著者
西城 浩志
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.234-243, 2020 (Released:2021-11-02)
参考文献数
13

わが国の鉄道建設は主に英国人技術者に依ったため,鉄道開業前後から数年間については,書誌記録はあっても具体的な イメージを与える画像史料はほとんどない.レールから車両まですべてを輸入したが,どこでどのようにして組み立てたか,線路工事はどのようにしたのか,駅舎の内部や乗客がたどる経路,列車編成と両数,列車運行,貨物列車は,などなど,ほとんど判っていない. 当時の貴重な画像ニュースである錦絵は,眼前の現実を正確に描くが,未来については想像が強く,絵の信頼性を損なう. 当時の写真は外国人向けの土産品であり,購入者にとって珍しい風物や習俗を写しており,母国のそれのコピーに過ぎない鉄道などは,注目されない.そのような中で,技術者の業績記録のために,あるいは彼らの間の情報共有を目的として残された写真と,一般向けの風景写真に写り込んだ鉄道施設を詳細に読み解き,書誌記録と照合することで,鉄道黎明期を明らかにする.
著者
高田 俊二
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.23-31, 2015 (Released:2016-10-15)
参考文献数
23

湿板写真時代の1860年,万能の科学者で写真化学の大御所であったHerschel卿は世の中の出来事を動画で記録し子孫に 残す 「瞬間写真」 の構想を提案した.瞬間写真に必要な技術は,1/10秒の 「早打ち」 を可能にする高感度化と1/2~1/3秒で感光板を交換する技術であると述べた.当時は夢物語であったが,1871年Maddoxが発表したゼラチン乳剤と1889年Eastman社が発売した写真フィルムを起点に具現化されていった.そして彼の構想は,レンズ付フィルム 「写ルンです」 に象徴される写真の大衆化と,映像の大衆化である映画産業の創成に繋がった.デジタル写真の今日,一台のカメラに静止画と動画の撮影機能が収められ両者の一体化が着実に進んでいる.
著者
原田 壮基 中野 拓海
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.84, no.3, pp.182-186, 2021 (Released:2023-04-21)

最新かつ最良なZ マウントのメリットをフルに活かして開発された焦点距離50 mmF1.2の標準レンズである.その特長を一言で表すならば「Zマウントだから実現できた歴史上最高の50 mmレンズ」である.
著者
日暮 正樹
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.213-217, 2014 (Released:2016-09-28)

「OLYMPUS OM-D E-M1」 は,フォーサーズ規格準拠の一眼レフカメラと,マイクロフォーサーズ規格準拠のミラーレスカメラを統合する,オリンパスの新フラグシップカメラである.「OM-D E-M1」 は,オリンパス最高画質や新EVFシステム,耐環境性など,フラグシップ機に相応しい機能・性能を持つ.特に,コントラストAFと像面位相差AFを組み合わせた 「DUAL FAST AF」 は,2つの規格を統合するのに重要な役割を果たした.本稿では,像面位相差AFの開発における技術的なポイントについて紹介する.
著者
井田 敦夫
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.70, no.Suppliment, pp.30-31, 2007-05-24 (Released:2011-02-17)

HAMON is the design of the tempered edge of the Japanese sword blade. HAMON is the most important factor to represent the sword's beauty and prove that the sword has excellent quality. However, HAMON cannot be taken by standard photography. Generally, HAMON picture is copied by hand drawing. Mr. Okisato Fujishiro is a sword polisher as well as a HAMON photographer. He has been taking HAMON pictures by hand drawing or his own method of HAMON photography. He requested us to develop “HAMON SCANNER” to represent sharper HAMON images. “HAMON SCANNER” was developed based on our image processing technology and added lighting technology. This paper presents the scanner technology which can take high definition HAMON images.
著者
常石 史子
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.26-32, 2022 (Released:2023-04-22)
参考文献数
6

映画における全面的なデジタルシフトの流れを受け,8 mmをはじめとするホームムービーの分野においてもそのデジタルアーカイブとしての活用は近年大きな広がりを見せている.本論文は,映画保存活動におけるホームムービーの位置づけを概観したのち,オーストリアで大規模に行なわれているホームムービーの収集およびデジタルアーカイブ構築の事例について報告する.その上で,フィルムに残された日常生活の記録と記憶をいかにして未来に引き継ぐべきかについて考察する.
著者
大塚 泰雄
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.245-251, 2018 (Released:2019-11-28)

LUMIX GHシリーズは,2009年にリリースしたGH1を皮切りに,一眼カメラの動画の可能性を常に切り拓いてきた.4K60P / 4:2:2 10 bitの動画記録時間無制限など,GH5/GH5Sの動画性能の進化とそれを実現する要素技術について解説する.
著者
豊田 靖宏
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.280-284, 2012 (Released:2013-06-25)

デジタル一眼レフCanon EOS Kiss X50は,『誰もが簡単に使いこなし,思い通りのきれいな写真が撮れるカメラ』を目指した.このカメラには,デジタル時代の発想で実用化した技術として,電子先幕専用のフォーカルプレーンシャッターが初めて搭載されている.シャッター幕は,メカニカルな先幕が無く,後幕のみとなっている.その特徴的な機構と動作を解説する.
著者
今村 智陽 中野 英之
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.48-52, 2018 (Released:2019-03-01)
参考文献数
8

ピンホールカメラには焦点距離に応じて最も鮮明な投影像が得られる最適口径が存在することが知られている.本研究では最適口径の存在をデジタルピンホールカメラを用いて検証するとともに,焦点距離と分解能の関係を明らかにした.更に,これらの実験結果を踏まえて焦点距離4 m超のピンホールカメラを作製し,月面クレータの撮影を試みたところ,月面クレーターを撮影することに成功した.
著者
矢島 仁 佐々木 麻衣子 高橋 圭子 平岡 一幸 大嶋 正人 山田 勝実
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.65-69, 2018 (Released:2019-03-01)
参考文献数
10
被引用文献数
1

山形産ベニ餅から,伝統的な手法によりベニバナ色素を抽出した.黒色基盤に塗布されたベニバナ色素膜は,金属光沢を有した緑色を呈していた.ベニバナ色素膜は白色光入射に対して,波長550 nm付近に全反射による極大を有するスペクトルを示した.この反射極大波長には角度依存性は現れなかった.また,この金属光沢を有する反射光は,主に膜の入射側の界面で生じていることが明らかとなった.この反射光には,直線偏光成分が少ないことも明らかとなった.これらの結果は,ベニバナ色素膜の緑色光沢が,金属の反射とよく似ていることを示唆している.
著者
村島 伸治
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.190-194, 2002-06-25 (Released:2011-08-11)

我々は, 低価格入門ファミリークラスSLRで, 高価格中級クラスSLRの機能・性能を今までにない超小型ボディに収めることができるプラットフォームを開発した. 我々はそこに, 超小型を実現する全体レイアウト, 高品位な高倍率ファインダー, 超ワイドな多点AF, 合焦箇所を投光表示する技術, 裏蓋開閉ミスを未然に防ぐ安全機構など, 多くの技術を融合させた.
著者
後藤 哲朗
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.65-69, 2010 (Released:2011-05-10)
参考文献数
3

'61にソ連・ガガーリン飛行士が地球周回軌道の飛行に成功した後,米国が同等のミッションに成功したのはグレン飛行士による翌'62のマーキュリー6計画用フレンドシップ7号であった.アメリカ航空宇宙局(NASA)はそれ以前から撮影機材を多用しており,膨大な事象記録と解析データ取得に成功している.ニコンはアポロ計画以来スペースカメラを提供し続けており,NASAから求められる信頼性・高品質と極限状態に耐える性能をすべて実現して多大な貢献をしている(Fig. 1).以下にその改造内容と実績などについて,また情報は少ないもののニコン以外のスペースカメラについても言及する.
著者
川端 顕吾
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.219-222, 2020 (Released:2021-11-02)

SIGMA fpはフルサイズベイヤーセンサーを搭載した世界最小・最軽量のレンズ交換式カメラである.長時間の撮影によ りセンサーと画像処理エンジンの発熱容量は多くなり安定した撮影が課題となるが,ヒートシンクや放熱塗料など,コンパクトと長時間撮影を両立させるために搭載した放熱機構に関して紹介する.
著者
遠藤 雅伸
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.248-256, 2014 (Released:2016-09-28)

コインを入れて楽しむ電源系娯楽機は19世紀末に生まれた.その後,機械やアナログ回路を用いた娯楽機が発展し, 1960年代にはCRTが表示装置として使われるようになった.1970年代後半には,コンピュータを利用したテレビゲーム(ビデオゲーム)が世界的にヒットし,リアルタイムCGを牽引する形で,画像技術が応用され続けている.
著者
木目沢 司
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.35-40, 2017 (Released:2018-03-02)
参考文献数
10

国立国会図書館(以下,NDL)は,所蔵資料のデジタル化により作成したデジタル画像(デジタル化資料)やインターネッ トから収集したPDF,EPUB形式等の電子書籍・電子雑誌(オンライン資料)等,大量のデジタルファイル形式の資料(デジタル資料)を保存・提供している.本稿では,デジタル資料を収集・保存・提供するシステムである国立国会図書館デジタルコレクション1)について,長期保存システムの国際標準Open Archival Information System(OAIS)参照モデル(ISO 14721:2012)2)の機能要件の観点から考察し,デジタル情報の長期保存の課題について述べる.
著者
菅 建彦
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.108-112, 2004-04-25 (Released:2011-08-11)

「岩崎・渡辺コレクション」は, 明治30年代の日本の鉄道の蒸気機関車, 駅舎, 橋梁等の構造物など記録した写真資料で, 国有化以前の日本の鉄道の姿を伝える貴重な記録である.コレクションの主体は3,347枚の乾板で, 若き企業家渡辺四郎と岩崎輝彌が高名の写真師小川一真に撮影させたものである.現在使用している複製用陰画フィルムは, 40年前に乾板を引き伸ばして得た印画を撮影したもので, 早晩劣化を免れない.貴重な資料を末永く活用するためにディジタル画像化などの対策を講じることが重要な課題である.
著者
矢口 博久
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.16-20, 2005-02-25 (Released:2011-08-11)
参考文献数
6
被引用文献数
1

色の見えのモデル化は画像産業界におけるクロスメディア色再現に重要になってきている. 1997年に国際照明委員会 (CIE) は色の見えモデルの簡易版としてCIECAM97sを推奨した. CIECAM97sは多くの実験データをよく予測するものであるが, いくつかの欠点も指摘された. 最近, 新しい色の見えモデルとしてCIECAMO2が開発され, それはCIECAM97sに置き換わる. ここでは, CIECAM02の概略と応用例について解説する.
著者
宮田 正人 安富 暁 林 修 長澤 健一
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.217-220, 2019 (Released:2021-03-26)
参考文献数
1

オリンパスでは,“ボケを極める”M.ZUIKO PRO F1.2シリーズレンズとして,3本の大口径F1.2単焦点レンズを発売した.ボケを光学設計段階から創りあげることにより,ピントの合っている部分の高解像はもとより,アウトフォーカス部分の表現力を広げることで,写真の表現領域の拡大に貢献している.今回は,M.ZUIKO PRO F1.2シリーズレンズの特長である「美しくにじむボケ」について説明する.