著者
高橋 昭紀
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態學會誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.47-53, 2014-03

白亜紀/古第三紀境界(K/Pg境界; 約6,600万年前)で生じた、小惑星衝突を引き金とする大量絶滅について、動物の分類群ごとによる絶滅の選択性(絶滅したか、生き延びることができたか)の原因に関してレビューする。同境界において、陸上脊椎動物では非鳥型恐竜類と翼竜類などが絶滅して、鳥類・カメ・ワニ・トカゲ・ヘビや両生類・哺乳類などは絶滅しなかった。その選択性の原因として、(1) 衝突後数分から数時間までに、木陰や洞穴、淡水環境に逃避できたか否かという生態や生活様式の違い、(2) 生食連鎖か腐食連鎖のどちらに属するかという違い、および(3) 体サイズにより必要となる餌やエネルギー量の違い、が挙げられる。これらの複合的な生態の相違によって、大量絶滅時の選択性が左右されたのである。また、アンモナイト類は絶滅したが、オウムガイ類はK/Pg境界を超えて生き延びることができた。この運命を分けた原因は、幼生期に海洋表層でプランクトン生活を送っていたか、それとも深海で棲息していたかという棲息場所の違いである。その結果、衝突後に大量に降ったと推定されている酸性雨からの被害が大きく異なり、両者の運命を分けたと考えられる。長年、白亜紀末の絶滅の生物選択性には多くの疑問が提示されてきたが、以上で挙げたような生態学的要因によって、その多くが説明できると考えられる。
著者
河村 功一 片山 雅人 三宅 琢也 大前 吉広 原田 泰志 加納 義彦 井口 恵一朗
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.131-143, 2009
参考文献数
81
被引用文献数
7

近縁外来種と在来種の交雑は外来種問題の一つであるだけでなく、希少種問題の一つでもある。この問題は決して異種間に限られたものではなく、在来個体群の絶滅という観点から見れば、近縁種から同種の地域個体群にまで渡る幅広い分類学的カテゴリーに該当するものである。近縁外来種と在来種の交雑は遺伝子浸透の程度と在来種の絶滅の有無により、I)遺伝子浸透を伴わない在来種の絶滅、II)遺伝子浸透はあるものの在来種は存続、III)遺伝子浸透により在来種は絶滅の3つに分類される。この中で在来種の絶滅を生じるのはIとIIIの交雑であるが、いずれも交雑の方向性の存在が重要視されている。本稿ではタイリクバラタナゴとニッポンバラタナゴの交雑を材料に、IIIの交雑における在来亜種の絶滅と遺伝子浸透のメカニズムについて調べた研究を紹介する。野外調査と飼育実験により、交雑による個体群の遺伝的特徴の変化、配偶行動における交雑の方向性の有無、遺伝子型の違いによる適応度の違いの3点について調べたところ、1)交雑個体の適応度は在来亜種より高いが雑種強勢は存在しない、2)繁殖行動において亜種間である程度の交配前隔離が存在、3)在来亜種の絶滅は交雑だけでなく、適応度において交雑個体と外来亜種に劣る事により生じる、4)遺伝子浸透は在来亜種の絶滅後も継続する、の4点が明らかとなった。これらの事から外来亜種の侵入による在来亜種の絶滅は、外来亜種の繁殖率の高さに加え、交雑個体における妊性の存在と適応度の高さが主な要因である事がわかった。ここで特記すべき点として、交雑の方向性の決定様式と遺伝子浸透の持続性が挙げられる。すなわち、バラタナゴ2亜種における交雑は個体数の偏りによる外来亜種における同系交配の障害により生じるが、交雑の方向性は従来言われてきた様な亜種間での雌雄の交配頻度の違いではなく、雑種と外来亜種の間の戻し交雑により生じ、この戻し交雑が遺伝子浸透を持続させる可能性が高い事である。今後の課題としては、野外個体群におけるミトコンドリアDNAの完全な置換といった遺伝子間での浸透様式の違いの解明が挙げられる。この問題の解明に当たっては進化モデルをベースとしたシミュレーションと飼育実験により、ゲノムレベルで適応度が遺伝子浸透に与える影響を考察する必要がある。
著者
深澤 遊
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.311-325, 2013
被引用文献数
4

菌類は枯死木の分解において中心的な役割を果たしている。枯死木の細胞壁を構成する有機物であるリグニンとホロセルロースに対する菌類の分解力に基づき、大きく分けて3つの「腐朽型(decay type)」が知られている。白色腐朽では、リグニンが分解されるため材は白色化し、繊維状に崩壊する。褐色腐朽では、リグニンが変性するだけで分解されずに残るため材は褐色化し、ブロック状に崩壊する。軟腐朽は含水率の高い条件で起こり、主に材の表面が泥状になる。異なる腐朽型の材では、物理化学性が異なるため、枯死木を住み場所や餌資源として利用する様々な生物群集に影響を与えることが予想される。本稿では、細菌、菌類、植物、無脊椎動物、および脊椎動物の群集に対する材の腐朽型の影響について実証的な研究をレビューする。細菌については、褐色腐朽材に比べ白色腐朽材で窒素固定細菌の活性が高いことが知られている。腐朽型が菌類に与える影響に関しては研究例が非常に少ないが、腐朽菌や菌根菌が材の腐朽型の影響を受けることが示唆されている。植物についても研究例が非常に少ないが、種により実生定着に適した腐朽型が異なるようだ。無脊椎動物については、特に鞘翅目およびゴキブリ目の昆虫に関する研究例が多く、種により好む腐朽型が異なることが知られている。脊椎動物についてはほとんど研究例がなかったが、腐朽菌の種類によってキツツキの営巣に影響があることが示唆されている。腐朽型が生物群集に影響する理由としては、材の有機物組成や生長阻害物質、pHが腐朽型によって異なることが挙げられている。このように菌類には、ハビタットとしての枯死木の物理化学性を変化させることで他の広範な分類群の生物群集に強い影響を与える生態系エンジニアとしての働きがあると考えられる。ただし、その一般性については今後さらに多くの分類群の生物に対する菌類およびその腐朽型の影響を検証していく必要がある。
著者
大河原 恭祐 飯島 悠紀子 吉村 瞳 大内 幸 角谷 竜一
出版者
日本生態学会暫定事務局
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.123-132, 2017 (Released:2017-12-06)

社会性昆虫であるアリには分巣と呼ばれるコロニー創設法があり、それに基づき複数の女王と複数の巣からなる多女王多巣性のコロニーが形成される。一部の多巣性の種では、コロニーが拡大してもメンバー間の遺伝的均一性が維持され、巣間では敵対行動が起きない。それによって種内競争を緩和し、コロニーを拡大できるとされている。これらの事は遺伝的に均一性の高い集団の形成はアリでも資源の占有や種間競争に有利であることを示唆している。本研究では多女王多巣性で、クローン繁殖によって繁殖虫を生産するウメマツアリVollenhovia emeryiについてコロニー形態や遺伝構造を調べ、その繁殖様式と多女王多巣性の発達との関連を調べた。さらにこうした繁殖機構をもつウメマツアリがアリ群集内の種間競争で有利に働き、優占的に成育できているかを、他種とのコロニー分布を比較することによって推定した。金沢市下安原町海岸林でのコドラートセンサスによる営巣頻度調査と巣間のワーカー対戦実験により、調査区内には8個の多巣性コロニーがあると推定された。さらにそのうちの主要な6個のコロニー(S1~S6)について、女王とワーカーを採集し、その遺伝子型をマイクロサテライト法で特定した。4つの遺伝子座について解析を行ったところ、女王には19個のクローン系統が確認され、1つのコロニーに2~5個の系統が含まれていた。また各コロニーのワーカーの遺伝的多様性は高かったが、コロニー間での遺伝的分化は低く、6個のコロニーの遺伝的構成は類似していた。このような遺伝的差異の少ないコロニー群は、越冬前に起きる巣の再融合によってコロニー間で女王やワーカーが混ざるために起きると考えられる。さらに類似した生態ニッチを持つ腐倒木営巣性のアリ群集でウメマツアリの優占性を調べたところ、営巣種14種の中でウメマツアリは高密度で営巣しており、比較的優占していた。しかし、ウメマツアリによる他種の排除や成育地の占有は見られず、ウメマツアリは微細な営巣場所を利用することによって他種との住みわけを行っていた。これらのことからウメマツアリのコロニー形態や遺伝構造には、他の多女王多巣性種とは異なる意義があると考えられる。
著者
中山 新一朗 阿部 真人 岡村 寛
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.241-253, 2015

生態学者はしばしば、複数の時系列データからそれらの間に存在する因果関係を推定する必要に迫られる。しかし、生物学的事象は決定論的かつ非線形で複雑な過程を背景に持つのが一般的であり、そのような応答から生じた時系列データ間の因果関係を推定するのは非常に困難である。本稿では、このような状況において有効である因果関係推定法であるConvergent cross mappingについて、その仕組み、使い方、将来の課題等を解説する。
著者
土居 秀幸 岡村 寛
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.3-20, 2011
参考文献数
49

群集生態学では、古くから類似度指数を用いた解析が頻繁に用いられてきた。しかし近年、汎用性の高い新たな類似度や検定手法が提案されているにもかかわらず、それらが十分に普及し利用されているとは言い難い。そこで、本総説では、現在までに発表されている代表的で有用な類似度、それを使ったグラフ表示、統計的検定について解説を行う。各類似度の成り立ち、指数ごとの特性、利用方法について初学者向けの説明を試みる。各種手法の理解の助けのため、統計ソフトRのveganパッケージを用いた分析を取り上げ、例題や付録のRコードを用いてveganによる解析手順を紹介する。利用実態としては、Jaccard指数など古くから提案されている指数が近年でも多く用いられているが、Chaoによって近年開発された指数は希少種を考慮した汎用性の高い類似度指数として優れており、Chao指数の利用が促進されることが望ましい。また、類似度を用いた検定についてもPERMANOVAなどの新しい統計手法の利用が図られるべきである。今後の群集解析において、これらの手法が取り入れられることにより、より適切な生態系の評価が行われ、新たな発見につながることが期待される。
著者
岸 茂樹
出版者
日本生態学会暫定事務局
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.61-64, 2015 (Released:2015-07-06)

アレンの法則とは、恒温動物の種内および近縁種間において高緯度ほど体の突出部が小さくなる傾向をいう。アレンは北アメリカのノウサギ属を例にこの仮説を提唱した。しかしこの例を含めてアレンの法則は検証例が少ない。そこで本研究ではアレンの法則が書かれた原典からノウサギ属Lepusのデータを抜き出しアレンの法則がみられるか検証した。その結果、相対耳長と緯度には有意な相関はみられなかった。相対後脚長、および体長と緯度には正の相関がみられた。したがって、アレンが記録した北アメリカのノウサギ属にはアレンの法則はみられず、むしろベルクマンの法則がみられることがわかった。相対耳長と緯度に負の相関がみられなかった主な原因は、低緯度地域にも耳の短い種が生息することである。耳の長さには緯度以外にも生活様式や生息場所が大きく影響するためと考えられる。
著者
井鷺 裕司
出版者
日本生態学会暫定事務局
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.89-95, 2010 (Released:2011-03-28)

タケ類の生活史は、長期間にわたる栄養繁殖と、その後の一斉開花枯死で特徴づけられる。タケ類に関しては、地下茎の形態と稈の発生様式、開花周期と同調性、開花後の株の振舞いなどにいくつかのパターンが知られており、それぞれの特徴をもたらした究極要因や至近要因が解析・考察されてきた。しかしながら、タケ群落で観察される繁殖生態上の特性は、種が本来的に持つ特徴というよりは、たまたまその地域に人為的に導入された系統の性質であったり、あるいは群落を構成するクローン数が極端に少ないという事に起因する可能性がある。また、タケ類は開花周期が長いため、世代交代時に働く選択のフィルターが機能する頻度も低く、人為による移植の影響や移植個体群の遺伝的性質が長期間にわたって維持される可能性も高い。本論では、単軸分枝する地下茎を持つマダケ属(Phyllostachys)とササ属(Sasa)、仮軸分枝する地下茎を持つBambusa arnhemicaの事例をとりあげ、群落の遺伝的多様性の多寡と開花同調性の有無に基づいて、開花現象を4つのタイプにわけ、タケ類の繁殖生態研究で留意すべき点を考察した。
著者
市岡 孝朗
出版者
日本生態学会暫定事務局
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.429-438, 2016 (Released:2017-01-27)

熱帯雨林は生物多様性の宝庫として数多くの研究者を魅了してきた。その多様性の根幹をなすのは、昆虫類を中心とする節足動物である。なぜ、熱帯雨林では節足動物の種類が極度に多いのか。多様な節足動物の進化を促し、共存を許容する要因の一つとして、熱帯雨林の「大きな」林冠の存在に関心が払われてきた。熱帯雨林の樹木の生産・成長・繁殖活動の中心である林冠には、多様な樹種の梢・葉・花・果実が豊富に産み出されるほか、様々な着生植物、つる植物、絞め殺し植物が繁茂して、微気象的な環境要因が異なる多様な微小空間が集まってできあがった複雑な立体構造が形成されている。こうした林冠の特性が、熱帯雨林における節足動物の高い多様性の創出・維持に大きく貢献しているのではないかと考えられてきた。本論文では、この仮説を実証的に検証することをめざした、今日に至る一連の研究を整理して、今後の研究の展望を示すことを目的とした。仮説を検証する第一歩として、熱帯雨林の林冠には、同地の林床や他のタイプの森林の林冠と比べて、いかに多くの節足動物が生息しているかを示そうとした研究がなされてきた。これらの研究結果から、熱帯雨林ではほとんどの分類群で林冠と林床の両方に共通する種の数はかなり少ないこと、熱帯から温帯に向かって林冠の大きさ・複雑さが減少すると林冠の節足動物種数が減少することなどが示された。仮説のさらなる検証には、林冠のどの部分にどのような節足動物が生息しているのか、林冠のなかにみられる環境勾配に対して種構成がどのように変化するのか、節足動物が関与する生物間相互作用が林冠内の空間異質性に対してどのように反応しているのか、などといったことを具に明らかにする必要が有る。しかし、熱帯雨林の林冠は、あまりに背が高いために研究活動が容易には進展せず、それらの問題を解決するための野外調査が進んで来なかった。高い林冠という障壁を克服するため、近年、林冠観測システムが世界中の熱帯のいくつかの地点に設置され、林冠の節足動物群集についての研究が急速に進展した。筆者らによる林冠のアリ類群集の資源利用様式に関する一連の研究成果を含む、林冠観測システムを用いた研究結果から、熱帯雨林の林冠には多様な微小環境が混在しており、その空間異質性に対応する形で、これまで予想されていた以上に多様で量も豊富な節足動物群集が存在していることが明らかになってきた。
著者
深澤 圭太 石濱 史子 小熊 宏之 武田 知己 田中 信行 竹中 明夫
出版者
日本生態学会暫定事務局
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.171-186, 2009 (Released:2011-04-05)

野外の生物の分布パターンは生育に適した環境の分布や限られた移動分散能力などの影響をうけるため、空間的に集中した分布を持つことが多い。データ解析においてはこのような近隣地点間の類似性「空間自己相関」を既知の環境要因だけでは説明できないことが多く、近い地点同士ほど残差が類似する傾向がしばしば発生する。この近隣同士での残差の非独立性を考慮しないと、第一種の過誤や変数の効果の大きさを誤って推定する原因になることが知られているが、これまでの空間自己相関への対処法は不十分なものが多く見られた。近年、ベイズ推定に基づく空間統計学的手法とコンピュータの能力の向上によって、より現実的な仮定に基づいて空間自己相関を扱うモデルが比較的簡単に利用できるようになっている。中でも、条件付き自己回帰モデルの一種であるIntrinsic CARモデルはフリーソフトWinBUGSで計算可能であり、生物の空間分布データの解析に適した特性を備えている。Intrinsic CARモデルは「空間的ランダム効果」を導入することで隣接した地点間の空間的な非独立性を表現することが可能であると共に、推定された空間的ランダム効果のパターンからは対象種の分布パターンに影響を与える未知の要因について推察することができる。空間ランダム効果は隣接した地点間で類似するよう、事前分布によって定義され、類似の度合いは超パラメータによって制御されている。本稿では空間自己相関が生じるメカニズムとその問題点を明らかにした上で、Intrinsic CARモデルがどのように空間自己相関を表現しているのかを解説する。さらに、実例として小笠原諸島における外来木本種アカギと渡良瀬遊水地における絶滅危惧種トネハナヤスリの分布データヘの適用例を紹介し、空間構造を考慮しない従来のモデルとの比較からIntrinsic CARモデルの活用の可能性について議論する。
著者
岸野 洋久
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.187-196, 2015

集団や群集の構造を調べるとき、まずは平均的な特徴や平均的な関係に光が投げかけられる。そこからのかい離は誤差項で、推定の際には最小化すべき厄介な存在として位置づけられる。ここでは集団や群集を構成する個体の間の多様性に等量の光を投げかけ、関係式のモデリングと誤差のモデリングを不可分のものとして位置づける。最尤法はデータの生成メカニズムを尤度の形でモデリングするため、自然に2つのモデリングを融合させることができる。尤度の対数をとった対数尤度は、統計モデルの真の生成メカニズムへの近さの度合いを、相対量の形で表現している。ただし、統計モデルをデータに当てはめて得られた最大対数尤度は、近さの度合いを過大評価している。これを補正して得られた不偏推定量である情報量規準AICは、種々の異質な統計モデルを比較することを可能にする。本論文は、殺虫剤の効用試験、苗木の成長試験の2つの古典的データを見つめなおし、実例を通して最尤法とAICによる統計的モデル分析の有効性を示すことを目的とする。前者はタバコスズメガ幼虫(<i>Phlegethontius quinquemaculata</i>)のカウントデータであるが、各処理でポアソン分布から期待される分散を超える過分散があること、さらにこの過分散がブロック間の不均質性で説明され、ブロック内は環境を均質に保たれていたことを見る。後者はベイトウヒ(Sitka spruce, <i>Picea sitchensis</i>)のサイズを継時的に測定したデータで、オゾンへの曝露の影響を調べたものである。初夏から秋にかけてのある年の成長をロジスティックモデル、およびパラメータに分布を導入した変量ロジスティックモデルで記述する。モデルを通して、成長開始前のサイズとその年の成長幅には大きな個体差があること、6月末が成長の最盛期であること、成長期間にはほとんど個体差はなく、2か月半であることを見る。モデル選択を通して分析対象とデータの持つ情報の量と質に関して理解を深めさせることが、AICのもたらす最大の効用であることを、これらの解析は示している。
著者
深澤 遊 九石 太樹 清和 研二
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.239-249, 2013
参考文献数
63
被引用文献数
1 3

土壌中の菌根菌群集は地上部の植生に重要な影響を与える。森林を構成する各種植物の多くは外生菌根(ECM)菌かアーバスキュラー菌根(AM)菌と菌根を形成するが、これら2つの菌根タイプはおのおの宿主範囲が異なる。このため、樹種の異なる森林の境界あるいは森林と他の植生との境界では、土壌中の菌根菌群集も異なり、これが両植生間での実生更新の違いをもたらすことが予想される。本稿では、代表的な森林の境界として、森林と草地の境界、森林と森林の境界、森林と皆伐地の境界の3つを取り上げ、森林の境界で起こっている植生動態、特に樹木実生の更新において、地下の菌根菌群集が与える影響について、実証的な報告をレビューする。森林と草地の境界では、草本の大部分がAM性であるため、隣接する森林の樹種がECM性かAM性かによって、森林由来の樹木実生の定着に及ぼす菌根菌の影響は異なっていた。ECM性の樹種の場合、実生への菌根菌の定着率や多様性は森林に近いほど高く、実生の生存・生長も良かった。一方AM性の樹種の場合、森林から離れても実生の菌根菌定着率は低くならないが、菌根菌の種組成は変化し、それが実生の生長に与える影響は樹種により異なっていた。森林と森林の境界では、ECM性の樹種とAM性の樹種がそれぞれ優占する森林同士が隣接している場合、実生と異なる菌根タイプを持つ樹種が優占する森林で更新しにくいことが示唆された。森林と皆伐地の境界では、森林から離れても実生の菌根菌定着率は変わらず種組成が変化するが、皆伐地に適応した菌種が定着するため実生の生長はむしろ森林内よりも良いことが、主にECM性の樹種による研究から明らかになっている。全体的な傾向として、境界から10m前後離れると地下の菌根菌群集が急激に変化していた。これは樹木の根圏に樹種特異的な菌根タイプが保持され、実生への重要な感染源となることを示唆している。ただし、詳細な調査がなされた樹種は少なく、今後さらに多くの樹種で一般性を検証していく必要がある。特に、AM性の樹種で研究例が少ない。マツ科のECM性樹種を主要な造林樹種としている欧米と異なりAM性のスギ・ヒノキが主要な造林樹種である我が国の人工林の適切な管理のためには、AM性の樹種を対象とした更なる研究の進展が望まれる。
著者
嶋田 正和
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.669-670, 2016

教わって真似することは、教える側の大事な第一歩であることを改めて悟った。また、松村さんの発言「フィードバックが重要。たくさんの人からフィードバックする仕組みをつくれば、教材はブラッシュアップしていく」は、実は、大学の生態教育の実習にも、大いに役に立つスタンスだと実感した。むしろ、学校教育や社会での生態教育の真の重要さは、将来、国土政策や農林政策に関わる行政官、初等中等教育の教員、ゼネコン企業の社員、環境経済学などの異分野研究者、自然を愛する小説家、科学ジャーナリストなど他分野を目指す多くの生徒や学生にこそ、であろう。彼らの人生に大きな影響を与える実体験を与えることが必要である。教育効果の観点からみれば、それこそ、アウェイではなく「本当のホームの生態教育」ではないか。
著者
大塚 泰介 山崎 真嗣 西村 洋子
出版者
日本生態学会暫定事務局
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.167-177, 2012 (Released:2013-10-08)

水田の多面的機能は、そこに生息する生物間の相互作用に負うところが大きい。水田にキーストーン捕食者である魚を放流して魚を放流しない水田と比較すれば、対照区つきの隔離水界実験(メソコスム実験)になり、水田の生物間相互作用を解明する上で有効である。水田にカダヤシを放流しても、カに対する抑制効果が見られないことがある。カダヤシはカの幼虫・蛹のほかに、その捕食者や競争者も食べるので、捕食による効果の総和が必ずしもカを減らす方向に働かないためである。メコン川デルタの水田に3種の魚を放し、魚を放さない水田と生物群集を比較した実験では、ミジンコ目が減少し、原生動物とワムシが増加し、水中のクロロフィルa濃度が増加するという結果が得られている。水田にニゴロブナの孵化仔魚を放流した私たちの実験でも、これと類似の結果が得られた。ニゴロブナの後期仔魚および前期稚魚はミジンコ目を選択的に捕食し、ほぼ全滅させた。すると放流区では対照区よりも繊毛虫、ミドリムシなどが多くなった。また放流区では、ミジンコ目の餌サイズに対応する植物プランクトン、細菌、従属栄養性ナノ鞭毛虫などの数も増加した。メコン川デルタと私たちの結果は、ともに典型的なトップダウン栄養カスケードとして説明できる。また、魚の採食活動が、底泥からの栄養塩のくみ上げや底生性藻類の水中への懸濁を引き起こしたことも示唆される。これとは逆に、コイの採食活動によって生じた濁りが、水田の植物プランクトンの生産を抑制したと考えられる事例もある。こうした実験の前提となるのは、魚が強い捕食圧を受けていないことである。魚に対する捕食圧が大きい条件下での水田生物群集の動態は、今後研究すべき課題である。
著者
井村 隆介
出版者
日本生態学会暫定事務局
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.707-714, 2016 (Released:2017-04-06)

日本は狭い国土に110もの活火山が分布している世界でもまれな国である。とりわけ南九州には、多くの活火山があるだけでなく、姶良カルデラや鬼界カルデラなど多くのカルデラ火山が存在する。カルデラは過去の巨大噴火によって生じた凹地形である。カルデラを作る噴火は、日本全体では1万年に1回程度の割合で起こってきた。日本で最後に起こったこの規模の噴火は7300年前の鬼界カルデラの噴火である。カルデラ噴火はめったに起こらないが、もし起これば世界中が深刻な事態に陥る自然現象である。日本列島、特に南九州の自然は、カルデラ噴火による環境攪乱と言うよりも、深刻な破壊とそこからの再生の繰り返しによって作られたものと言える。
著者
上野 裕介 増澤 直 曽根 直幸
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.229-237, 2017

生物多様性に関する行政施策は、転換期を迎えている。その最大の特徴は、生物多様性の保全や向上を通過点ととらえ、豊かな社会の実現をゴールに据えている点である。本論説では、地方自治体が策定する生物多様性地域戦略を軸に、生物多様性を活かした地域づくりに関して地方自治体が策定する計画や政策の現状と可能性を紹介する。その上で、生態学者と行政(環境部局と他部局)、民間、地域社会の連携による経済・社会と生物多様性の統合化に向け、生態学者はどのような点で期待され、社会に貢献できるのかを考える。
著者
山川 博美 伊藤 哲 中尾 登志雄
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.219-228, 2013
参考文献数
39
被引用文献数
3

伐採後の森林再生に及ぼす散布種子(伐採後に新たに散布される種子)の効果を明らかにするため、照葉樹二次林に隣接する伐採地において、伐採直後から6年間の種子の散布範囲および種子数をシードトラップによって調査した。伐採地へ散布された種子数は、隣接する照葉樹二次林およびスギ人工林と比較して明らかに少なかった。種子散布様式で比較すると、風散布型種子は伐採地に限らず隣接する照葉樹二次林およびスギ人工林でも少なかった。伐採地において重力散布型種子は林縁でのみで散布され、林縁から10m以上離れた地点ではほとんど散布されていなかった。被食散布型の種子は伐採地での散布が確認されたが、照葉樹林の林冠を構成する高木性木本種は少なく、多くは低木性木本種で、その6割以上をヒサカキおよびイヌビワの2種で占めていた。しかしながら、伐採地において、被食散布型の種子は伐採からの時間経過に伴って、散布される種子数および種数が増加する傾向がみられた。さらに、種子の散布範囲も伐採から3年目程度までは林縁から15m付近までの木本種が多かったが、伐採5年目以降は林縁から35m地点まで種子が散布されるようになり、種子の散布範囲が広がっていた。以上の結果から、暖温帯における散布種子による更新は、風散布型木本種がほとんどなく、重力散布型および被食散布型の木本種が主となる。そのなかで、伐採後の森林の再生を短期的な視点で捉えると、重力散布種子の散布は林縁周辺に限定され、被食散布型種子も伐採直後に伐採地内に散布される種子数は少ないことから、散布種子による更新は非常に難しいと考えられる。しかしながら、長期的な視点で捉えると、伐採からの時間経過とともに伐採地への散布種子数および種数の増加していることから、被食散布型種子による更新が可能となるかもしれない。ただし、本研究は母樹源となる照葉樹林が隣接する伐採地であることを考慮すると、特に辺り一面に人工林が卓越するような森林景観では、過度な期待は避け方が無難であろう。また、伐採後の更新において萌芽などの前生樹のみの更新では更新する樹木が伐採前の前生樹の分布や萌芽力に依存し種組成が単純化する恐れがあるため、伐採後に散布される種子は、長い時間スケールのなかで多様性を高めるための材料として重要であると考えられる。
著者
村上 拓彦 望月 翔太
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.233-242, 2014-11

リモートセンシングによる植生マッピングについて、リモセンデータの選択、ピクセルベースとオブジェクトベース、新しい画像分類手法の順番で論じた。リモセンデータとして、地球観測衛星、航空機搭載型センサ、UAVに言及した。地球観測衛星は空間分解能別に各種衛星・センサを紹介した。画像分類の最小単位としてピクセルベース、オブジェクトベースにふれた。高分解能衛星データの登場後、オブジェクトベースでの植生マッピングの機会が多くなっている。新しい画像分類手法として機械学習に着目し、人工ニューラルネットワーク、決定木、サポート・ベクタ・マシン、集団学習について解説した。その他、ハイパースペクトル、多時期データ、スペクトル情報以外の情報を用いた植生マッピングについても事例を紹介した。今後はリモートセンシングの単なる可能性を示すだけでなく、植生に関連する主題図という高次プロダクトを確実に提供できる体制を整える必要もある。
著者
清和 研二 大園 亨司
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態學會誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.291-295, 2011-11 (Released:2012-12-03)

森林生態系における生物多様性の減少は著しいが、一方では種多様性の復元が試みられている.本来、復元のシナリオは自然群集における種多様性維持メカニズムに沿ったものでなければならない.しかし、温帯林における種多様性維持メカニズムに関する研究は、熱帯に比べ少ない.とくに、温帯では、光・水分・養分などの非生物的な無機的な環境の異質性を仮定したものが多く、生物間の相互作用が多様性を創り上げるといったパラダイムの研究は少ない.本特集では病原菌・菌根菌などの微生物や鳥類・シカ・ネズミなどと樹木との相互作用が森林の樹木群集および森林生態系全体の種多様性に大きな影響を与えることを具体的な事例から紹介する. とくに5つのキーワード(密度依存性、空間スケール、フィードバック、種特異性、生活史段階)を取り上げ、個体・個体群レベルでの相互作用から群集レベルでの種多様性維持メカニズムへのスケールアップを試みた.しかし、樹木の死亡や成長に及ぼす作用形態・重要度は個々の生物種によって大きく異なり、スケールアップは単純ではないことが示唆された.今後は、複数の生物種との相互作用を同時にかつ長期的に観察することによって種多様性の創出・維持メカニズムがより詳細に明らかになると考えられる.
著者
岸 茂樹
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.61-64, 2015-03

アレンの法則とは、恒温動物の種内および近縁種間において高緯度ほど体の突出部が小さくなる傾向をいう。アレンは北アメリカのノウサギ属を例にこの仮説を提唱した。しかしこの例を含めてアレンの法則は検証例が少ない。そこで本研究ではアレンの法則が書かれた原典からノウサギ属Lepusのデータを抜き出しアレンの法則がみられるか検証した。その結果、相対耳長と緯度には有意な相関はみられなかった。相対後脚長、および体長と緯度には正の相関がみられた。したがって、アレンが記録した北アメリカのノウサギ属にはアレンの法則はみられず、むしろベルクマンの法則がみられることがわかった。相対耳長と緯度に負の相関がみられなかった主な原因は、低緯度地域にも耳の短い種が生息することである。耳の長さには緯度以外にも生活様式や生息場所が大きく影響するためと考えられる。