著者
小元 敬男 鱧谷 憲 嚴 香姫
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.106-113, 1994
被引用文献数
7

日本の都市の気象台のデータは1950年代と1960年代に急速な乾燥化を示したが,1970年頃に変化傾向が急変し,年間の変動を除いて以後ほぼ一定になっている.東京や大阪のデータは相対湿度の増加傾向すら示唆している.一方,非都市域の気象官署では最近明瞭な乾燥化が観測されている.このため相対湿度及び水蒸気圧の都市内外差は近年,減少傾向になっている.急速な乾燥化の起こっていた時期には,水蒸気量の減少と昇温が同時的に相対湿度を低下させていた.最近の湿度の都市内外差の減少は非都市域の乾燥化という相対的なものだけではなく,様々な人間活動による都市大気への水蒸気の放出量の増加の効果も寄与している.今日の東京及び大阪における都心部と郊外の相対湿度の差はほぼ温度差に起因している.わが国の大都市における乾燥化は夏の蒸し暑さを僅かではあるが和らげる効果をもたらしている.
著者
Yusei HISATOMI Daichi NAKAYAMA Hiroshi MATSUYAMA
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
JOURNAL OF JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.109-123, 2015-05-05 (Released:2015-08-12)
参考文献数
38
被引用文献数
4

本研究の目的は,武蔵野台地における長期的な地下水流動を,数値モデルを利用して再現すること,及び長期的な地下水流動の変化と土地利用との関係を定量的に明らかにすることである.モデルはUSGS(アメリカ地質調査所)が開発したMODFLOW(有限差分法を用いた3次元地下水流動解析モデル)を利用した.シミュレーションは土地利用データのある1976年~2012年を対象とし,MODFLOWを用いて1日ごとの地下水位を算出した.また,4種類のGCMデータを用いて2013年~2050年における地下水流動の予測シミュレーションも行った. 計算された地下水位のデータを用いて,1977年~2012年の地下水位の低下量と観測井戸における涵養域の減少量を算出したところ,両者の間に正の相関関係があることが分かった.この要因として,1977年~2012年に,水田や農地,森林などの透水面の面積が減少し,建物用地などの不透水面の面積が増加していることが示された.2013年~2050年の地下水流動の将来予測では,土地利用が変化しないと考えると,将来的に適度な強度の降水量が増加することで地下水位が上昇することが示唆された.
著者
牛山 素行
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.381-390, 2002
被引用文献数
1

豪雨時には,住民一人一人がその雨はどの程度激しいのかを理解することが,早期避難などの防災上重要であり,利用しやすい情報の整備が必要である.本研究では,この理解を支援することを目的とし,携帯電話からも参照できる日本全国のリアルタイム豪雨表示システムを開発・公開した(http://www.disaster-i.net/rain/).このシステムでは,全観測所の1時間降水量,24時間積算降水量などが表示され,最新の観測値だけでなく,過去最大値との差も見ることができることが特徴である.災害時などの通信混雑時にも容易にアクセスできるよう,ほぼすべての情報は文字で表示し,グラフも文字(記号)によって作成した.システム公開後の6ヶ月のアクセス状況を集計したところ,トップページのアクセス回数は1日平均306回,最大日で3078回,最多アクセス日の全ページへのアクセス回数総計は21500回であった.これは同じ日の国土交通省「川の防災情報」(www.river.go.jp)のアクセス回数の2%に相当する.また,本システムはいくつかのホームページ評価サイトや新聞に取り上げられており,このシステムはすでに社会的に評価され,実用的なものになっていると言っていい.
著者
中山 幹康
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.128-140, 1998
被引用文献数
3

メコン川の流域国4か国は1995年4月5日「メコン川流域の持続的開発協力に関する協定」に調印した.同協定の交渉過程では,流域国であるタイとベトナムの確執に起因する交渉の行き詰まりを打開するためにUNDP(国連開発計画)が仲介役を務めた.国際流域における流域国間の係争に国際機関が仲介役として過去に成功を収めた例としては,インドとパキスタンによる係争を世界銀行が仲介した結果,1960年に「インダス川条約」が締結されたことが知られているのみであった.「インダス川条約」と「メコン川流域の持続的開発協力に関する協定」の交渉過程を比較すると,流域国および仲介役を演じた国際機関が置かれていた状況について幾つかの類似点が見られる.国際機関が国際河川における流域国間の係争に仲介役として機能し,かつ流域国を合意に導くために満たすべき要件としては,(a)流域国が係争の解決を指向し,かつ国際機関による仲介が不可欠であるとの認識を流域国が持つ,(b)特定の国際機関が先進国や援助機関の利益代表としての立場を保持する,(c)統合的な流域管理計画に固執しない,などを挙げることが出来る.
著者
恩田 裕一 辻村 真貴 野々田 稔郎 竹中 千里
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 = JOURNAL OF JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY & WATER RESOURCES (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.18, no.6, pp.688-694, 2005-11-05
被引用文献数
9 18

近年,林業労働力の不足,材価の低迷のため,適切に管理されずに放置され荒廃した林分が年々増大している.従来の研究によれば,人工林,特にヒノキ一斉林では,樹冠の閉鎖が進むと下層植生が消失し,浸透能が低下することが知られていたが,従来の浸透能測定法では,裸地化した林床における浸透能を正確に表現していない恐れがある.そこで本研究では,冠水型浸透計,霧雨散水型浸透装置,樹幹上から散水をする大型の浸透計を用い林内における浸透能の把握をすることを目的に研究を行った.その結果,霧雨散水型が294-670 mm/h,冠水型浸透計での測定値は,210-456 mm/h程度とかなりばらつきが多く,また,非常に高い浸透能を示す.これに対し,降雨強度35-45 mm/hの人工降雨を4回,林冠上から散水した結果,浸透能は26-34 mm/hと一桁低い値で比較的安定した値を示した.人工降雨型の浸透試験器は,スプリンクラーにより樹冠上から散水されるために,雨滴径も大きく,林内雨を再現していると考えられるため,人工降雨型を用いた場合の値が,林床が裸地化したヒノキ林の浸透能を示すとするのが妥当であり,他の方法では過大な値を得る結果となる可能性が高い.
著者
ニャダワ モーリス 小葉竹 重機 江崎 一博
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.93-100, 1995

ケニアは大きく5個の流域に分けられ,その第3番目の流域はAthi川流域で流域面積約7万km2で,そのうち65%がAthi川本川である。残り35%は直接インド洋に注ぐそれぞれ独立したいくつかの河川から構成される。Athi川本川の上流域は3月~5月と10月~11月にかけての2回の雨期をもつが,とくに3月~5月の雨期では雨のピークは4月にあるにもかかわらず,流量のピークは5月になってから現れる。この現象は流域面積が数十km2の小流域でも顕著に認められ,水文学的に大きな流域とみなすことができる。このような性質をもつ流域からの流出をタンクモデルによってシミュレートした。タンクは3段直列であるが,1段目のタンクの浸透孔を底部より高い位置に開口し,土壌に取り込まれ蒸発散のみで失われる土壌水分成分を表現した。蒸発散量は蒸発皿の値に一定の係数をかけた値を用いた。1960年~1988年の資料を用いてシミュレーションを行った結果,良好な結果が得られた。
著者
Ty Tran Van Babel Mukand Singh Sunada Kengo Oishi Satoru Kawasaki Akiyuki
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
Hydrological Research Letters (ISSN:18823416)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.27-31, 2009
被引用文献数
1 6

The objective of the study is to develop a GIS-based water infrastructure inventory (WII) for water resources assessment in the upper Srepok basin, Vietnam. The water availability and demand were estimated using common methods. Different water scarcity indicators were estimated to examine the water situation at district level under present and future conditions and future water development needs are assessed. Results reveal that the aggregated information on the basin scale misleads the issue of water situation, especially the scarcity at local level due to high spatio-temporal variations of water resources availability and demands. Most districts in the study basin will experience severe water scarcity in 2010 and 2020 in both physical and economic terms. Generated data from the WII shows very low percentage of water withdrawals in several districts with respect to available resources. Therefore, to meet future demand, significant investment in water infrastructure is needed.
著者
菊地 慶太 風間 聡
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.277-285, 2009-07-05
被引用文献数
1

GPSを用いて2006年から2007年の冬季から春季にかけて,山岳域(宮城蔵王)における積雪深分布を観測した.山間部において積雪期から融雪期にかけて標高-積雪深分布データを得ることはこれまでほとんどなされておらず,これらのデータは,貴重である.観測には干渉測位の一つである連続キネマティック測位を用いた.この測位方法は任意点のデータを一定時間間隔で取得できるのが特徴である.位置データ補間には最近隣法,2点幾何補間法を用いた.そしてGPS測位および補間結果から地表面標高に対する詳細な積雪深分布データを得ることが出来た.測定誤差には,姿勢誤差,計算誤差,実地誤差,観測誤差がある.それらの合計は,最近隣法が0.25 m~0.41 m,2点幾何補間法が0.25 m~0.40 mである.測深棒とGPS測位による積雪深の比較では2点幾何補間法の場合,両者の差は0.34m~1.10 m,最近隣法の場合は0.12 m~0.30 mとなった.最近隣法の場合,積雪深が3 m以上であれば相対誤差は10 %以下であり良好な値が得られた.つまり雪の多い場所,特に山間部において最近隣法を用いたGPS観測は有効な手段である.