著者
小山 知秀
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.723-727, 2023-05-31 (Released:2023-11-30)
参考文献数
48

腹部コンパートメント症候群(abdominal compartment syndrome:以下,ACS)は致命的な病態である。一般に,ACSの内科的治療を行っても腹腔内圧が下がらずに26mmHg以上のGrade Ⅳ状態かつ臓器障害を認める場合は,内科的治療の限界であるため外科的治療つまりopen abdomen management(以下,OAM)を行うことになる。しかし,一旦OAMとなった後の根治的閉腹に至るまでの経過は画一的なものではなく,各局面で治療方針の判断を下すにあたって常に理想と現実の狭間で悩まされることになる。
著者
内藤 善 竹林 徹郎 真名瀬 博人 平野 聡
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.781-784, 2023-05-31 (Released:2023-11-30)
参考文献数
13

症例は20歳台,男性。ライフル銃を発砲し当院に救急搬送となった。前胸部に銃弾の射入口を,左側腹部に出血を伴う射出口を認めた。CTでは,左第10肋骨骨折,脾臓下極に境界不明瞭な領域を認めた。外傷性脾損傷の診断で緊急手術を施行した。術中所見では脾臓下極に裂傷を認めるも出血量は多くなかったため腹腔鏡下に脾臓を一部切除し,焼灼止血で手術を終了した。術後6日目には射出口部創より便汁漏出あり腸管穿孔と診断し,再手術で下行結腸に穿孔を認め,結腸左半切除術を施行した。術後は創感染を併発したが他に合併症なく経過し,術後4週目に近医へ転院となった。高速で放たれた弾丸はshock waveを生み出し周囲に損傷を与えつつ移動することが知られている。本症例では弾丸によるshock waveとtemporary cavitationにより結腸壁に損傷が生じ,遅発性の腸管穿孔を発症したと考えられた。
著者
桒田 亜希 内藤 浩之 平野 利典 海氣 勇気
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.511-514, 2017-03-31 (Released:2017-07-22)
参考文献数
18
被引用文献数
1

患者は83歳,男性。朝,下痢あり。夕方になり激しい嘔吐が出現した。改善しないため救急要請し当院に搬送された。CTで胃壁内気腫,門脈内ガスを認めた。腹膜刺激症状なく,全身状態は安定していたため,同日入院とし保存的治療を施行した。翌日のCTでは胃壁内気腫および門脈ガスは消失した。上部消化管内視鏡で胃大弯に発赤,白苔の付着を認めた。胃粘膜培養は陰性であった。経過は良好で,第5病日より食事を開始し,第10病日に退院となった。今回われわれは保存的治療で軽快した門脈ガス血症を伴う胃壁内気腫の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する。
著者
小原 恵 小野 文徳 平賀 雅樹 佐藤 学
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.8, pp.1323-1326, 2013-12-31 (Released:2014-07-02)
参考文献数
10

症例は39歳,男性。土木業。20歳のときに胃十二指腸潰瘍で胃切除術を受けた既往がある。作業中に転倒した際,腹部に鉄筋が刺さって受傷し,当院に救急搬送された。来院時,意識は清明だが痛みのため座位しかとれなかった。腹部単純X線写真で鉄筋が明らかに腹腔内に貫通していることを確認したが,体位の問題などからCT検査は施行せず,救急外来から直接手術室に移動させて緊急手術を施行した。鉄筋は腹壁,横行結腸間膜,網囊,残胃後壁を貫通していた。開腹手術の既往により上腹部の癒着が高度で残胃の修復が困難であり,鉄筋の刺入ルートに沿ったドレナージを施行した。また,術後第1病日に左血気胸が判明し,胸腔ドレーンを留置した。術後第7病日に上部消化管造影を行い,穿孔部の閉鎖を確認して食事摂取を開始した。術後経過は良好であり,術後第20病日に退院した。状況に応じて適切な判断が求められる症例であり,文献的考察を加えて報告する。
著者
尾本 健一郎 大石 崇 磯部 陽 松本 純夫
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.733-736, 2014-03-31 (Released:2014-09-29)
参考文献数
13

原発性腹膜癌の初発症状は多量の腹水貯留による腹部膨満などが多く,腸閉塞症状はまれである。今回,癒着性腸閉塞として加療されていたが手術を契機に診断された1例を経験した。症例は71歳女性。左付属器切除術,子宮膣上部切断術および2度の腸閉塞歴がある。嘔吐,右下腹部痛で当院受診。CT画像で腸管の拡張がみられ,石灰化が目立っていたが腹水は少量であり,あきらかな腫瘤を指摘できなかったことから癒着性腸閉塞の再発として入院となった。保存的加療されていたが,全身状態悪化のため第5病日に手術を施行した。回腸約40cmが一塊となっており,後腹膜と強固な癒着を呈していた。小腸部分切除術を施行した。術後第40病日に軽快退院。病理診断で卵巣漿液性乳頭状腺癌と類似し,原発性腹膜癌と診断した。漿膜面の腹膜播種による硬化から腹膜癌が腸閉塞の原因と考えられた。
著者
松田 直樹 金谷 欣明 治田 賢 高尾 智也 藤井 徹也 平井 隆二
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.107-111, 2017-01-31 (Released:2017-04-03)
参考文献数
8

症例は78歳女性。突然腹痛が出現したため近医受診し腹部所見より汎発性腹膜炎が疑われ当院内科受診した。腹部CTを施行したところS状結腸の腸管壁の不連続,周囲のfree airおよび脱出した便塊を認め,S状結腸穿孔が疑われ同日外科紹介となり,緊急手術を施行した。術中所見としてはS状結腸に2cm大の穿孔を認め,腸管内外に硬い便塊が認められたため,ハルトマン手術を行った。患者は糖尿病性腎症による腎不全のため9年前より血液透析導入されており,カリウムコントロールのためポリスチレンスルホン酸ナトリウム(Sodium polystyrene sulfonate:以下,SPS,ケイキサレート)を服用していた。術後の病理所見では穿孔部の腸管壁へのSPSの沈着が認められた。SPS服用による腸管穿孔や潰瘍形成の報告が散見されており,本症例も病理所見よりSPS服用がS状結腸穿孔の発症に関与している可能性が示唆されたため,文献的考察を交えて報告する。
著者
西口 遼平 進藤 吉明 石塚 純平 上野 知尭 横山 直弘 齋藤 由理 田中 雄一
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.7, pp.1389-1393, 2014-11-30 (Released:2015-02-27)
参考文献数
29

症例は76歳,男性。2010年4月に上行結腸癌,腸回転異常症の診断で右半結腸切除術を施行した。2013年10月,慢性腎不全で血液透析導入中に腹痛,腹部膨満感を訴え当科を受診した。発熱,下腹部の圧痛,反跳痛を認めたものの筋性防御は認めなかった。血液検査所見ではアシドーシスや凝固障害は認めなかった。腹部CT検査で小腸の拡張および液体貯留を認め,癒着性イレウスと診断した。保存的加療で経過観察していたが,症状が増悪したため緊急手術を施行。下行〜横行〜上行結腸間膜,小腸間膜,後腹膜に連続する袋状の膜様構造物が形成され,その中に小腸が嵌頓しており,abdominal cocoonによる内ヘルニアと診断した。膜様構造物を切除し小腸を解放したが小腸壊死を認めなかったため小腸は温存可能であった。abdominal cocoonによる内ヘルニアの1例を経験したので報告する。
著者
林 泰寛 高村 博之 正司 政寿 中沼 伸一 古河 浩之 牧野 勇 中川原 寿俊 宮下 知治 田島 秀浩 北川 裕久 太田 哲生
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.747-751, 2014-03-31 (Released:2014-09-29)
参考文献数
9

劇症肝炎は,その急激な病態の進行から他臓器障害を発症する例にもしばしば遭遇する。今回われわれは劇症肝炎に急性膵炎を合併した2例を経験した。2例の肝障害の内訳はB型慢性肝炎急性増悪1例,原因不明1例であった。2例ともに内科的治療が奏功せず,肝移植を予定した。劇症肝炎に対する治療に並行して膵炎に対する治療も行ったが奏功せず,肝移植を中止せざるを得なかった。劇症肝炎に対する治療は肝移植を含め,一定の成績が期待できるため,他臓器合併症の予防と治療が重要であり,急性膵炎の合併にも十分な注意を払う必要がある。劇症肝炎に合併する急性膵炎においてはB型肝炎ウイルスの関与が知られている。一方で,近年high mobility group box 1の急性膵炎の病態への関与も示唆されており,その特性を利用した治療が期待される。
著者
澤田 雄 秋山 浩利 松山 隆生 和田 朋子 遠藤 格
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.1027-1031, 2012-09-30 (Released:2013-01-08)
参考文献数
25
被引用文献数
1

急性虫垂炎術後のSSIは最も頻度の高い合併症であり,患者QOLの低下や入院期間延長などの医療経済的な側面にも影響を与える。本稿では,急性虫垂炎術後のSSI予防に関する文献について概説し,あわせて当教室および関連病院で行われた急性虫垂炎手術症例のSSIについて報告する。これまでに虫垂切除後のSSI予防に関して,予防的抗菌薬,創縁保護器,吸収糸の使用,腹腔鏡の使用,二期的創閉鎖などが報告されている。われわれの検討では,切開部SSIのリスク因子は,切開法,腹腔内ドレーンの留置,虫垂の炎症所見の3因子であり,臓器/体腔SSIのリスク因子は,出血量,腹腔内ドレーンの留置の2因子であった。壊疽性虫垂炎はSSI発生頻度が高率であったが,創縁保護器の使用によりSSI発生は減少する傾向を認めた。SSI発生高危険群である壊疽性虫垂炎に対して,今後SSI予防策のさらなる研究が必要である。
著者
谷水 長丸 里見 昭 米川 浩伸 高橋 浩司 酒井 正人 池田 理恵 檜 顕成
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.51-56, 2005-01-31 (Released:2010-09-24)
参考文献数
7

小児の消化管出血はほとんどが下血として現れる。とくに食道静脈瘤に対して予防的処置を行うようになってからは, 吐血をほとんど経験していない。一方下血症例は年々増加傾向にある。とくに重要なのは緊急処置を要し, 生命予後不良な下血疾患を速やかに鑑別し対処することである。1974年から現在までの30年間に当科に入院した下血疾患症例605例を検討し, それぞれの疾患の特徴, 下血の頻度, 性差, 好発年齢, 診断法, 処置について検討する。6o5例を検討したところ, 年齢は生後0日から15歳まで平均3.55歳で男女比は1.7: 1.0だった。このうち緊急処置を要したのは腸重積, 腸回転異常症, 絞扼性イレウス, 消化管穿孔, NEC, Meckel憩室, UC, AGML, 急性虫垂炎に合併した腹膜炎DIC, 胃ポリペクトミー後出血だった。腸回転異常症の中腸軸捻転とNECで死亡例を認めた。
著者
貝瀬 満 大森 順 鈴木 将大 藤森 俊二 岩切 勝彦
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.807-812, 2018-07-31 (Released:2020-01-09)
参考文献数
21

2017年12月日本消化管学会が主幹となり関連学会と共同で大腸憩室症ガイドライン(憩室出血,憩室炎)を発表した。大腸憩室出血のkey statementを概括した。本邦では大腸憩室の保有率が上昇し,大腸憩室出血は増加している。大腸憩室出血は70~90%で自然止血し,再出血率も20~40%と高率である。大腸憩室出血の診断には止血術も可能な大腸内視鏡が推奨される。クリップ止血法では,出血点を直接把持する直達法に比べ,憩室口をふさぐ縫縮法で再出血率が高い傾向にある。出血憩室を機械的に結紮する憩室結紮法は,クリップ法に比して動脈塞栓術や外科手術への移行率が低い。憩室結紮法では少数例だが遅発性腸管穿孔も報告されている。再出血の予防にはNSAIDsと一次予防アスピリン内服中止を検討する。
著者
箕輪 啓太 清水 義博
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.593-597, 2016-03-31 (Released:2016-10-01)
参考文献数
16

クラッシュ症候群以外の外傷性横紋筋融解症で出血性ショック,呼吸不全を契機に発症した急性腎不全に対して早期から腎代替療法を施行することで救命できた1例を経験したので報告する。症例は35歳男性,125ccバイク走行中に大型トラックと衝突し,当院へ救急搬送された。画像検査にて外傷性横隔膜ヘルニア,血気胸,外傷性脾損傷,骨盤骨折を認めた。呼吸不全,出血性ショックの状態を呈しており,緊急手術にて横隔膜縫縮術,脾臓摘出術を施行した。術後経過良好だったが,腎機能障害,横紋筋融解症が増悪した。輸液療法にて様子をみていたが,尿量減少を認め,外傷性横紋筋融解症による急性腎不全と判断し,第4病日に腎代替療法を導入した。3週間程度の乏尿期が続いたが,第31病日に透析離脱できた。第52病日にリハビリ目的に転科となった。横紋筋融解症による急性腎不全に対して,早期からの腎代替療法は有効な治療法であると思われる。
著者
権田 紘丈 青葉 太郎 平松 和洋 有元 淳記
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.99-102, 2021-01-31 (Released:2021-08-20)
参考文献数
10

当院は精神科病床を有しておらず,外科的疾患を有する統合失調症患者に関しては他院から紹介となる場合が多い。今回われわれは,2014月1月から2020年1月までに統合失調症で他院精神科入院中に当院一般外科へ紹介となった急性虫垂炎8例の検討を行った。年齢の中央値は56歳で,全例で同日緊急手術となった。開腹手術が6例,腹腔鏡手術が2例であった。7例は壊疽性虫垂炎で,5例に虫垂穿孔を認めた。術後合併症は4例に生じた。統合失調症の症状で当院での入院継続困難となった症例は1例であった。在院日数の中央値は8日で,退院後は全例で紹介元病院へ転院となった。統合失調症を合併した急性虫垂炎症例では虫垂穿孔および術後合併症の頻度が高く,それらのリスクを考慮したうえで周術期管理に臨む必要があると考えられた。
著者
吉田 充彦 当間 雄之 大塚 将之
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.593-596, 2020-05-31 (Released:2020-11-30)
参考文献数
16

症例は57歳男性。心房細動に対してワルファリン内服中であった。以前より自慰目的に肛門から直腸内へ約30cmの棒を挿入していた。翌日から下腹部痛を認めたが様子を見ていた。自慰行為2日後の未明に腹痛が増悪したため救急要請し当院救急搬送された。血圧40mmHgとショック状態であったが急速補液で循環の安定を得た。腹部CTを撮影したところ直腸間膜内に血管外漏出像を伴う巨大血腫と多量の血性腹水を認めた。明らかな腹腔内遊離ガスは認めなかったが,問診情報を踏まえ,異物による直腸・直腸間膜損傷および腹腔内出血と診断し,緊急手術を行った。開腹すると直腸間膜に形成された血腫から活動性の出血が確認された。縫合止血は断念し損傷部を含めて直腸・直腸間膜を切除し,人工肛門を造設した。直腸異物によりショックに至る腹腔内出血を起こしうるため,可能性がある場合は適切な問診により診断・治療を進めることが望ましいと考えられた。
著者
高清水 清治 佐藤 勤 菊地 功 提嶋 眞人
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.413-416, 2017-03-31 (Released:2017-07-22)
参考文献数
16

症例は統合失調症で治療中の50歳代,男性。磁石が自分を守ってくれるという妄想があり,1ヵ月にわたり事務用磁石を連日のように摂取していた。腹痛が出現し当院を受診した。腹部全体に圧痛,反跳痛があり,腹部単純X線写真で小腸ガスと磁石の集塊,CTで磁石,腹水貯留,遊離ガスを認めた。小腸穿孔による急性汎発性腹膜炎の診断で緊急手術を施行した。開腹所見ではTreitz靭帯より40cmの空腸内に計55個の磁石が2群に分かれて存在し3ヵ所に穿孔を認めた。穿孔部を含む小腸を切除した。術後敗血症性ショック,播種性血管内凝固症候群をきたしたが,術後5週間目に軽快し退院した。複数の磁石の異食後にはそれぞれが引き合うために内瘻形成,イレウス,穿孔など多彩な病状を呈する。複数個の磁石が消化管内に滞留していると判明した場合,症状が軽微でも重症化する可能性があるため,早期に手術を行う必要があると考えられた。
著者
山中 崇弘 新木 健一郎 石井 範洋 塚越 真梨子 五十嵐 隆通 渡辺 亮 久保 憲生 大嶋 清宏 桑野 博行 調 憲
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.931-934, 2017-09-30 (Released:2018-02-27)
参考文献数
14
被引用文献数
1

【はじめに】侵襲性クレブシエラ感染症は,Klebsiella pneumoniaeを原因菌とし,肝膿瘍から眼内炎や中枢神経感染症などの転移性感染巣を引き起こす。当科での1例を報告する。【症例】73歳男性。主訴は腰痛,視力低下。精査の結果,肝膿瘍,眼内炎,敗血症の診断で抗菌薬治療を開始,第3病日に肝ドレナージを施行した。培養からKlebsiella pneumoniaeが検出された。転移性感染巣検索では,腰部に椎体炎,硬膜外膿瘍を認めた。転移巣は保存的に軽快し,第52病日に転院となった。【考察】本邦での肝膿瘍を伴う侵襲性クレブシエラ感染症の報告10例では,眼内炎を7例(70%),死亡2例(20%)と危険な病態と考えられた。肝膿瘍,眼内炎という特徴的な所見を認めた際は,侵襲性クレブシエラ感染症を疑い,転移性感染巣を考慮した抗菌薬治療と,外科的治療を含めた集学的治療を行うことが重要である。
著者
田中 健士郎 横山 裕之
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.683-686, 2019-05-31 (Released:2020-05-27)
参考文献数
14

高マグネシウム(以下,Mg)血症は,多くが腎機能障害患者へのMg含有製剤の過剰投与が原因とされている。今回,クエン酸Mg(マグコロールP®)服用後に高Mg血症と糞便性腸閉塞をきたした1例を経験したので報告する。症例は66歳女性。肛門痛と便秘症の精査で注腸検査予定となった。前処置としてクエン酸Mgを内服したところ,意識障害をきたし当院の救急外来へ搬送された。精査で高Mg血症および糞便性の腸閉塞を認め,緊急透析となった。翌日もMg値の再上昇,腸閉塞の悪化を認め,緊急S状結腸人工肛門造設術を施行した。術後,すみやかに血清Mg濃度は正常化した。腎機能障害を有さない患者でもクエン酸Mg製剤投与により重篤な高Mg血症を発症したとの報告がある。重度の高Mg血症は致死的な経過をたどることもあり,その投与に際しては十分な配慮と患者指導を行うとともに,発症時には迅速な対応が重要であると思われた。
著者
山田 岳史 菅 隼人 松本 智司 小泉 岐博 進士 誠一 松田 明久 山岸 杏彌 横山 康行 高橋 吾郎 岩井 琢磨 青木 悠人 町田 幹 内田 英二
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.403-407, 2015-05-31 (Released:2015-09-08)
参考文献数
11

【背景】絞扼性イレウスの本態は消化管の虚血であるため,診断には造影CTが重要であるが,どのような所見が有用であるか明らかではない。【方法】術前に造影CTが施行された壊死性絞扼性イレウス15例と非壊死性絞扼性イレウス25例を対象に造影CT所見を検討した。【結果】70%以上の頻度で認められたものは腸間膜血管の拡張(70.0%),腸管壁の肥厚(72.5%),腸間膜浮腫(80.0%)であった。腹水,腸管壁の造影欠損,Kerckringの不明瞭化,腸間膜混濁は壊死群で有意に高率に認めた。【考察】絞扼性イレウスを造影CTで早期に診断するには,壊死性絞扼性イレウスで多く認められる,腹水や造影欠損よりも腸間膜血管の拡張,腸管壁の肥厚,腸間膜浮腫等の変化を見逃さないことが重要である。