著者
熊谷 学而 川原 繁人
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.65-99, 2019 (Released:2019-10-02)
参考文献数
98
被引用文献数
1

本研究では,ポケモンの名付けにおける新たな音象徴的イメージを検証した2つの実験を報告する。実験1では,進化後のポケモンの名前として,開口度の大きい母音[a]が,開口度の小さい母音[i, u]よりもふさわしいことが明らかになった。また,有声阻害音の数の効果を検証した結果,進化後のポケモンの名前として,有声阻害音が2つ含まれる名前は,それが1つしか含まれていない名前よりふさわしいこともわかった。実験2では,母音と有声阻害音の優先性や相乗効果の検証も行った。その結果,ブーバ・キキ効果と同様に,母音の効果より,子音の効果のほうが強く現れること,そして,母音と有声阻害音の組み合わせは,どちらか一方を含む場合よりも,進化後のポケモンの名前として判断されやすいことが明らかになった。さらに,本研究では,実験2で得られた母音と有声阻害音の音象徴的効果について,制約理論である最大エントロピーモデル(Maximum Entropy (MaxEnt) Grammar)の枠組みでの分析も提供し,音象徴を生成言語理論の視点から捉える。

14 0 0 0 OA 認知と言語表現

著者
国広 哲弥
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.1985, no.88, pp.1-19, 1985-12-25 (Released:2010-11-26)
参考文献数
14
被引用文献数
8
著者
下地 理則
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.154, pp.85-121, 2018 (Released:2019-06-04)
参考文献数
47

本稿の目的は,琉球諸語における焦点助詞(du, ga)による焦点標示の方言差(バリエーション)を記述するとともに,そのバリエーションに関して,可能なパターンを記述でき,不可能なパターンを予測できるモデルを提示することである。扱った方言は15方言であり,北琉球語から喜界島方言(佐手久,小野津),奄美大島方言(瀬戸内,湯湾),徳之島方言(伊仙),沖永良部島方言(国頭),沖縄本島方言(与那原)の7方言,南琉球語から宮古方言(伊良部島長浜,宮古島保良,多良間島),八重山方言(石垣島真栄里,黒島,鳩間島,西表島船浮),与那国方言の8方言である。本稿では,焦点タイプ(WH焦点vs. WH応答焦点vs.対比焦点)と焦点ドメイン(項焦点vs.述語焦点)の2つの変数で方言差を記述し,琉球諸語の焦点標示に関して,通方言的に以下の2つの階層を提案する。(1)焦点タイプの階層:対比 > WH応答 > WH(2)焦点ドメインの階層:項 > 述語琉球諸語の焦点標示に関して,この焦点階層(Focus-Marking Hierarchies)を用いることで,「階層のある地点で焦点標示が可能なら,その左側でも焦点標示可能である」と一般化できることを論じる。
著者
熊谷 学而 川原 繁人
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.65-99, 2019

<p>本研究では,ポケモンの名付けにおける新たな音象徴的イメージを検証した2つの実験を報告する。実験1では,進化後のポケモンの名前として,開口度の大きい母音[a]が,開口度の小さい母音[i, u]よりもふさわしいことが明らかになった。また,有声阻害音の数の効果を検証した結果,進化後のポケモンの名前として,有声阻害音が2つ含まれる名前は,それが1つしか含まれていない名前よりふさわしいこともわかった。実験2では,母音と有声阻害音の優先性や相乗効果の検証も行った。その結果,ブーバ・キキ効果と同様に,母音の効果より,子音の効果のほうが強く現れること,そして,母音と有声阻害音の組み合わせは,どちらか一方を含む場合よりも,進化後のポケモンの名前として判断されやすいことが明らかになった。さらに,本研究では,実験2で得られた母音と有声阻害音の音象徴的効果について,制約理論である最大エントロピーモデル(Maximum Entropy (MaxEnt) Grammar)の枠組みでの分析も提供し,音象徴を生成言語理論の視点から捉える。</p>
著者
井上 和子
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.1983, no.84, pp.17-44, 1983-11-15 (Released:2010-11-26)
参考文献数
14
著者
吉田 和彦
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.164, pp.67-91, 2023 (Released:2023-08-19)
参考文献数
44

古代アナトリアにおいて楔形文字粘土板に記録されたヒッタイト語の音韻特徴として,子音の長さの対立は閉鎖音,摩擦音,共鳴音,喉音においてみられるが,破擦音については対立がないと従来考えられてきた。しかしながら,文献学の立場から古期,中期,後期ヒッタイト語という厳密な時代区分を行ったうえで分析すると,古期ヒッタイト語において母音間のシングルの-z-がアナトリア祖語の*dに遡る例があることが分かった。他方,シングルの-z-が*tを反映している例はない。この知見は,アナトリア祖語の*tiは*tsiになる一方,*diは*dziになるという音変化を示している。そして無声の破擦音はダブルの-zz-で書かれ,有声の破擦音は-z-で書かれる。子音の有声無声という特徴が閉鎖時間の長さと相関することはよく知られている。したがって,古期ヒッタイト語では破擦音にみられる子音の長さの対立がなお存続していたことが分かる。
著者
肥爪 周二
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.164, pp.1-16, 2023 (Released:2023-08-19)
参考文献数
31

平安時代,平仮名・片仮名による日本語表記が定着した後,そのシステムでは表現できない要素(撥音・促音のような新音韻や,外来語音)を,どのように組み込もうとしたか,特に「書き分けない」という選択をした事例に着目して考察した。 清濁を書き分けないことについては,「にごり」が持っているプロソディ的な性質と結びつける解釈が行われてきた。本稿では,促音・量的撥音便の撥音が零表記であったのも,音長というプロソディの範疇の性質を持つためと考え,さらに,守護国界主陀羅尼経長保頃点の,開拗音・合拗音全般を直音表記する方式も,「拗」の要素をプロソディ的に把握したものであった可能性を指摘した。つまり「書き分けない」要素は,いずれもプロソディに類する性質を帯びたものであって,たとえ外来音・新音韻など,既存の仮名の外側にある要素であっても,プロソディ的な把握に馴染まないものは,表記を工夫して書き分けることを志向すると推定した。
著者
西垣内 泰介
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.150, pp.137-171, 2016 (Released:2016-11-17)
参考文献数
37
被引用文献数
2

この論文では,日本語の「指定文」および「カキ料理構文」と呼ばれている構文について,特定の構造を持つ名詞句を中核として,その構造と派生を示す。本論文の分析では「中核名詞句」は2つの項をとり,外項が主要部名詞の意味範囲を限定(delimit)し,内項がその意味内容を「過不足なく指定する」(exhaustively specify)という関係を持つ。「中核名詞句」の内項が焦点化されることで「指定文」が,その指定部を占める外項が主題化されることで「カキ料理構文」が派生される。焦点化された要素が変項を含む構成素の意味を「過不足なく指定する」という関係が「指定文」の根幹をなすものだが,これは疑問文とその答えの間に求められる関係に由来するものである。「中核名詞句」の内部での項のc統御関係が,対応する「指定文」に「連結性」によって反映され,「自分」の逆行束縛と見える現象などが説明されるる。「XをYに…する」という付帯状況を表す副詞節も「中核名詞句」から派生する分析を提案している。
著者
永澤 済
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.159, pp.37-68, 2021 (Released:2021-03-30)
参考文献数
28

中国漢文において助動詞「令」は〈使役〉を表すが,日本中世の和化漢文では,本来の〈使役〉用法から派生したとみられる独自の非〈使役〉用法が非常に広範囲に使用されている。この「令」の機能について,従来,取り除いても文意に影響しないとの見方や,〈謙譲〉〈再帰〉〈意志動詞化〉等の意を表すとの見方が示されてきたが,統一的な結論は出ていない。本稿では,従来の意味中心の分析ではなく,構文機能に目を向けることで次のように結論した。非使役「令」の機能は動詞マーカー/動詞化である。助詞や接辞を表し得ない和化漢文で,和語の軽動詞「する」を代替した。その起源は,本来使役を表す「S令V」構文が(他)動詞文と意味的に隣接するケースにおいて,「令」の表す使役の意が後退して単なる動詞マーカーと解釈されたものと推定される。Vの位置には,意志行為,非意志現象,無生物主体の事象,形容詞まで幅広く立つ。先行研究で「令」は「致」との類似性が指摘されたが,「致」の後続語は意志行為に限られかつ「令」の場合のような動詞化はせず名詞的性格にとどまる点で,両者の機能は異なる。
著者
宮良 信詳 新川 智清
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.1994, no.105, pp.1-31, 1994-03-15 (Released:2007-10-23)
参考文献数
13

This paper presents a view of the phoneme /i/, which has never been discussed in the vowel system of the dialects of the main island of Okinawa. The phoneme /i/ has [+ back, + high, -labial] as its main distinctive features, but phonetically is realized as [ i ] (front high vowel) ; hence, it is necessary to posit a rule of changing /i/ into [ i ]. However, the postulation of /i/ brings about a great simplification in the phonological system.The postulation of /i/ provides a principled basis for the contrast of [waki] 'reason' and [wat_??_i] ‘armpit’, or [tii] ‘hand’ and [t_??_ii] 'blood', where palatalization applies not to /waki/ or /ti/, but to /waki/ or /ti/. The addition of /yi/ to the distribution of /y/ and subsequent vowels in the Yonabaru dialect does not change such a restriction-effective in Standard Japanese as well-that /y/ occurs only with [+back] vowels. Rather, the establishment of yi makes it possible to give a simpler account of the alternation of -yi and -yu in the non-past morpheme /yu/, sinceyi need not be derived directly from /yu/. In addition, only when [_??_ikiN] 'the world' is derived from /syikin/ does the presence of /i/ give an account of why, as in [_??_it_??_a] ‘down’ being derived from /sita/, the expected progressive palatalization is not applied to /k/. The incorporation of /i/ into the phonological system provides a means of making a phonological distinction between homophonous words; /kwi/ ‘voice’ and /kwi/ ‘stake’ derive the same phonetic form [kwii] through the application ofThe postulation of /i/ brings about a typological simplification in that Ryukyuan dialects typically have a 6-vowel system, and also contributes to the comparison of correspondences between phonological systems of related dialects.
著者
中村 智栄 新井 学 原田 康也
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.1-33, 2019 (Released:2019-10-02)
参考文献数
59

本稿は,母語話者と学習者の文理解における質的差異を明らかにするため,英語母語話者と日本人英語学習者の英文理解における動詞の下位範疇化情報が与える影響について統語的プライミングを用いた検証を行った。実験の結果から,日本人英語学習者は動詞に対して正しい下位範疇化知識を持っており,自動詞と他動詞両方に見られる処理負荷は異なる漸次的処理から引き起こされている。そして,エラーに基づく学習効果は動詞を見た時点での予測の誤り(エラー)が補正されることによって起きていることが示された。これらの結果は,学習者が正しい下位範疇化情報を持っているにもかかわらずその情報をオンラインの統語構造分析で使えないという矛盾を説明し,学習者に特徴的な文処理方略を理解する上で重要な結果となった。さらに本研究は,文構造の予測が過去の言語使用の経験から蓄積された情報に基づいて計算されるとする文理解モデルを支持し,第二言語習得研究のみならず人間の文理解モデルを明らかにする上でも重要な証左となった。
著者
諸隈 夕子
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.163, pp.111-138, 2023 (Released:2023-02-09)
参考文献数
34

本稿では,アヤクーチョ方言の-sqaまたは-naによって作られる体言化従属節の中で起きる示差的目的語標示(differential object marking: DOM)を記述・分析する。アヤクーチョ方言では,体言化従属節内の目的語の標示パターンに-taと-øの2通りが見られる。本稿では,聞き取り調査の結果に基づき,-taによる標示が,対比的焦点および意外性という情報構造上の概念に動機づけられると主張する。このようなアヤクーチョ方言のDOMは,DOMの類型論および情報構造の理論において次の3点を示唆する。①DOMは多くの言語で報告されてきた有生性,定性・特定性,主題性以外に,対比的焦点や意外性にも動機づけられることがある。②従来情報構造の標示が見られないとされてきた従属節内でも,対比的焦点や意外性といった情報構造上の概念が標示され得る。③情報構造における対比性の有無は,明確に言語形式に反映され得る。
著者
清瀬 義三郎則府
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.96, pp.23-42, 1989-11-25 (Released:2010-11-26)
参考文献数
68

Among the five vowels in Modern Japanese, the vowel u is a highcentral unrounded sound [w]. Accordingly, the vowel triangle of Modern Japanese is somewhat anomalous, lacking a rounded high-back vowel [u]. How did this sort of vowel system form historically?A reconstruction of eight vowels in Old Japanese, the central dialect of the Nara period (710-84), is commonly accepted. Although interpreted otherwise by some, the so-called ko-otsu distinctions must have been due to the vocalic oppositions, i≠ï, e≠ë, and o≠ö. The vowel diagrams of Old Japanese drawn by scholars adopting the eight-vowel theory are, however, in conflict with what some consider to be phonetic universals. In particular, there are only three vowels (i, i, and u) at the high level but four (e, ë, ö, and o) at the mid.There is no problem with assuming that the sound values of (C) a, (C) i, (C) u, (C) e, and # o were identical with those of the corresponding vowels in Modern Japanese. The problem reduces to determining the sound values of Cï, Cë, Co, and Cö. Judging from the positions of the Chinese Characters, used as man' yogana, in the Ancient Chinese rhyme tables, one may infer that -ö(following a consonant) was phonetically identical with # o (not following a consonant), which was [o], and that the sound value of -o was [u], a high-back vowel. Thus, o with no preceding consonant should be described as ö. Likewise, ï was very likely high-central and ë mid-central. Drawing a diagram based on the inferred sound values, i, ï, u, and o form a high vowel series, front to back; e, ë, and ö form a mid vowel series, front to back; and a is a low-central vowel, just as in the vowel triangles of Altaic languages.Internal reconstruction on the basis of the verbal stems of Old Japanese indicates that all eight vowels could be coupled with all consonants, including zero, in Archaic (pre-Nara) Japanese. The eighth century was the close of a transitional era, when the ko-otsu distinction remained only in a few environments. At the outset of the Heian period (794-1192), the phonetic changes ï>i, ë>e, and o>ö took place in all environments. The remaining five vowels have continued into the modern period, forming the “anomalous” vowel system of Modern Japanese.
著者
長崎 郁
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.154, pp.123-152, 2018 (Released:2019-06-04)
参考文献数
26

本稿では,初期現代コリマ・ユカギール語における焦点構文を取り上げる。19世紀末に収集されたテキスト資料を調べると,現在話されているコリマ・ユカギール語の焦点構文に見られる統語的な制約がかつては存在しなかったことが分かる。現在話されている言語では,焦点構文において焦点化が可能なのは自動詞主語と目的語に限られるが,初期現代コリマ・ユカギール語ではより広い範囲の構成素の焦点化が可能であり,自動詞主語と目的語のみならず,他動詞主語や斜格項/付加詞を焦点化のターゲットとした例が見出される。このことは,この言語の焦点構文が関係節と関連を持つとする仮説へのさらなる根拠となる。なぜなら,焦点構文で用いられる動詞語尾は関係節形成にも用いられ,また,焦点化と関係節化のターゲットは強い類似性を示すからである。現在話されている言語と初期現代語とのもうひとつの特筆すべき違いは,後者にのみ擬似分裂文的な構造が確認されることである。この構造は焦点構文の起源と仮定することができる。
著者
玉岡 賀津雄 Michael P. Mansbridge
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.35-63, 2019 (Released:2019-10-02)
参考文献数
47

動詞を読む前の予測処理がかき混ぜ文の処理に影響すると報告されている。しかし,これらの研究は,文の同じ位置で名詞を比較しておらず,名詞の種類も異なっていた。そこで,高使用頻度の人名を文の同じ位置に配置して,他動詞の単文とそれらを埋め込んだ複文の2つの実験で,短距離・長距離のかき混ぜを句ごとに視線計測した。NP-ACC(ヲ)とNP-NOM(ガ)が連続して現れる場合は,2つ目の名詞句のNP-NOM(ガ)の部分で,両実験のかき混ぜ文の通過時間が有意に長くなった。これは,埋語補充解析が始まることを示唆している。しかし,その後,動詞を読んでからの再読時間と読み戻り頻度が,埋語が想定される付近の名詞句を中心に観察された。意味的な手掛かりが欠如する場合には,動詞の情報に準拠した主要部駆動処理に強く依存することが示された。手掛かりの有無によって,主要部前処理か主要部駆動処理かの依存の度合いが異なってくると考えられる。
著者
荒川 慎太郎
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.164, pp.39-66, 2023 (Released:2023-08-19)
参考文献数
26

本稿では,西夏文字の「点」はどの位置に,何のために付加されるのかを考察した。本稿の議論に関係する,西夏文字の構造,筆画について術語とともに述べたのち,考察対象となる筆画「点」を定義づけた。筆者は,西夏文字全字形を網羅的に掲載する発音字典『同音』により,点を持つ西夏文字の原文を調査した。結果,西夏文字の「点」について,字形全体ではなく,要素部品の右に付され,文字要素を構成するものと分かった。また点の出現環境を精査すると,点が付される要素部品は,「A類:くノ型を持つ」と「B類:匕型を持つ」に二分されることが分かった。A, B類ともに類似する要素部品(ノメ,ヒ)がある。点の機能は,西夏文字創製時には,類似する部分(ノメとくノ,ヒと匕)の差異を際立たせる「強調符号」だったが,後に点の有無のみが弁別要素と誤認されることになったと筆者は推測する。
著者
上野 善道
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.2000, no.117, pp.129-152, 2000-03-25 (Released:2007-10-23)
参考文献数
5
著者
新永 悠人
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.157, pp.71-112, 2020 (Released:2020-12-10)
参考文献数
84

本稿では湯湾方言(琉球諸語の1つである奄美語に属する)の複数形が持つ諸機能に注目し,それを世界の諸言語の複数形が持つ「特殊な機能」(Corbett 2000: 234)と比較・考察した。湯湾方言の複数標識は,簡単に言えば,日本語標準語の「たち」だけではなく,「など」に相当する機能も持っている。このような現象を通言語的な視点から整理するために,本稿では「意味地図」(semantic map)という方法論を用いた。その際,単数,双数,複数などのような「数の区分の意味」(number values)と,累加,連合,などの「数の区分以外の意味」(non-number values)を分けて捉えることによって,諸言語の複数形が持つ「特殊な機能」が意味地図上で比較考察できるようにした。その結果,従来の研究では区別されていなかった「集合的例示」と「選言的例示」の区別,および複数形が実質的に1人の対象を指す用法のうち,いわゆる「尊敬複数」(polite plural)とは異なる「否定的・単独的例示」の通言語的な価値を明らかにした。