著者
西井 貴美子 山田 秀和 笹川 征雄 平山 公三 磯ノ上 正明 尾本 晴代 北村 公一 酒谷 省子 巽 祐子 茶之木 美也子 寺尾 祐一 土居 敏明 原田 正 二村 省三 船井 龍彦
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.119, no.14, pp.3037-3044, 2009

大阪皮膚科医会は学校における水泳プール授業時のサンスクリーン剤使用の実態調査を大阪府下の公立学校1,200校を対象に実施したが,結果は約3割以上の学校がサンスクリーン剤使用を禁止または不要としていた.禁止の理由として水質汚染の心配が多数をしめたため,2007年夏に大阪府内の公立中学校14校の協力を得てワンシーズン終了後の水質検査を実施し,プール授業開始直後の水質と比較した.結果は文部科学省の学校環境衛生の基準に定められている6項目(pH,濁度,遊離残留塩素,過マンガン酸カリウム消費量,大腸菌,トリハロメタン)のうち濁度,過マンガン酸カリウム消費量,大腸菌,トリハロメタンに関しては基準値からはずれた項目はなかった.遊離残留塩素,pHについてはサンスクリーン剤使用を自由または条件付許可の学校で基準値より低値を示す傾向にあった.統計的検討はサンプル数,各校の条件の違いでむずかしいが,定期的にプール水の残留塩素濃度を測定,管理し,補給水の追加をすれば紫外線の害を予防する目的でサンスクリーン剤を使用することに問題はないと考える.
著者
池田 志斈 真鍋 求 小川 秀興 稲葉 裕
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.100, no.7, 1990

全国アンケート調査から得られた単純型およおび劣性栄養障害型表皮水疱症患者の身長・体重の値を統計学的に処理し,全国平均の値と比較した.その結果,1)単純型では女性の身長が全国平均値より有意(1%以下の危険率)に低い.しかし女性の体重,男性の身長・体重には有意の差を認めない.2)劣性栄養障害型では,男女とも身長・体重が全国平均値より有意(1%以下の危険率)に低い,などが示された.本疾患々者の成長発育状態及び栄養状態を把握し,十分な栄養を補給を行うことがなされるならば,本疾患々者の予後が比較的良好となることが期待できるものと思われる.
著者
格谷 敦子 中川 浩一 濱田 稔夫 浅井 芳江 山本 裕子
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.102, no.9, 1992

母親と娘2人の1家族3人に発症したX-linked dominant chondrodysplasia punctataの3例を報告した.娘2人に骨X線像で点状石灰化像,側彎,楔状椎が見られ,低身長,鞍鼻,下肢長差などの骨格異常がある.乳児期に特徴的な線状または流水状の鱗屑,痂皮を伴うび慢性紅斑が見られ,成長と共に消失し,鱗屑を伴う多角形萎縮性局面となった.母親に低身長,左上下肢の短縮,左眼白内障,腕には毛孔性萎縮を認める.父親,兄には異常は認められない.組織像:角層は層状肥厚し,付属器開口部の開大と角栓形成を認める.顆粒層は1~2層で顆粒変性はなく,有棘層は不規則に肥厚している.真皮上層に軽度の小円形細胞浸潤がある.
著者
大山 勝郎 植原 俊夫 野原 稔弘 野村 茂 荒尾 龍喜
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.96, no.14, 1986

タバコによる皮膚障害については,タバコ原料工場従事者に皮膚炎が生じた報告例は多いが,タバコ耕作者の報告例は少ない.著者らは,タバコ耕作者にアンケート調査を実施し,150名より回答があった.その結果,タバコにかぶれることを知っている人は多く,タバコによる皮膚炎を起こしたことがあるのは36名で女性に23名と多い.芽がき期や収穫期のタバコに触れる作業が多い時期に多発する.次に,Nicotiana tabacum黄色腫の新鮮葉について,抽出,分離を行った.その結果,TN-1と仮称する化合物が得られ,各種スペクトルにより,化学構造はセンブラン骨格を有するジテルペノイドと判明した.TN-1を用いて,パッチテストを実施し,患者が陽性反応を示し,刺激性よりもアレルギー性皮膚炎が疑わしい.
著者
片山 一朗 横山 明子 松永 剛 横関 博雄 西岡 清
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.104, no.7, 1994

重症の顔面皮膚炎を持つアトピー性皮膚炎患者に対する脱ステロイド外用療法の評価を行った.対象は68名の入院患者とし,亜鉛華軟膏の面包帯療法,ないし白色ワセリン,白色ワセリン亜鉛華軟膏混合軟膏の単純塗布を主体とした治療を行った.3分の1の症例において退院後1年以上顔面の皮膚炎の再燃は見られれなかったが残り3分の2の症例においては一年以内に再燃する傾向が見られ,うち10名では増悪時ステロイドの外用が必要であった.この再燃率は顔面の皮膚炎の持続期間,顔面に対するステロイド軟膏の使用期間と比較的よく相関する傾向が見られたが,血清IgE値,使用ステロイド軟膏の強さ,入院期間との間には特に一定の傾向は見られなかった.今回の検討においては30歳以下の患者が9割以上を占め,その増悪因子も多様であった.なお入院時および経過中,9例に白内障の合併が見られた.
著者
上出 良一 松尾 光馬
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.108, no.3, 1998

全国大学付属病院108施設ならびに日本臨床皮膚科医学会(日臨皮)東京支部会員554名を対象に,人工的タンニング装置に起因する健康障害のアンケート調査を行った.249施設から回答を得,うち75施設で計119名の健康障害患者を診察していた.男女比はほぼ1:1で,10代と20代が8割近くを占めた.障害の内容(150件,重複あり)は急性障害であるサンバーン様症状84件(UVA蛍光ランプによるもの79件,PUVAによるもの4件,UVBランプによるもの1件),疼痛10件,瘙痒7件,光線過敏症5件,発熱2件,嘔気1件あった.慢性障害である黒子様色素沈着,花弁状色素斑などの色素性病変が16件,その他16件(うち皮膚乾燥6件),眼障害では表層角膜炎が2件にみられた.また病状の記載のないものが7件あった.人工的タンニングに対する意見を寄せた皮膚科医106名中,日焼けサロンに否定的な意見85件,肯定的な意見7件,賛否不明14件であり,否定的意見が約80%と大多数を占めた.皮膚科医としてUVA照射による人工的タンニングの危険性を一般に啓蒙していく必要がある.
著者
石井 則久 杉田 泰之 森口 暢子 中嶋 弘
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.103, no.14, 1993

横浜市立大学医学部附属病院皮膚科外来におけるらい患者の統計を行った.1960年代は17人,1970年代は6人,1980年代は5人,1990年から1993年3月までは9人であった.1971年以降減少傾向がみられた.1990年からの9人はすべて外国人労働者であった.現在当科で治療・経過観察しているのは日本人2人,外国人7人の計9人である.外来診療においては,医療費,重症時の対応,遠隔地からの受診,勤務先との関係など考慮すべきことが多い.
著者
武藤 美香 河内 繋雄 福澤 正男 斎田 俊明
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.110, no.10, 2000

薬疹におけるリンパ球刺激試験(DLST)の診断的価値について検討した.DLSTが施行された薬疹の報告例812例について,発疹型別,薬剤系統別, 個別薬剤別にDLST陽性率を解析した.全症例におけるDLST陽性率は42%であった.発疹型別では,陽性率は中毒性表皮壊死症型(61%),紅皮症型(52%)で高く,紫斑型(11%),光線過敏症型(21%),固定薬疹型(30%)で低かった.蕁麻疹型でも38%の陽性率が認められた.薬剤系統別では,総合感冒剤(72%),抗結核剤(56%),抗てんかん剤(54%),解熱消炎鎮痛剤(53%)で高く,痛風治療剤(22%),合成抗菌剤,循環器官剤(ともに29%)で低い傾向が認められた.塩酸ミノサイクリン(13例),アリルイソプロビルアセチル尿素(8例)ではDLST陽性例は認められなかった.また,薬剤アレルギー検査法としてのDLSTの特異性を明らかにするために,同意のえられた健常人4名を被験者として,主としてDLST陽性率の高い薬剤についてDLSTを試行し,非特異的陽性反応(偽陽性反応)の有無について検討した.その結果,スパクロ■(クロレラ製剤),パリダーゼオラール■,シオゾール■は高率に偽陽性反応を呈し,PL顆粒■(総合感冒剤),ビオフェルミン■(乳酸菌製剤)も偽陽性反応を呈し得ることが判明した.これらによる薬疹では,DLSTが陽性であっても原因薬剤ではない可能性があるので注意を要する.
著者
今井 利一
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, 1962

本症の詳細なる記載は,Kuznitzky und Grabisch(1921)の"Uber myxomatose Fibrosarcome dervordere Brustwand",およびDarier and Ferrand(1924)の"Dermatofibromes progressifs et recidivants ou fibrosarcomes de la peau",更にはHoffmann(1925)の"Uver das knollentreibende Fibrosarcom der Haut"(Dermatofibrosarcoma protuberans)の標題の下に発表された論文を以て嚆矢とし,以後一般には"Dermatofibrosarcoma protuberans"乃至"Dermatofibrome von Darier und Ferrand"の名称が汎用されている.しかし,これに相当すると思われる最初の症例報告として,Hoffmann(1925),Senear,Andrews and Wills(1928)らはCoenen(1909)の2例を,Binkley(1939)はNew York Dermatological Societyに供覧したScherwell(1890)の1例を挙げているが,更にJohnston(1901),Taylor(1890)の報告例もこの疾患に該当するものと考えられる.爾後,外国文献には多数の報告例が散見され,Hoffert and Bronx(1952)は文献的に187例を集め記述したが,著者はその後の外国文献に78例を蒐集したので,今日迄に記述されている外国文献は約250例余と推定される.これに比して,本邦における記載は極めて少なく,山﨑(昭13)の2症例を以て嚆矢とし,以後,田中・林(昭15),畑(昭22),渡辺(昭28),前田・藤井(昭29),寺田・山本(昭81),有森(昭81),池田・青木(昭35)の各1例,計9例を見るに過ぎない.著者は最近,本症例の1例を経験したのでその概要を記すと共に,併せて聊かの考察を行つた.
著者
新田 悠紀子
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.104, no.7, 1994

第1子,女児.生下時より左第2肋間に収縮期雑音あり,顔面およびタ至イに環状紅斑を認め,抗核抗体,抗SS-A,SS-B抗体陽性,新生児エリテマトーデスと診断.心雑音は生後4ヵ月で消失し,機能的肺動脈枝狭窄と考えられた.皮疹,抗SS-A,SS-B抗体も生後7ヵ月で消失した.第2子,男児.第1子の3年後に誕生.生下時より第3~4肋間に収縮期雑音あり,顔面およびタ至イに環状紅斑を認め,抗SS-A,SS-B抗体陽性にて新生児エリテマトーデスと診断.心雑音は心エコーにて心室中隔欠損によるものと考えられた.生後1ヵ月後,自然閉鎖した.環状紅斑,抗SS-A,SS-B抗体は8ヵ月後に消失した.母親は,第1子を29歳時,第2子を32歳時に出産.抗核抗体,抗SS-A,SS-B抗体陽性.小唾液腺生検にて導管部に小円形細胞の浸潤を多数認めた.乾燥症状,皮疹ともなく,subclinical Sjogren syndrome(以下SjSと略す)と診断した.
著者
三石 剛
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.120, no.5, pp.1009-1014, 2010

近年,ウイルス性疣贅において特徴ある細胞病原性効果(cytopathic effect:CPE)がヒト乳頭腫ウイルス(HPV)感染細胞に見られることから,臨床病理組織像とHPV遺伝子型は相関することが解明された.よってHPV特異的なCPEの形態の違いから,非定型的ウイルス性疣贅の臨床病理組織像を理解することは診断上重要である.本稿では非定型的ウイルス性疣贅であるミルメシア,ブッチャー疣贅,色素性疣贅,Ridged wart・足底表皮様囊腫,点状疣贅,白色小型疣贅とHPV感染症のなかでも非常にまれな遺伝性疾患である疣贅状表皮発育異常症の良性皮疹の臨床病理組織像について紹介した.
著者
中内 洋一 水野 信行
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, 1962

内臓惡性腫瘍が之に伴う皮膚病変によつてはじめて発見される場合の,即ち腫瘍症状に先立つて,之を疑わしぬるに足る皮膚病変の現われることの必ずしも稀でないことは,諸家も記載する所である.此のような場合屡々,内臓惡性腫瘍が根治不能の域に達して居るから,"皮膚病変拠る惡性腫瘍発見"の意義は左程大きくないとも看倣されるかも知れない.然しながらRothmanはその第2例に就いて「若し我々が斯かる皮膚変化が腹部腫瘍との関連に於て生じうるということを知つて居たら……,患者を助ける事は出来なくても,姑息的手術に依つて,目的に適うように治療することが出来たろうに……」と,死の直前まで腫瘍の診断がつかずに死んだ患者の苦痛を救い得なかつたことに遺憾の意を表して居る.たとえ根治手術は不能であつても,手術,放射線,抗癌剤などに依つて癌患者を苦痛から救い,延命を策する道の拓けた今日,内臓惡性腫瘍に伴う皮膚病変を知る事の意義は少しとしない.内臓惡性腫瘍に伴う皮膚病変は近時諸家に依つて注目され,本邦に於ても,上野の黒色表皮腫に関する,また古谷の皮膚筋炎と惡性腫瘍との関係に関する詳細な記載がある.内臓惡性腫瘍の皮膚転移に関しては北村教授他の記載もあるが,之に結節状を呈するものの他,紅斑を主徴とするものがあつて,夙に丹毒様癌腫(Carcinoma erysipelatodes)の名で知られている.近時中村はその1例を報告,また肉腫転移に因つて之と同様の所見を呈するものに就いての吉田の報告がある.著者等の例は,瘙の著しい丘疹紅斑性皮疹を主訴として来院したものであつて,観察中顔面,上肢の浮腫,呼吸困難等を訴え,同時に腹壁に静脈怒脹の見られたことに依つて縦隔洞腫瘍を疑い,レ線検査に依つて肺の原発性惡性腫瘍及び縦隔洞腫瘍の存在を知つたものである.内臓惡性腫瘍に見られる転移以外の皮膚病変については夙にCarriere(1896)の記載する所であるが,綜説的記載は,蓋しRothman(1925)が自家症例3例の記載と共に行つたものを嚆矢とする.そして今日までに数十例の報告がある.Rothmanは之を4範疇に分類し,その1として「中毒性滲出性症状を呈するもの」を置いているが,著者等の例は之に属するものである.近時中村等(1955)は子宮癌の放射線療法中,一過性ではあるが全身に発生する一連の皮膚病変が可成り多く見られることに注意,その22例を蒐集,またそれ等とは別に全身に持久性蕁麻疹様の極めて難治の皮疹が子宮癌の経過中に発生,その剔除によつて急速に改善したものを診,それ等につき詳細に記載して居る.
著者
野澤 茜 大谷 道輝 松元 美香 杉浦 宗敏 内野 克喜 山村 喜一 江藤 隆史
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.122, no.2, pp.371-373, 2012

保湿剤の先発医薬品と後発医薬品の効果の差を健常人5名で乾燥皮膚モデルを用いて試験を行った.ヘパリノイド製剤のローションとクリームの先発医薬品と後発医薬品を1日2回10日間塗布し,角層中水分量を比較した.その結果,先発医薬品のローションとクリームいずれも後発医薬品に比べ,有意に水分量が増加した.医師は先発医薬品から後発医薬品に切り替えて使用する場合,期待した効果に有意な差が認められることを考慮すべきである.
著者
桑原 一也
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, 1967

周知の如く,軟膏療法は主として基剤が皮膚表面の病巣に作用して皮疹を改善に導く場合と,軟膏に添加した薬剤が健康皮膚を浸透,病巣に到達して始めて皮疹の改善を斉らす場合とがあるが,本研究は申すまでもなく後者に関する研究である.さて,副腎皮質製剤(以下「コ」と略す)に限らず,一般に薬剤を病巣へ運搬する目的で使用する場合,従来最も大きな障壁となつていたのは,薬剤の皮膚吸収に自ずから限界のあることである.従つて,全身投与に比べると,どうしても臨床効果が劣り,殊に表皮に全く損傷のない手掌足底や,その他の部位でも角化肥厚の強い病的皮膚では期待するほどみるべき効果があがらなかつた.このため軟膏療法はせつかく全身療法とはまた異なる幾つかの優れた特徴を持ちながら,ただ表層の病巣を修復することに主点がおかれていた.ところが,最近Carb,Sultzberger & Witten,Scholz,Tyeらが軟膏貼布部位を特殊な方法で密封する,いわゆるoccu-lsive dressing technique(密封療法,以下ODTと略す)を考案してより,かかる病巣へも目的の薬剤が充分到達して臨床効果を発揮でき,しかも全身性の副作用を起さない程度の,甚だ好都合な結果を斉らすことが明らかにされた.ともかくODTは軟膏療法に一大進歩を斉らし,今や各方面に素晴らしい成果を挙げているが,このODTを契機に,最近皮膚吸収に関する研究が再び活発となつて来た.ところで,皮膚吸収の最近における最も大きな進歩といえば,なんといつても,Malkinson & Kirshenbaum,McKenzieら一連の研究であろう.従来,薬剤の皮膚吸収は専らこれが生体に浸透することのみに重点が置かれ,皮膚でそれがどのように,どの程度利用されるかどうかという点については全く考慮が払らわれていなかつた.換言すると,薬剤の皮膚吸収は,極く最近までサルチル酸(以下「サ」と略す)値や14C-labelled 「コ」軟膏の尿中排泄量の測定が優れた検査法とされ,主として,その多寡により良否が云々されていた.ところが,Malkinsonらが独特な器具gas flow cellを考案,放射性「コ」軟膏の皮膚吸収状態を,尿中排泄量を測定するかわりに,皮上に残るいわゆるresidual radioactivityから逆に皮膚吸収状態を推測したところ,ここに多量放射性物質の残る軟膏,つまり吸収の悪い軟膏ほど,臨床効果の優れていることが判り,軟膏の優劣は吸収の良否より,病巣に,活性の形でどの程度残存するかにあることが明らかにされた.また軟膏の皮膚吸収は無制限に行なわれるのでなく,病巣と皮膚表面のそれとの濃度の差,つまり濃度勾配(concentration gradient)と密接な関係のあることが併せて明らかにされた.これと前後してMcKenzieらは各種「コ」軟膏のいわゆるvasoconst-rictor activity(毛細血管収縮能)を測定,この成績を皮疹の臨床効果と比較検討して,吸収の良否と本検査成績とはむしろ負の相関関係にあり,本作用の強い「コ」製剤ほど皮膚からの吸収が遅延し,一方臨床効果はそれだけ優れていることが確認され,かくして,軟膏の皮膚吸収に関する概念はこの数年間にすつかり変貌した.
著者
石 重明 瀧本 玲子 坪井 良治 小川 秀興
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.106, no.4, 1996

糖尿病マウス(db/db)と正常家兎の全層皮膚欠損創モデルを用いて,精製白糖・ポピドンヨード製剤群,白糖を含む基剤群,無処置群の創傷治癒効果を比較検討した.糖尿病マウス(C57BL/KsJ db/db,8週齢)の背部皮膚中央に,直径6mmの全層皮膚欠損創を2個作製し,開放創として毎日1回,5日間薬剤を塗布し、8日目に組織を採取した.正常家兎(2.5kg)は耳介内側に同じ直径の全層皮膚欠損創をそれぞれ4個作製し,術後1回薬剤を塗布して閉鎖創とし,7日目に組織を採取した.創傷治癒の評価は組織標本を光学顕微鏡で観察し,a)再上皮化率(%),b)肉芽組織面積(mm2),c)血管数について定量的に評価した.その結果,糖尿病マウスでは精製白糖・ポピドンヨード製剤群は有意に肉芽組織と血管数を増加させた.白糖を含む基剤群では血管数がわずかに増加したが肉芽組織の量に変化はなかった.正常家兎を用いた家験系では精製白糖・ポピドンヨード製剤群は無処置群に比較し,再上皮化率,肉芽組織面積,血管数のいずれも有意に増加させた.白糖を含む基剤群では精製白糖・ポピドンヨード製剤群と無処置群の中間的な値を示した.今回の実験では精製白糖・ポビドンヨードが通常の皮膚潰瘍だけではなく,糖尿病の皮膚潰瘍にも有効であることが判明し,ポビドンヨードは,殺菌・消毒作用だけではなく,単独ないしは白糖との相互作用により,創傷治癒も促進させる可能性があることが示唆された.
著者
渡邉 裕子 蒲原 毅 佐野 沙織 白田 阿美子 小野田 雅仁 池澤 善郎 相原 道子
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.122, no.9, pp.2321-2327, 2012

58歳,男性.25歳時に尋常性乾癬が発症し,33歳時に霧視の自覚と共に非肉芽腫性前部ぶどう膜炎がみられ乾癬性ぶどう膜炎と診断された.シクロスポリン内服で加療されたが治療に難渋し,58歳時に膿疱性乾癬が発症した.シクロスポリンを中止しインフリキシマブを開始後,皮膚症状と共に眼症状の著明な改善が得られた.再発性,難治性の乾癬性ぶどう膜炎に対しインフリキシマブは有効な治療法と考えられた.自験例および本邦における乾癬性ぶどう膜炎のまとめでは,初発症状は,視力低下が最も多く,次いで霧視,充血,眼痛の順に多くみられた.ぶどう膜炎発症時の乾癬の臨床病型は,関節症性乾癬が31例中13例(42%)と最も多く,次いで尋常性乾癬が31例中10例(32%),膿疱性乾癬が31例中7例(23%)であった.乾癬性ぶどう膜炎患者の25例中23例(92%)で関節症状がみられ,23例中22例(96%)でHLA-A2がみられた.ぶどう膜炎に対し皮疹出現の先行例が約90%にみられ,皮疹出現から長期経過後にぶどう膜炎が生じている例が多かった.関節症状とHLA-A2を有する乾癬では,ぶどう膜炎を合併する危険性があり注意が必要と考えられた.
著者
林 美沙 中川 幸延 遠山 知子 平野 亜由子 佐藤 彩子 瀬口 道秀 杉本 麗子 東山 真里
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.123, no.9, pp.1787-1796, 2013

インフリキシマブが奏効した乾癬に伴う難治性ぶどう膜炎の2症例を報告する.54歳,男性.28歳時に乾癬性紅皮症と診断されたが,不十分な治療により皮疹のコントロールは不良であった.38歳時に右眼ぶどう膜炎を,45歳時に左眼ぶどう膜炎を発症した.プレドニゾロンの内服で加療されるも難治であり右眼は失明に至った.2010年乾癬の皮疹,及びぶどう膜炎のコントロールが不良のため,インフリキシマブを開始した.治療開始後より皮疹,及びぶどう膜炎の症状は速やかに改善した.経過中に軽度の眼症状の再燃を認めるも,インフリキシマブを増量することで眼症状は改善した.34歳,女性.19歳時に乾癬を発症し,外用治療にて経過良好であった.2010年,産後より急速に体幹の皮疹の増悪を認め,多発関節炎が出現した.ステロイド軟膏とビタミンD3軟膏の外用,及びメトトレキサートの内服を開始するも難治であり,右眼のぶどう膜炎と視神経炎も発症した.インフリキシマブを開始し,皮疹,関節炎,及びぶどう膜炎は速やかに改善した.経過中に関節症状とぶどう膜炎の再燃を認めたが,インフリキシマブ,及びメトトレキサートを増量することで経過良好である.当院で経験した乾癬に伴うぶどう膜炎5例及び過去の報告症例から,ぶどう膜炎発症の危険因子,及びTNFα阻害剤の有効性につき若干の考察を加えて報告する.乾癬に伴うぶどう膜炎は難治で時に失明に至るため,免疫抑制剤に対し効果が得られない症例には,TNFα阻害剤は有効な治療として考慮すべきである.
著者
桑原 宏始
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.80, no.12, 1970

ランゲルハンス細胞(L細胞)は1868年,Langerhansによつて人表皮内に見出された樹枝状細胞であるが,その後,人健康真皮をはじめ慢性尋麻疹,貨幣状湿疹,紅皮症,尋常性白斑患者の真皮,毛ハV脂腺系,口腔粘膜上皮,子宮腟部上皮,L.S.(Letter Siewe Disease),Pityriasis Rosea,Reticulum Cell Sarcoma,肺および骨の病的組織球,家兎胎児胸腺,幼若マウス脾臓,リンパ節,胎生75日アカゲザルの頭皮などで観察されている.以上の如く,L細胞の分布は広範囲に及び,さらにL細胞の微細構造,組織化学的検索から,L細胞の由来について,最近Mesenchymal cell説が有力視されつつある.しかもHashimoto,Wolff らを中心にHistiocytosis Xに見られるBirbeck顆粒保有細胞との関連からL細胞は組織球系の貪喰細胞であるとする考えが近年有力となりつつある.しかし著者は,電顕的観察結果からみて,本細胞が間葉系由来の細胞であるにしても,単なる組織球とは異なり,胸腺細胞と同様網内系特にLymphoreticularな細胞で,免疫機構に関与しているものと考え,既に2回に亘つて報告した.このリンパ網内系細胞由来説は著者のほか,既にRanvier,Andrew,Bilinghamらにより指摘されている.著者は最近種々の皮膚疾患におけるリンパ節の電顕的観察を行ない,今まで観察できなかつた興味ある所見に遭遇し,L細胞の機能について2~3検討したので,再びその知見をここに報告する.
著者
高橋 久 石井 富夫 田辺 和子 池田 平介 山本 勝義
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.85, no.7, 1975

サリチル酸は経皮吸収率の良い物質として早くからその尿中排泄を指標として経皮吸収の研究に使用せられて来た.その吸収は角層を変性せしめるためとも,経毛嚢的とも言われるが,未だ解明され七いない. 今回ブタの皮膚に 14C 標識サリチル酸を貼布し,液体 scintillation counter と autoradiography によりその皮膚内分布を検討した結果,この物質は経毛嚢的に吸収され易いことが明らかとなった.著者等の一人高橋はかつてサリチル酸等の諸物質と毛髪との親和性について報告し,サリチル酸も相当高度に毛髪と親和性のあることを確認したが,今回のサリチル酸の経毛嚢吸収は,こうした本物質と毛髪との親和性によるものか,或は本物質が毛嚢内の皮脂に溶解するためにおこるものかは今後の検討にまたねばならない.
著者
古江 増隆 山崎 雙次 神保 孝一 土田 哲也 天谷 雅行 田中 俊宏 松永 佳世子 武藤 正彦 森田 栄伸 秋山 真志 相馬 良直 照井 正 真鍋 求
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.119, no.9, pp.1795-1809, 2009

[目的]我が国の皮膚科受診患者の皮膚疾患の頻度,性別,年齢分布,気候との関連性などを多施設大規模調査によって明らかにすることを目的とした.[方法]全国の大学病院76施設,病院55施設,診療所59施設(計190施設)において,2007年5月,8月,11月,および2008年2月の各月の第2週目を目安に,その週のいずれか1日を受診した初診・再診を問わず外来,および入院中の患者全てを対象に,「性別」,「年齢」,「診断名」を所定のマークシート調査に記録した.各調査期間における調査協力施設地域の気温,および湿度に関するデータは,気象庁・気象統計情報を使用した.[結果]4回の調査すべてに協力いただいた170施設(大学病院69施設,病院45施設,診療所56施設)から回収した67,448票を解析した.上位20疾患を列挙すると,その他の湿疹,アトピー性皮膚炎,足白癬,蕁麻疹・血管浮腫,爪白癬,ウイルス性疣贅,乾癬,接触皮膚炎,ざ瘡,脂漏性皮膚炎,手湿疹,その他の皮膚良性腫瘍,円形脱毛症,帯状疱疹・疱疹後神経痛,皮膚潰瘍(糖尿病以外),痒疹,粉瘤,尋常性白斑,脂漏性角化症,薬疹・中毒疹の順であり,上位20疾患で皮膚科受診患者の85.34%を占めた.疾患ごとに特徴的な年齢分布を示した.性差が明らかな疾患が存在した.気温や湿度と正負の相関を示す疾患が存在した.[結語]本調査によって21世紀初頭の皮膚科受診患者の実態を明らかにし得た.本調査が今後も定期的に継続されることで,社会皮膚科学的視野にたった皮膚疾患の理解が深まると考えた.