著者
平塚 志保
出版者
看護総合科学研究会
雑誌
看護総合科学研究会誌 (ISSN:1344381X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.27-38, 1998-10-30

無脳症児は、破壊的で識別できる神経学的奇形であり、大脳半球は通常、欠損している。近年、諸外国では、移植可能な乳児の臓器不足を背景として、無脳症児の臓器の利用について議論されている。本論では、まず、無脳症児を臓器移植のドナーとして推進する立場について概説する。第1の見解は、胎児の先天奇形を理由とする人工妊娠中絶が許容されることを、その理論的根拠とする。第2の見解は、”摘出アプローチ”である。これは、生きている無脳症児を臓器提供者として利用しようとするものである。第3の見解は、”干渉アプローチ”である。これは、全脳死に至るまで、臓器の状態の悪化を回避する方法である。次に、無脳症児の臓器の利用に反対する立場について述べる。この見解は、2つの論点に集約される。すなわち、「人間の生命の尊厳」と「すべり坂論」による主張である。加えて、フロリダ最高裁の事例を紹介し、無脳症児の性質をめぐる医学的・倫理的・社会的・法的論点について検討する。
著者
平塚 志保
出版者
看護総合科学研究会
雑誌
看護総合科学研究会誌 (ISSN:1344381X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.37-51, 2007-12-31

助産の法的概念と助産師の法的責任について,医師法,保健師助産師看護師法,医療法等の法規定,および分娩経過中に助産師が関与した判例をもとに検討し,以下を結論した。1.法的に助産(分娩介助)は(絶対的)医行為であり,助産師には裁量がある。2.助産師の分娩経過中の過失は,異常の予見可能性と不適切な判断の2点を中心に認定されている。3. 助産師は,分娩時の異常の状態の判断について単独で責任を間われる。4. 異常発生の予見可能性について,助産師は医師と同等の注意義務を負っており,助産師一般,あるいは平均的助産師を基準に判断される。5. 助産師は,異常の予見義務について医師との共同責任が問われることもあるが,医師の監督指導責任下にはない。6. 助産師の医師への連絡・報告義務は,助産師の責任下にある。助産師は,正常分娩を自ら介助するのみならず,保健師助産師看護師法第38条のもと,医師への連絡の要否を判断し得る専門的教育訓練を受けており,助産師が分娩経過を観察している場合,医師の分娩監視義務(診療義務)は,問われない。7. 分娩経過中の観察(含内診)は,必然的に観察と判断(助産診断)が連続して行われる。このため,助産(分娩介助)という行為の性質は医行為とされる。
著者
辻村 祐香 西村 さなえ 飯島 彩花 小林 礼奈 宮島 直子
出版者
看護総合科学研究会
雑誌
看護総合科学研究会誌 (ISSN:1344381X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.3-9, 2020-03-31

本研究の目的は,サージカルマスクの着用の有無による笑顔度の相違を異なる笑顔度において調査することであった。対象者はA大学の日本人看護学生75名であった。対象者は,同一人物の10種類の顔写真を見て,笑顔度を0%(笑顔なし)から100%(満面の笑み)で判定した。提示された10種類の写真は,笑顔測定器で0%,25%,50%,75%,100%と評価された顔写真,およびそれらをサージカルマスクと合成した顔写真であった。顔写真は,アトランダムに1枚につき10秒間提示した。結果として,笑顔度100%の顔写真を除きサージカルマスクの着用の有無で有意差を認めた。笑顔度が25%,50%,75%の場合,サージカルマスクの着用により,10~20%程度低い笑顔度で受け取られることが確認された。調査結果からサージカルマスク着用時に笑顔による肯定的フィードバックをする場合には,笑顔度を高めるか,他のコミュニケーション・チャンネルで補う必要が示唆された。
著者
平塚 志保
出版者
看護総合科学研究会
雑誌
看護総合科学研究会誌 (ISSN:1344381X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.25-36, 2007-12-31
被引用文献数
1

日本において,看護師等による産婦への内診を含む助産行為は,2002年,2004年,2007年に出された行政通知によって禁じられている。本研究は,助産師の社会的需要はますます増大しているという観点から,以下について論じる。1. 医療法指定規則に定めのない助産師の需要は,助産行為を誰が担うのかに依拠する。とくに診療所では助産師を積極的に採用する方策が十分なされてこなかったために,無資格者による助産行為をせざるを得ない状況となった。2. 未就業助産師のなかで就業を希望する者は一定数存在する。3. 助産師の偏在は就労環境に依拠し,単に勤務条件,労働条件のみならず,継続教育の保証,助産師としての専門性が発揮できる環境,安全に助産業務が遂行できる人的環境,医師,看護師との役割分担とパートナーシップが重要である。4.現在,医療化された出産現場において助産師は,専門職としてのアイデンティティを取り戻し, 実践能力を高める努力が必要とされる。In Japan, the practice of midwifery, including pelvic examination, by registered nurses, licensed practical nurses, and nursing assistants is prohibited under administrative notifications issued in 2002, 2004, and 2007. This study addresses the following issues in the light of increasing social demand for midwifery. 1. As the Medical Practice Act does not designate the roles and regulations for nurse-midwives, the demands for these professionals depend on who has been charged with the responsibility for delivery. There has not been effective strategies to employ nurse-midwivesactively at matemal clinics; as a result, unlicensed persons have had to assist with deliveries. 2. There is a constant number of qualified nurse-midwives who are not currently working, but wish to start practicing. 3. The structure of the current work environment is responsible for the uneven distribution of nurse-midwives. Therefore, it is important to provide a clinical environment in which nurse-midwives can use the full extent of their training and a personal environment in which they can safely accomplish their statutory duty at delivery. It is also important to guarantee continuous education and training, clearly defining the roles of physicians and registered nurse under these conditions will help establish a partnership among them and improve employment and labor conditions. 4. Currently, nurse-midwives are routinely confronted by hospitals at delivery as to their function and responsibilities. Nurse-midwives need to regain an acknowledgement of the role of their profession in childbirth and continue to enhance their practical abilities to fulfill that role effectively.
著者
吉田 祐子 矢野 理香
出版者
看護総合科学研究会
雑誌
看護総合科学研究会誌 (ISSN:1344381X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.11-19, 2020-03-31

皮下注射前の皮膚消毒は,複数の先行研究により必要ないことが検証されているが,日本では標準的な手順として浸透している。そこで,本研究では,日本でなぜ皮下注射前の皮膚消毒が実施されているのかその背景を検討するために,看護技術書における皮下注射前の皮膚消毒に関する記載の実態について明らかにすることを目的とした。インターネットで看護技術に関する書籍検索を実施し,内容を精査した結果,選定基準に合致した書籍は28冊であった。これらの書籍では,皮下注射前の皮膚消毒は必要であると記載されていたが,そのうち3冊は,皮下注射前の皮膚消毒の必要性がないことを検証した先行研究についても紹介していた。消毒が必要との根拠となる論文の引用はどの書籍にもなかった。日本での皮膚消毒の実施率が非常に高い背景の一つとして,多くの技術書において,消毒の必要性の有無に関する根拠の記載が十分ではないことがあると考えられた。
著者
下田 智子 八幡 磨並 山本 留美加 及川 幸子 良村 貞子
出版者
看護総合科学研究会
雑誌
看護総合科学研究会誌 (ISSN:1344381X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.15-29, 2012-06

見守りは,援助者が対象者に対し,必要な介助や支援ができるような体制を整えて,意図的にその行為や様子を観察することである。また,看護師は患者の自立に向けた健康回復への支援において見守りを行うことが多いが,意図的な見守りが患者や家族に認識されていない場合もある。そこで,本研究では自立に向けたケアの一場面である嚥下障害の患者に対する食事時の見守りに着目し,その実態を参加観察法で調査した。A病院の神経内科・外科病棟で収集したデータは10場面であった。その結果,以下の点が明らかになった。 1.嚥下障害のある患者の食事時の看護師による見守りは,患者の状態に応じて,自立に向け,代償的な直接的ケアも合わせ行われていた。 2.見守りは,患者の自立に向け,個別的アセスメントに基づき,その項目や時間が変化していた。 3.「姿勢を整える」などの見守り時の看護師の直接的ケアは,姿勢の保持を観察することより他者に容易に理解可能な行為であった。
著者
宮田 久美子 林 裕子
出版者
看護総合科学研究会
雑誌
看護総合科学研究会誌=Journal of comprehensive nursing research (ISSN:1344381X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.3-16, 2013-02-28

遷延性意識障害患者の看護介入の目的と内容について文献調査を行った。看護基礎教育の教科書2件と医学中央雑誌Web Ver.5で検索した研究論文91件を対象とし,質的帰納的に分析した。結果:遷延性 意識障害患者への看護介入の目的は【生活援助】,【合併症予防】,【意識障害の回復】,【生活行動の回復】 の4つに大別された。その介入内容は,【生活援助】は[栄養方法の工夫],[日常生活全般の援助]など7項目であった。【合併症予防】は,[口腔内状態の改善],[褥瘡の予防・改善]など5項目であった。 【意識障害の回復】は,[意識レベル改善],[身体刺激の生理的評価]であり,【生活行動の回復】は[筋・ 関節拘縮の改善],[生活行動獲得]であった。論文数の推移から,遷延性意識障害患者の看護の目的は, 【生活援助】から【意識障害の回復】,【生活行動の回復】へ変化の過渡期にあり,その看護介入は開発途上であることが推察された。
著者
平塚 志保
出版者
看護総合科学研究会
雑誌
看護総合科学研究会誌 (ISSN:1344381X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.25-36, 2007-12-31

日本において,看護師等による産婦への内診を含む助産行為は,2002年,2004年,2007年に出された行政通知によって禁じられている。本研究は,助産師の社会的需要はますます増大しているという観点から,以下について論じる。1. 医療法指定規則に定めのない助産師の需要は,助産行為を誰が担うのかに依拠する。とくに診療所では助産師を積極的に採用する方策が十分なされてこなかったために,無資格者による助産行為をせざるを得ない状況となった。2. 未就業助産師のなかで就業を希望する者は一定数存在する。3. 助産師の偏在は就労環境に依拠し,単に勤務条件,労働条件のみならず,継続教育の保証,助産師としての専門性が発揮できる環境,安全に助産業務が遂行できる人的環境,医師,看護師との役割分担とパートナーシップが重要である。4.現在,医療化された出産現場において助産師は,専門職としてのアイデンティティを取り戻し, 実践能力を高める努力が必要とされる。
著者
矢野 理香 森下 節子 岩本 幹子 中澤 貴代 良村 貞子
出版者
看護総合科学研究会
雑誌
看護総合科学研究会誌 (ISSN:1344381X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.3-14, 2005-10-26

本研究の目的は、看護過程の理論的枠組みと実践の統合を目指した帰納的な教授方略の効果を明らかにすることである。授業の展開;1年次、学生は右半身麻痺のある事例に、技術を実践して、ロールプレイをし、VTRを作成した。また技術が対象者にとって安全・安楽であったかを客観的に評価した。2年次、学生はこの学習を想起し、看護過程の理論的枠組みについてグループワークをした。研究対象;本看護学科2年次の学生80名。研究方法;授業評価アンケートを実施し、度数分布を算出した。また学生に、授業から理解できたことについてレポートを記述してもらった。その内容を類似する内容に分類してカテゴリを抽出した。結果・考察;アンケートの結果、80%以上の学生が授業は有益であったと回答していた。レポートでは、【実践をもとにした理論の理解】【看護過程と各理論の関連性】【理論をもとにした実践の評価】【看護過程と相互作用・コミュニケーションの関連性】の4つのカテゴリが抽出された。以上から、帰納的な教授方略は、理論と実践の統合を深める点で有効であったと考えられた。Purpose; The purpose of this study is to clarify the effect of the inductive learning strategy that aims at the integration of the theoretical framework for nursing process and practice. Class structure; First-year nursing students role-played simulations involving a case of right hemicorpus paralysis. They practiced skills they had already learned and taped their group's demonstrations, then evaluated them objectively. In second year they continued their studies into the theoretical framework of nursing process through group work. Methods; The sample consisted of 80 second-grade nursing students from a junior college. The students reported their understanding obtained through the class. Those contents were classified by similarities of contents and categorized. The authors reviewed the class evaluation questionnaire and calculated the frequency distribution of each item. Results and discussion; From the contents of the reports, the following four categories were obtained. 1.Relation between nursing process and each theory, 2.Understanding of theory based on practice, 3.Evaluation of practice based on theory, 4.Relation between nursing process, interaction and communication. In the questionnaire, more than 80 percent of the students answered that the class was useful. The authors therefore consider that the inductive learning strategy was effective in deepening integration between theory and practice.