著者
山内 泰樹
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.57-64, 2009 (Released:2019-11-08)
参考文献数
13
被引用文献数
1

色覚を司る視覚メカニズムのフロントエンドは異なる感度を有する3種類の錐体である。近年,非侵襲な方法により,これらの錐体の網膜上での存在比率を計測する技術が発達してきた。本稿では,それらの方法のうち,網膜像撮影方法と分光視感効率による推定方法について概説する。前者は,補償光学(adaptive optics)を用いて生体の網膜像を撮影する手法と,錐体の選択的な光反応特性を用いたものであり,後者は網膜電位法(ERG)により分光視感効率を求め,遺伝子解析により求めたL,M錐体のピーク感度を用いてこの分光視感効率を重みづけ,近似することにより推定する方法である。これらの方法により,L/M錐体比は被験者間で大きく異なることが示された。また全く異なる両者の結果が高い相関を有することから,両者とも有効な手法であることを示す。
著者
不二門 尚
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.19-22, 2011 (Released:2019-11-22)
参考文献数
9
被引用文献数
1

3D映像を見ているときの輻湊と調節の関係を,両眼同時に測定できる波面センサーを用いて測定すると,Step状に飛び出しの3D映像を提示した場合には,調節は一過的に近視化した後,また画面上に戻り,輻湊と調節が解離することが示された。3D映像4時間視聴後の視機能の変化を118名の正常被検者で検討すると,一過的な近視化,縮瞳,内斜傾向が有意に認められ,副交感神経系優位の変化と考えられた。立体視の感受性期は6歳くらいまでであることが報告されている。3D映像は,両眼の像を偏光眼鏡または液晶シャッター眼鏡で分離する方法をとっているため,両眼視が不安定な小児に対しては,慎重な対応が必要である。
著者
川守田 拓志
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.1-7, 2014 (Released:2014-07-17)
参考文献数
15
被引用文献数
1

光学性能評価法は,点像強度分布関数(PSF)や変調伝達関数(MTF)など様々あり,眼球光学系のコントラスト伝達特性と視覚系全体のコントラスト伝達特性を意識して評価する必要がある。眼球光学系のMTFと網膜中枢系の閾値関数から視力を推定することができる。デフォーカス時にはMTFが低下し,偽解像という視力やコントラスト感度の変動に影響する現象が発生する。光学シミュレーションを用いて,この偽解像が視力に与える影響を検証する。
著者
加藤 欣也
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.89-93, 2015

レンズの瞳は開口絞りの像である。レンズおよびレンズ系の入射瞳は物体空間から見た開口絞りの像, 射出瞳は像空間から見た開口絞りの像である。別の言い方をすれば入射瞳, 開口絞り, 射出瞳はそれぞれ共役面である。  顕微鏡対物とリレーレンズを繋ぐ際, 顕微鏡対物の開口絞りとリレーレンズのそれとは共役面でなければならない。顕微鏡対物の射出瞳とリレーレンズの入射瞳が共役面であることが重要である。そうでないと視野周辺の像強度が急激に低下する。解決策は対物とリレーレンズの間にフィールドレンズを挿入することである。同様の理由で撮像素子の瞳とレンズ系の射出瞳を一致させることが望ましい。  瞳の球面収差によって視野周辺に影が生ずる。眼の移動に伴って, 影は視野内を動き回る。瞳の軸上色収差によって視野中心と周辺における色調差が生ずる。眼の移動に伴って, 視野のある部分の色調が変化する。
著者
木下 望
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.95-98, 2019 (Released:2019-12-25)
参考文献数
19

オルソケラトロジーの近視進行抑制効果について,2005年以降世界中より多数の研究が報告されメタ解析も報告されるに至り,オルソケラトロジーは現在最も信頼性が高い近視進行抑制治療法であると認知されるようになった。一方,0.01%アトロピン点眼液は2012年にその効果が報告され近年注目されている。両者ともに作用機序の詳細は不明だが,オルソケラトロジーは光学的,アトロピンは薬理学的であり,両者の作用機序は異なる可能性が高い。我々は両者の併用の有効性を確かめる前向き臨床研究を施行し,相加効果があることを報告した。
著者
角 友起 岩本 義輝
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.12-18, 2010 (Released:2019-11-08)
参考文献数
17

サッケードは,視覚目標を視力の高い網膜中心窩で捉えるための急速眼球運動である。中心窩は小さいためサッケードには高い正確さが求められる。この正確さを支えるのが,サッケード適応と呼ばれる運動学習の仕組みである。サッケード適応は,運動のエラーに関する視覚情報によりドライブされる。適応の実験的誘発にはサッケード中にターゲットを移動させる方法(McLaughlin paradigm)が広く用いられ,適応の多くの性質が明らかにされてきた,近年は,サッケード適応の神経機構に関する研究が進展し,小脳虫部皮質が可塑性の場として注目されている。しかし,随意運動学習における教師の役割を果たす神経信号に関してはこれまでほとんど知見がなかった。本総説では,サッケード適応に関する現在の知見を簡単にまとめた後,中脳上丘電気刺激を用いたサッケード学習信号に関する筆者らの研究を紹介する。
著者
祁 華
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.99-103, 2019 (Released:2019-12-25)
参考文献数
22

近視は世界的に流行し,特に東アジアでは深刻な事態になっている。近視の進行は,青少年の時期で速く,この時期のコントロールが最も重要であると言われている。ここでは近視進行抑制の手段として,非侵襲で扱いやすい眼鏡レンズ,DIMS(Defocus Incorporated Multiple Segments)レンズを紹介する。DIMSレンズはレンズ上に多数のMD(Myopic Defocus)セグメントを配置し,屈折異常補正とMDを同時に実現するレンズである。香港理工大学のチームが行った2年間のTrialでは,DIMSレンズを掛けるグループは単焦点レンズを掛けるグループより,近視度数の進行が52%,眼軸長の伸長が62%少ない,という報告がなされている。
著者
吉田 正俊
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.109-114, 2009 (Released:2019-11-08)
参考文献数
17

第一次視覚野が損傷を受けた患者において,視野上のものが見えないにもかかわらず,その位置を当てるなどの視覚情報処理能力が残存している「盲視」という現象がある。盲視の発現には数カ月のトレーニングが必要であるという知見が集まってきている。マカクザルを動物モデルとして用いた研究では,第一次視覚野の切除後にも盲視が起こることが明らかになっている。筆者らはこのような実験モデルを作成して,機能回復トレーニングによって視覚機能がいかに回復するかを調べた。継続的なトレーニングによっておよそ8週間程度で視覚弁別の成績がほぼ正常と同等のレベルまで回復することが明らかになった。しかし,詳しく調べると以下の違いがあることが明らかになった。1)サッカードの制御にも影響を与える,2)意志決定の過程にも影響を与える。これらの知見は新しいリハビリテーションの方策と効果判定に役立つと考えられる。
著者
原 直人
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.47-51, 2012 (Released:2019-11-22)
参考文献数
28
被引用文献数
3

ストレスに対する生体の評価あるいは視覚疲労の生理的評価のために瞳孔反応を用いた方法が研究されてきた。瞳孔径は,精神活動であるストレス,覚醒,注意,あるいは眠気などに相関して増大する。したがって瞳孔反応は,扁桃体あるいは前頭葉機能との相互関係により調節されており,情動発現や認知過程に関する単純な反射ではなく,脳活動全般の指標であることが示唆されている。自律神経系反応としての瞳孔径の変化が,ストレスと強い相関関係にあるバイオマーカーとして用いられている。また瞳孔振動・ゆらぎを指標として,ストレスや睡眠との関係を研究した報告が数多くある。例えば,全身疲労で疲弊した状態では,瞳孔縮瞳に伴い大きな瞳孔のゆらぎが出現するが,それが他覚的な眠気の指標とされている。一方,疲労とは相反する状態である音楽を聴きながらのリラックス状態でも同様な縮瞳とゆらぎの出現が観察できる。いまだ情動発現における身体反応と瞳孔反応の研究は十分ではない。今後,瞳孔反応の非侵襲的な測定方法によりますます盛んになることが望まれる。
著者
西本 伸志
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.56-61, 2015 (Released:2015-12-09)
参考文献数
14

ヒト非侵襲脳活動計測技術の高精度化および脳神経活動解析技術の精緻化に伴い,ヒト脳内表象の定量理解や脳活動解読による視覚体験の可視化などの研究が進んでいる。本稿では,fMRI(functional magnetic resonance imaging)を用いた視覚体験映像化に関する進展と技術を概説する。
著者
加藤 欣也
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.1-3, 2015 (Released:2015-07-14)
参考文献数
3

単レンズは両凸(凹),平凸(凹),凸(凹)メニスカスの6種類に分類される。レンズで最も重要な仕様は焦点距離である。薄肉レンズの焦点距離はレンズから焦点までの距離であるが,凸レンズの焦点距離は正,凹レンズの焦点距離は負となる。レンズには前側焦点と後側焦点があり,空気中の焦点距離は等しくなる。厚肉レンズや組み合わせレンズの焦点距離は,主点から焦点までの距離となる。
著者
大沼 一彦
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.45-51, 2008 (Released:2019-11-08)
参考文献数
13
被引用文献数
1

最終回は高次収差のトレフォイル(矢状収差)と2次の非点収差を取り上げる。トレフォイルや2次の非点収差が球面収差とともにあると,単眼視での三重視や二重視が起きることが報告されている。ここではシミュレーション光学像により,これらの収差とデフォーカスの関係を示す。更に,トレフォイルとコマ収差の特別な組み合わせは偽調節に関係していることを示す。
著者
坂本 保夫
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-6, 2021 (Released:2021-03-30)
参考文献数
20

近年のライフスタイルでは,眼にとって「ストレス的な光」または「必要な光」として,紫外線(UV),バイオレットライト(VL),ブルーライト(BL),イエローライト(YL)が注目されている。デジタル化時代と高齢化社会において,これらの光ばく露が最適になるように,眼鏡レンズのスペクトラルバランスを考えてみる。UV,VL,BLの波長領域は重なっており,適度なばく露と過度なばく露の判別は難しい。確かに,最適な光線被ばく量には個人差がある。今後も,光から眼を守るためには,基礎・臨床・疫学的な研究・調査が必要であり,レンズの開発と使用者への啓発が望まれる。
著者
不二門 尚 洲崎 朝樹
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.89-94, 2019 (Released:2019-12-25)
参考文献数
19

軸外収差抑制のコンセプトの累進多焦点コンタクトレンズ(MFCL),および近視性の網膜像のボケを誘発する設計の同心円型多焦点MFCLが,光学的な近視進行抑制法として注目されている。CLは眼鏡と比較して,眼球運動の影響を受けないため,網膜像を理論通りにコントロールできる利点がある。MFCLの近視進行抑制率は,30%程度と報告されている。累進低加入度の累進MFCLを用いたパイロット臨床研究で,近視進行抑制が可能であることが示されたが,その機構は軸外収差理論では説明できず,調節反応量は少ないことから,調節努力軽減の機構が働いている可能性が示唆された。近年被写界深度を深めるコンセプト(extended depth of field; EDOF)のコンタクトレンズでも,臨床研究で近視進行抑制の効果が示されており,調節努力を少なくする設計のMFCLが近視抑制効果をもたらしている可能性がある。
著者
加藤 欣也
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.89-93, 2015 (Released:2016-02-04)
参考文献数
3

レンズの瞳は開口絞りの像である。レンズおよびレンズ系の入射瞳は物体空間から見た開口絞りの像, 射出瞳は像空間から見た開口絞りの像である。別の言い方をすれば入射瞳, 開口絞り, 射出瞳はそれぞれ共役面である。  顕微鏡対物とリレーレンズを繋ぐ際, 顕微鏡対物の開口絞りとリレーレンズのそれとは共役面でなければならない。顕微鏡対物の射出瞳とリレーレンズの入射瞳が共役面であることが重要である。そうでないと視野周辺の像強度が急激に低下する。解決策は対物とリレーレンズの間にフィールドレンズを挿入することである。同様の理由で撮像素子の瞳とレンズ系の射出瞳を一致させることが望ましい。  瞳の球面収差によって視野周辺に影が生ずる。眼の移動に伴って, 影は視野内を動き回る。瞳の軸上色収差によって視野中心と周辺における色調差が生ずる。眼の移動に伴って, 視野のある部分の色調が変化する。
著者
堀口 浩史 仲泊 聡
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.77-81, 2010 (Released:2019-11-08)
参考文献数
23
被引用文献数
2
著者
神田 寛行
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.98-101, 2015 (Released:2016-02-04)
参考文献数
11
著者
洲崎 朝樹
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.16-18, 2021 (Released:2021-03-30)
参考文献数
23
被引用文献数
1
著者
有賀 義之 梶田 雅義
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.66-71, 2017 (Released:2017-11-03)
参考文献数
5

【目的】累進屈折力レンズ(PAL)のフィッティング不適切例に対し, どのような調整を必要としたかを調査した。また, フィッティングの調整による不具合の改善を他覚的に評価できるか検討した。【方法】対象はPALを処方し2015年5月から1年の間に再来があった患者のうち, 不適切なフィッティングが認められた137名である。そのうちの3名については, PAL装用下のフィッティング調整前後でSpotTM Vision Screener(スポットビジョン)による測定を行い, 等価球面度数(SE)を比較した。【結果】頂点間距離の調整を要したのは84名, 遠用フィッティングポイント(FP)の調整を要したのも84名であった。そのうちの3名6眼の平均SEは調整前-0.56±0.44D, 調整後-0.33±0.47Dで有意差があった(t検定, p=0.0001)。【結論】PALの不具合を訴える場合, 頂点間距離と遠用FPを点検することが重要である。また, スポットビジョンは不適切なフィッティング症例の他覚的評価に有用であることが示唆された。