21)
参考文献数
16

院内感染予防のための効果的な手指消毒法を石ケンと流水による手洗い, ベースン法および速乾性擦拭消毒剤 (塩化ベンザルコニウム・アルコールローション) で検討した.ICU病棟における排便介助後に手指細菌数が増加し, 日常看護業務で手指が細菌汚染を受けることが示唆された.石ケンと流水による手洗いでは除菌率42.5%であり, ベースン法では除菌効果を認めなかったのに対し, 塩化ベンザルコニウム・アルコールローションによる擦拭消毒では除菌率93.1%と高く, 前二者にくらべ有意に優れた除菌効果が認められた.また本剤は皮膚刺激性が少なく, 皮膚炎をおこさないことが重要である手指消毒薬としても推奨されるべき方法と考えられた.

1 0 0 0 OA 同定検査

著者
賀来 満夫
出版者
日本環境感染学会
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.15, no.Supplement, pp.72-77, 2000-05-15 (Released:2010-07-21)
参考文献数
7

微生物検査において原因微生物を検出同定することは感染症の確定診断となる重要な検査である.微生物の同定検査は, さまざまな分離培地を用いて検体から微生物を分離培養し同定する方法と検体中の微生物の抗原や遺伝子などを直接検出する方法に大別される. このうち, 微生物の分離培養による同定検査は確定診断となるものの, 迅速性が欠けるなどの問題点がある上これに対し, 微生物の抗原や遺伝子を検出する方法は迅速性に優れているものの, 交差反応や汚染などの点でやはり問題がある.今後, より精度が高く迅速性に優れた微生物同定検査が行われていくためには, 検査法そのものの進歩発展が望まれると共に, 臨床側と検査室側がより密接に患者情報や検査情報を確認し合い, 同定検査法の利点や欠点を理解した上で検査結果をより正確に解釈することに努めていく必要がある.
著者
末柄 信夫 山口 英世 安井 克人
出版者
日本環境感染学会
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.264-269, 1999-11-30
参考文献数
17
被引用文献数
1

手指消毒のために開発された手指熱風消毒器 (商品名クリアポパイ) の消毒・殺菌効果について検討した.試験菌10<SUP>4</SUP>~10<SUP>6</SUP> cfu (コロニー形成単位) を含む懸濁液を塗布した平板培地を本消毒器が発生する熱風および紫外線 (UV) に曝露した場合, <I>Pseudomonas aeruginosa</I>と<I>Escherichia coli</I> (O-157) は5secで, MRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌) と<I>Salmonella enteritidis</I>は10 secで, <I>Staphylococcus epidermidis</I>は20 secで, また<I>Enterococcus faecalis</I>は30 secで, いずれも99.9%以上が死滅した.<I>Candida albicans</I>と<I>Malassezia furfur</I>は30 secで99.6%が死滅した.一方, 手掌に塗布したE.coli (1.3×10<SUP>5</SUP> cfu/cm<SUP>2</SUP>) は 10 secの曝露で99.9%が死滅した.この消毒・殺菌効果のほとんどはUV曝露によるものであった.以上の結果に加えて本消毒器は, 消毒液や清拭紙等を必要としないこと, 操作が簡便であること, 手荒れもしないこと, などのすぐれた特長を備えているところから, 医療や食品等の取り扱いにおける手指消毒にきわめて高い有用性をもつものと考えられる.