著者
小瀬古 伸幸 長谷川 雅美 田中 浩二 進 あすか 木下 将太郎
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.23-32, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
30

【目的】WRAPの視点を反映した看護計画を用いた精神科訪問看護の効果を明らかにすることである.【方法】本研究では1群事前事後テストデザインを用いた.2015年1月~9月に精神科訪問看護を受けている15名を対象にWellness Recovery Action Plan(WRAP)の視点を反映させた看護計画を用いた介入を6か月間行い,介入前と6か月後で日本語版Profile of Mood States(POMS)短縮版,日本語版Rosenberg Self Esteem Scale(RSES-J),日本語版Rathus Assertiveness Schedule(RAS),Global Assessment of Function(GAF)を測定した.【結果・考察】6か月後の中央値で有意に改善したものは,POMSの「不安-緊張」「抑うつ-落ち込み」「活気」「疲労」「混乱」,RASの「目標志向・成功志向・希望」「自信をもつこと」「手助けを求めることをいとわないこと」,GAFであった.WRAPの視点を反映させた看護計画を用いた精神科訪問看護は,リカバリーを促進する有効な方法であると示唆された.
著者
福井 美貴 松村 幸子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.22-32, 2003-05-15 (Released:2017-07-01)
参考文献数
23

本研究の目的は、心的外傷後ストレス障害に罹患した犯罪被害者が、回復過程で体験している「思い」の特徴を明らかにし、さらに回復に影響を与える「思い」の傾向を明らかにすることである。倫理的な配慮の上同意を得た10名の患者に非構成的な面接を実施し、質的帰納的に分析し、さらにIES=R値(Impact of Event Scale-Revised)の変化を基に患者を回復群と非回復群に分けて比較した。その結果、以下の知見が得られ、地域精神看護への示唆を得た。1. (1)被害への思い、(2)警察への思い、(3)裁判への思い、(4)被害後の苦痛な思い、(5)回復への思い、(6)家族との関わりへの思い、(7)友人との関わりへの思い、(8)社会との関わりへの思いの8つのカテゴリーが抽出され、対象理解を目的としだ犯罪被害者の回復過程のおける思いの全体像"が明らかになった。2.回復群に特徴的な思いとして『加害者への怒り』、非回復群に特徴的な思いとして『安全感が脅かされる恐怖』であることが明らかになった。
著者
髙谷 新 安保 寛明 佐藤 大輔 新宮 洋之
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.28-37, 2023-06-30 (Released:2023-06-30)
参考文献数
29

本研究は,看護師長のリーダーシップと看護職員の心身のストレス反応の関連において,仕事のストレス要因の高低による看護職員のワーク・エンゲイジメントの媒介効果の影響を明らかにすることを目的とする.16病院の看護職員1,213人を対象に無記名自記式質問紙調査を行い,マルチレベル相関分析および調整媒介分析を行った.有効回答は403部であった.マルチレベル相関分析では,個人レベルでワーク・エンゲイジメントと看護師長のリーダーシップに正の相関が,職業性ストレスとは負の相関が認められた.また,集団レベルでは看護師長の人間関係志向のリーダーシップと職業性ストレスに負の相関が認められた.調整媒介分析では,高ストレス状況下での変数間の関連について推定を行い,結果として課題志向,人間関係志向両方のリーダーシップの発揮が看護職員のワーク・エンゲイジメントを媒介し,心身のストレス反応に影響を与えていたことが明らかとなった.
著者
小宮(大屋) 浩美 鈴木 啓子 石野(横井) 麗子 石村 佳代子 金城 祥教
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.21-31, 2005-05
被引用文献数
7

本研究は、精神科看護者が体験している患者による暴力的行為の種類や影響と看護者の対処について詳細に説明する質的記述的研究である。先行研究から暴力を看護者に身体的・心理的影響を与える患者による身体的・言語的・性的な行為と定義した。A精神科病院の看護師18名を対象に、患者による暴力の体験についての半構造的面接を行い、その結果を暴力の定義に基づいて分類した。対象者は、「拳骨で殴る、平手で殴る」等の身体的暴力、「脅迫、誹謗・中傷」等の言語的暴力、「抱きつく、キスしようとする」等の性的暴力を受けていた。暴力により身体的傷害を負っても、周囲にはあまり大げさに振る舞わない傾向があった。また、対象者は「患者への恐怖や怒り、ケアへの自信喪失、自己嫌悪」等の心理的影響も受けていた。これらに対し、直後は暴力被害の事実を考えないようにしたり、暴力を振るった患者に共感的に関わらないなどの回避的な対処を行っていた。暴力被害看護師へのサポートとして、感情を表出させるデイブリーフイングが有効だと言われている。しかし、今回の結果では、あえて暴力を受けた看護者の感情にふれずに見守るという周囲のサポートが行われていることが明らかになった。現状では、暴力被害を乗り越えることが被害を受けた看護者自身に任されており、教育と支援のためのシステムを検討する必要性が示唆された。
著者
宮島 直子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.116-127, 2010-06-30 (Released:2017-07-01)
参考文献数
25

本研究の目的は,統合失調症患者の手記から,発症前エピソードを生活の視点で抽出し,その概要を記述することである.手記を研究対象とすることは,研究に関わるプライバシーの問題を解決するとともに当事者に詳細に尋ねることによる過重なストレスを与えない方法として,有効と考えた.研究の手順および分析方法は,まず手記から発症前生活エピソードが記述されている文章をすべて抜き出し,一文を一データとした.次にデータは,意味内容から抽象度を上げコード化し,それぞれのコードは類似性を基にカテゴリー化した.そして得られたカテゴリーの関連性を検討し,カテゴリーについての説明可能な軸を抽出した.結果として,9冊の手記から3,401のデータを得た.データから138の二次コードを抽出し,それらは13のカテゴリーに分類できた.そして,それらのカテゴリーは6つの軸で説明することができた.軸は,【対人関係をめぐる苦痛】【認識の歪み】【的外れな対処】【状況把握の困難】【日常生活上の障壁】【仮面の生活】であった.【状況把握の困難】は,人間の言動の根幹に影響を与え,他のすべての軸に関連する中核的存在とみなすことができた.それぞれの軸について,過去の文献と比較検討し,その妥当性を確認した.
著者
田中 浩二
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.33-42, 2011
参考文献数
16

本研究は,精神科病院に長期入院を余儀なくされた患者が体験している生活世界を明らかにすることを目的とした質的記述的研究である.研究参加者は,精神科病院に10年以上入院している患者12名であり,参加観察と半構造的面接によりデータを収集し,質的帰納的に分析した.その結果,長期入院患者は【失ってしまったものが多く自らの存在が危うくなるような体験をしている】が,【入院前の自分らしい体験に支えられた生活】や【入院生活のなかでみつけた小さな幸せ】【病棟内から社会とのつながりを見いだそうとする工夫】【生きていくうえでの夢や希望】を拠り所に生活していることが明らかになった.長期入院患者の看護では,喪失体験に対する共感的理解とともに,その入らしい生活を送ることができるような場や人とのつながりを探求していくことが重要である.
著者
榊 惠子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.24-33, 2004-05-31

この研究の目的は、アルコール専門病棟での患者と看護師の関係及び看護師の体験の特徴を考察することである。7ヶ月にわたる民間精神病院のアルコール専門病棟のグループワークを中心としたAlcoholism Rehabilitation Programでの参加観察および看護師へのグループインタビューで得たデータを質的に分析した。24時間、患者とともに過ごす看護師は、患者の人間物語を目の当たりにすることで、自分自身との対面を迫られていた。それにより、両者の心理的壁は紙一重と言ってよいほど薄くなっていた。さらには「自分1人では断酒できない」患者の無力感を前にして、看護師自身も無力感に陥っていた。看護師はそうした感情を回避するために、患者と距離を取ろうとしたり、「持ちつ持たれつ」の関係を作り出していた。しかし、病棟生活では患者の悲惨な死の話題ももたらされるので、両者の傷つきは非常に深かった。両者は、そうした患者の死を悼む者同士として、夜間に患者の死を知らせあうなど、互いにつながりを作ることで「喪の作業」を行っていた。
著者
藤野 成美 脇崎 裕子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.105-115, 2010
参考文献数
28

本研究の目的は,高齢期の長期入院統合失調症患者がとらえる老いの認識と自己の将来像について明らかにし,看護実践への示唆を得ることである.研究対象者は,精神科病院に10年以上入院中である65歳以上の統合失調症患者7名であり,半構造化インタビューを実施し,質的帰納的分析を行った.その結果,老いの認識は「加齢に伴う心身能力の衰え」「精神科病院で老いていくしかない現状」「満たされることのない欲求の諦め」「死に近づく過程」であり,自己の将来像は「期待が心の糧」「成り行きに身を任せる」「将来像を抱くことを断念」であった.長期入院生活で老いを実感した対象者が語った現実は,社会復帰は絶望的であるという心理的危機状況であったが,現状生活に折り合いをつけて,心的バランスを保っている心情が明らかとなった.退院の見通しがつかない現状であるが,その人がその人らしく生きていくために,少しでも自己実現のための欲求を満たすことができるよう支援する必要がある.
著者
柴田 真紀
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.23-32, 2015

【目的】精神科病棟でのフィールドワークを通して,看護師が患者と関わる中でその語りを聴こうとするとき,どのような体験をするのかを明らかにし,精神科入院治療における看護師-患者関係の治療的意味とその難しさについて考察する.【方法】参加観察法を用いた実践研究.一病棟(精神科亜急性期)にて1年10ヶ月の間,毎週1回,計84回参加観察を行い,6名の患者との関わりを記録し分析した.【結果および考察】患者と看護師の関わりは他職種と比べて,時間,場所,内容の枠組みが曖昧で,患者の語りは言葉だけでなく身体接触からも生じていた.妄想や幻聴により断片化し混沌とした患者の語りを理解する手がかりとして間主観的接触が重要な役割を果たすことが明らかになった.しかし,その体験は看護師の不安を刺激し,防衛としてのルチーン化した関わりを生み出すこともあった.
著者
今泉 亜子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.30-39, 2014

本研究の目的は,精神科病院に長期入院している患者たちとのゲームを通してのかかわりから,その場にどのような相互交流が生み出されるのかを明らかにするとともに,その意味を考察することである.研究者はオセロで遊ぶことをすすめる目的としていたわけではなく,ただ患者たちの求めに応じてオセロを行っていた.だが患者たちが次々と参加してきたため,オセロは途切れることなく,フィールドワーク最終回まで行われた.他者との繋がりを恐れながらも求めていた患者にとって,オセロは人に近づくきっかけとなり,オセロの場はたんなる遊びの場ではなく,相互交流の場となっていた.また「葛藤が生じれば逃げる」「相手を容赦なく叩きのめす」などというオセロのやり方と患者の"問題行動"には共通するパターンが見られ,患者のこれまでの生きてきた世界を映し出していた.患者は遊びの中で自分を表現し,人とのかかわりを体験することにより,繋がりを回復し成長することができる.それをサポートするためには,看護師には患者と遊べるようなゆとりが必要であり,病棟全体も,そうしたゆとりを作っていく工夫が求められる.
著者
寳田 穂
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.10-19, 2009-05-31 (Released:2017-07-01)
参考文献数
27

【目的】薬物依存症者への看護の実践経験を有する看護師にインタビューを行い、看護の体験を描き出し、薬物依存症者への看護の意味を明らかにする。【方法】半構造化インタビューによる質的研究。インタビュー期間:2003年7月〜9月。参加者:12名。質問:(1)看護に関連する印象的な出来事、(2)その出来事への思いなど。インタビュー総時間:700分。【結果及び考察】看護師と薬物依存症者の感情には「無意識の対称性」がみられた。看護師は、薬物依存症者に「巻き込まれない」「負けない」ように看護を継続するも、薬物をやめさせることは困難だった。看護の限界や無力に気づいた看護師は、葛藤しながらも、患者との対話を大事したコラボレイティヴな関係を築いていった。看護の限界や無力に気づくことは、看護の質の変化へのターニングとなっていた。また、薬物依存症者への看護には、患者とのコラボレイティヴな関係を通して、患者と看護師の相互成長がもたらされるという意味があると考えられた。
著者
古城門 靖子 赤沢 雪路 曽根原 純子 武井 麻子 寳田 穂
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.19-28, 2016-06-30 (Released:2017-06-30)
参考文献数
14

看護師は日常的な感情労働の代償として共感疲労に陥る危険性が高く,職場における自らの感情面での健康状態に気づき,対処する必要がある.そのためには,感情知性(emotional intelligence: EI)と呼ばれる能力が重要であると言われている.そこで本研究では,病棟チームの柱となって働いている中堅看護師を対象として言語による交流を中心としたグループを毎月1回,計10回行い,そこで語ることが中堅看護師のEI育成に有用であることを実証的に明らかにすることにした.研究参加者は総合病院に勤務する実務経験4年以上の中堅看護師7名である.結果として,参加者たちは仕事にまつわる不安や管理者への期待と不満を徐々に語りだし,それが過去の体験とつながりがあることに気づいた.こうして彼らは,グループの中で新たな他者への信頼と自信を取り戻していった.
著者
森 貴弘 國方 弘子 多田 達史 和田 晋一
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.33-41, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
22

本研究の目的は,新人看護師に対して自己効力感向上集団CBT介入を行うことで,介入前後の自己効力感,レジリエンス,認知とストレス反応に変化があるかを検証することである.新人看護師9名を対象に,全4回で構成する介入プログラムを実施した.実施前,実施直後,実施1ヶ月後に,一般性セルフ・エフィカシー尺度,看護師レジリエンス尺度,推論の誤り尺度を用いて自記式質問紙で測定した.プログラム毎回の実施前後に唾液アミラーゼを測定した.統計解析は一元配置線形混合モデルを用い効果量を算出した.結果,新人看護師を対象にした自己効力感向上集団CBT介入は,「行動の積極性」「能力の社会的位置づけ」の自己効力感ならびにレジリエンスを向上させる可能性があると示唆された.また,集団で行うCBT介入は,聴き手に負担がかかる可能性があることから,リラックス効果を得るために,セッション終了後にアイスブレイクを設ける必要性が示唆された.
著者
澤田 華世 香月 富士日 金子 典代 塩野 徳史
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.10-18, 2023-06-30 (Released:2023-06-30)
参考文献数
30

ゲイ・バイセクシュアル男性は,自殺未遂のリスクが高いと指摘されている.メンタルヘルス改善に向けた支援方法の確立が急務であり,本研究では,「人生の満足度」に着目し,人生の満足度に影響を与える心理的要因を明らかにすることを目的とした.20歳以上のゲイ・バイセクシュアル男性を対象に,インターネット調査を実施した.質問項目は,基本属性,対人関係,日本版気分・不安障害調査票(K6),改訂版UCLA孤独感尺度,人生満足度尺度,状態自尊感情尺度,日本語版SOCスケールで(SOC-13),Brief COPEとした.質問紙へのアクセスは1,877名で,分析対象者は499名であった.人生の満足度を従属変数とし,重回帰分析を行った結果,自尊感情(β = 0.586),孤独感(β = –0.170),肯定的再解釈(β = 0.101),受容(β = 0.063)の4要因が抽出された.本結果をもとに,今後ゲイ・バイセクシュアル男性のメンタルヘルス改善に向けたプログラムの開発など検討していく必要がある.