著者
森 文彦
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.41-52, 2021

<p>浜松中納言物語は主人公中納言の内的世界での出来事を描いている。唐后は無意識の深い層に隠れている太母(Great Mother)のイメージである。唐后は方便(計らい)によって,中納言の亡父を唐国に転生させた。それは,中納言をして自分の存在に気づかせ,「母なるもの」「女性なるもの」を内的に確立させようとする唐后の計画であった。物語は,中納言のライバル,式部卿の宮や,恋人吉野の姫君との絡みを交えて進行する。当初中納言は,衝動的で心がいつも動揺していた青年であった。しかし,唐国からの帰国後は自分の責任を引き受ける成長した男性の姿を見せ始める。最終的に中納言は,物語の重要人物すべてを世話する中心的人物になる。物語は,唐后が中納言の成長をさらに促進するために,自分自身が日本に転生すると宣言するところで終わる。物語の目的は,内的な「父なるもの」と「母なるもの」の形成と相互に関係しつつ,主体性ある人格が成長・成熟していくプロセスを描くことにあったと考えられる。</p>
著者
冨森 崇
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究
巻号頁・発行日
vol.26, pp.79-93, 2014

福島県は,東日本大震災において人類未曾有の地震・津波・原発事故・風評被害の4重苦に襲われた。特に原発事故による放射能汚染は,県民生活に大きな制限と分断をもたらし,今でもなお危機が続いている「イン・トラウマ」の状況にある。この状況下で福島県臨床心理士会は東日本大震災対策プロジェクトを立ち上げ,福島県からの委託事業,日本ユニセフ協会からの委託事業,ふくしま心のケアセンター等の県内外の多くの団体と連携・協力し,乳幼児とその保護者を対象に現地の団体だからこそできる地域に根ざした,自分たちにしかできない心理支援活動を展開してきた。本稿では,震災後の生活や福島県の現状,当プロジェクトの2年間の活動を報告する。
著者
近藤 淳実
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.29-40, 2015

本論文は,性的虐待の疑われた女児の児童養護施設内でのプレイセラピーの事例検討である。5歳8カ月で児童相談所に保護されてから,今までとはまったく異なる世界で適応していかなければならなかった。本児童がその生活に安住するためには,今までの生活は何であったのかを心の中に収めるための物語が必要であった。過去の生活を垣間見るプレイと今の生活を確認するプレイを繰り返しながら,本人の過去を収めていく過程を考察した。
著者
角田 哲哉
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.29-41, 2016 (Released:2017-03-24)
参考文献数
12

軽度の発達障害傾向のある場面緘黙女子中学生は,箱庭が格好の「窓」となり,象徴的な表現を含む興味深い作品を次々とつくった。その過程で,彼女は自己の内界へと向かい,自己と対話を重ねる中で,自らのたましいの声とも言えるものに導かれて自立性を確立することができた。本論文では,箱庭と併せて,場面緘黙に特徴的な身体緊張の緩和をねらったアプローチを行ったが,その過程を追うことで,軽度に発達障害傾向のある場面緘黙の人の箱庭療法の有効性を述べた。
著者
赤川 力
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.67-77, 2015 (Released:2016-02-08)
参考文献数
20

本稿は,潜在性統合失調症の思春期女子との面接過程である。面接過程において,持参した本の一節を素材にして面接が行われた。まず,第1期は受け入れる時期であり,病棟スタッフなどの援助者を受け入れる葛藤が見られた。第2期では幻覚・妄想状態に入っていく。個性化過程には避けられない変容過程が見られた。第3期において父親との対決となる。これまで脅威であった父親と向き合うことになった。第4期で家族とセラピストとの別れの時期となる。これらの面接過程において,クライアントから提示された本の一節を言葉のコラージュとして,他のイメージと共に検討し,言葉のコラージュの意味についても検討した。この過程におけるクライアントとクラピストとの転移・逆転移の関係について検討した。さらに,セラピストがクライアントに抱いていた罪悪感についても検討した。

1 0 0 0 OA Sandspiel 50年

著者
山中 康裕
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.1-2, 2017 (Released:2017-04-19)
著者
田附 紘平
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.51-60, 2021 (Released:2022-05-13)
参考文献数
15

我が国において,夢に関する臨床的な研究は,夢の内容を扱ったものがほとんどであった。近年,夢の構造に着目する意義が指摘されているが,その基礎研究・事例研究ともに不足している。本研究の目的は,基礎研究として,日本人の夢の構造の年齢による差異および性差を検討することであった。オンライン調査によって得た20代~70代の調査協力者392名による夢の記述を評定した後,重回帰分析を実施した。その結果,性差はみられず,年齢による差異が多くみられた。具体的には,年齢が高いと,「困難状況の発生」「他(者)による主導権」「他(者)からの働きかけ」「他(者)とのやりとり」「他(者)の状態の連続性なし」「他(者)の実態の曖昧さ」「私の行動の制御不可能性」「私の状態の連続性なし」が有意に少なく,「私の主体的行動」「私の主観的描写」が有意に多かった。
著者
江野 肇
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.3-13, 2021 (Released:2022-02-04)
参考文献数
10

今日,“心の傷”という言葉はPTSDの概念を超えて日常語として使用されている。“心の傷”の心理療法では,その背後にある“原因”を“特定”して,“取り除く”“修正する”ことで治療するモデルがしばしば使用される。しかし,特に児童養護施設の子どもたちにこれらを適用する場合,彼らの体験の個別性を見落としてしまう等の限界が認められる。よって,本論では,ユング派の内在的アプローチの視点から児童養護施設でのプレイセラピーの事例を考察し,傷を“取り除く”のではなく,傷に“近づく”ことによる治療の有効性を検討した。最初にクライエントの表現したイメージからは,“傷つくこと”と“傷つけること”を回避する在り方が認められた。しかし,セラピストがクライエントの“傷イメージ”を共有し,深くそれに関わることで,クライエントも自身の傷つきを受け入れることができ,他者と対等に関われるようになったと考えられた。
著者
森 文彦
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.77-86, 2016

<p>更級日記は今から千年前,平安時代のある女性が書き残した日記である。更級日記には14歳から47歳までの期間,作者の見た一連の夢が記録されており,これをユング心理学の観点から見るとき,作者の個性化プロセスの興味ある記録となっていることがわかる。最後の夢においては夢に阿弥陀仏が現れ,作者の最後の日に彼女を浄土に連れて行くことを確約する。これは最初の夢における予言の成就であった。心理学的にいえば,この日記は,夢に対して関心を払い続けることの重要性,さらに夢に対してアクティヴな態度をとることの重要性を示すものである。</p>
著者
菱田 一仁
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.27-38, 2019 (Released:2019-06-14)
参考文献数
39

河合(1975)の言うように,箱庭療法は古来行われてきた箱庭遊びとの関連を持っている。そして,箱庭が生まれてきた経緯について歴史的に見ていくと,それが大嘗祭における標の山のような造り物の系譜の中に生まれてきたものであることが分かる。造り物はのちの世には次第に洲浜や灯籠,盆景といった様々な形で作られるようになった。造り物は,見立てという技法を持つことによって,その置かれる場所を超越的な経験の起こる場所へと変える力を持っているといえる。見立てとはある種の隠喩であり,それによって造り物は,見たままの意味とそれの暗示する内的な真実という二つのものを同時に表すことができるようになると考えられる。つまり,造り物という観点から改めて見るとき,同様に見立てという技法によって作られたり見られたりする箱庭も同じような特徴を持っており,だからこそそこに投影された隠れたクライエントの本質を明らかにすることができるようになると考えられる。

1 0 0 0 人為と自然

著者
梶井 照陰 豊田 光世 川戸 圓 伊藤 真理子
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.63-77, 2019

箱庭療法学研究 第32巻 第1号 pp.63-77 2019年<BR>資料<BR>人為と自然<BR>シンポジスト:梶井照陰<BR>写真家/真言宗僧侶<BR>豊田光世<BR>新潟大学朱鷺・自然再生学研究センター<BR>川戸圓<BR>川戸分析プラクシス/ユング派分析家<BR>司会:伊藤真理子<BR>新潟青陵大学
著者
村尾 泰弘
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.25-37, 2020 (Released:2020-10-12)
参考文献数
6

本研究では,少年鑑別所で自閉症スペクトラム障害の疑いと診断された犯罪少年(殺人未遂)の心理臨床を検討した。この少年(中3)は緘黙の症状を呈していたので,セラピストは,面接では言語的なコミュニケーションを補うものとして,箱庭やMSSM,写真などを用いて関わった。箱庭にはコミュニケーションの回復過程が示された。発達障害の少年の非行臨床においては,被害者意識の理解が重要であり,その理解のためには,情緒的共感性をよりどころにして,心の交流を行うことが重要になること,また,認知や共感性の特性等,障害特性を考慮すれば,発達障害の非行臨床は一般の非行少年の臨床とあまり変わらないのではないかという問題提起を行った。
著者
永山 智之
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.65-80, 2014

本研究では,PAC分析と円を用いた描画法を用い,対人恐怖的心性・ふれ合い恐怖的心性との関連から二者状況と三者状況における体験や困難の生じるダイナミクスを検討し,そこでの関係の持ち方から特徴的な対象関係を探った。その結果,両心性とも低い群の事例では,その場その場の状況に応じて個々の他者との関係を築く柔軟性が窺えた。一方,両心性とも高い群・ふれ合い恐怖的特徴を持つ群の事例では,それぞれ三者,二者で困難な状態となっていたことが窺え,共に人数構造と関係の持ち方の齟齬が特有の否定的体験につながっていたことが推察された。そして,前者には二人称の他者の求める役割,後者には場における役割に同一化することで自己愛を満たす防衛的対象関係が見出せた。