著者
今泉 敏
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.111-118, 2003-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
21

空間解像度の高いPETや機能的MRI, さらには時間解像度の高い脳磁図などの脳機能画像法の発達によって, 発話の中枢機構が明らかにされつつある.それに伴って吃音などの原因論にも新たな見解が示されてきた.吃音者と非吃音者, あるいは吃音状態と非吃音状態での脳活動パタンの違いから, 左半球優位性の未熟説や自己発話の聴覚モニター障害説など従来からの仮説がより具体的に検証され, それに代わる新たな仮説が提案されるようになってきた.本文では非吃音者と吃音者の発話中枢機構に関する最近の知見を概括し, その可能性と限界, 将来の研究動向を考察した.
著者
西尾 正輝 新美 成二
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.136-144, 2005-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
34
被引用文献数
4 5

健常発話者男女各187例, 計374例を対象として, 青年期以降の加齢に伴う話声位の変化について検討し, 主に以下の結果を得た.1.男性では60歳代までは変化は乏しく, 70歳代以降に多少の上昇が認められた.2.女性では20歳代と比較して30歳代および40歳代でも明らかな低値を認め, 80歳代まですべての年代群で加齢に伴い低下する傾向が認められた.3.男性と比較して女性のほうが, 変化の範囲が著しく大きかった.また, 男女両群の年齢群ごとの話声位の正常範囲 (平均±1.96SD) を得たが, これは臨床的に話声位の異常やその原因となっている喉頭疾患の検出に有用であると思われた.
著者
福島 邦博 川崎 聡大
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.1-6, 2008-01-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
16
被引用文献数
8 1

聴覚情報処理障害 (Auditory Processing Disorder: APD) とは, 末梢聴力には明白な難聴を呈さないが, 中枢性聴覚情報処理の困難さによって難聴に似た症状を呈する状態である.しかし, APDの疾患概念は比較的新しく, 臨床場面での具体的な診断および介入方法には若干の混乱も見受けられる.本稿では, 自験例のAPD症例について報告し, この疾患の診断を中心に概念と介入方法についても概説する.提示した症例は, 初診時11歳8ヵ月の女児で, 騒音下で会話が聴き取れないことを主訴とし本院来院となった.画像所見では, 両側側頭葉後部内側の局所脳血流量の低下を認め, DLTでは単音節, 単語とも正答率の有意な低下と顕著なREA傾向を認めた.CSTではS/N 0 dBで受聴困難であった.APDの診断のために, 他疾患の除外診断と画像診断, 聴覚的検査を併用することが必須であるが, 日本語の特性に根差した診断および介入方法を確立するためには, 今後の研究の進展が望まれる.
著者
南雲 直二
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.132-136, 2008-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
7

People with disabilities experience two kinds of distress. One originates directly from their disability or disabilities, and the other derives from the social treatment accorded to them as a disabled individual. The palliative method for coping with the former type of distress is acceptance of one's disabilities, although this may involve numerous methodological difficulties. The palliative method for dealing with the latter form of distress is social acceptance of persons with disabilities. Many approaches have been devised to secure such social acceptance, and collectively these have resulted both in improved social participation by persons with disabilities and, as a by-product, easing of the distress originating from their disabilities.
著者
北野 市子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.393-401, 1999-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
3

4歳時に重~中度の精神発達遅滞を示した子どもに対し, 個別継続的プログラムされた言語訓練を行わず, 長期的な助言指導・経過観察を行った児の8歳時のコミュニケーションについて調査した.重度群24例, 中度群25例であった.結果, 中度例で学童期に発語可能となったものは25例中24例で, このうち「簡単な会話成立」以上の実用的発語が可能なものは15例であった.一方, 重度例では24例中16例に発語がみられた.また, パニックが減少した児の中に発語可能となった者が多かった.発語可能な重度例の半数以上は学童期以降に音声模倣や発語が盛んとなった.このことから重度群については長期的な視野をもって母子の援助に当たることが重要であると考えられた.今回の調査結果は, STの指導効果を示したものではなく, 児の成長力を示したものである.したがって, こうした児に対するSTの直接的な訓練効果を検討する場合には, これらの児のもつ成長力を十分に考慮するべきであると考える.

16 0 0 0 OA 失敗学のすすめ

著者
畑村 洋太郎
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.182-188, 2002-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
2

人はだれでも新しいことに挑戦すれば必ず失敗する.そこで知識や経験の必要性を体感・実感し, それを基にして進歩する.技術の世界にもこのことはあてはまり, 失敗を分析し, 新しい知識を樹立することによって新しい技術が生れ, 社会を豊かにしてきた.このように失敗のマイナス面だけに目を向けるのではなく, 失敗をプラスに転化するための考え方と方法を取り扱うのが「失敗学」であり, そこでは, 失敗の必要性・失敗の原因と結果の関係・失敗を生かす工夫などについて具体的な例を取り上げながら学んでゆく.
著者
伊藤 元信
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.242-252, 1990-04-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

左大脳半球のブローカ領域ないしその周辺の損傷による特異な構音と韻律の障害を, 発語失行症という.この障害は, 言語表象の操作機能の障害としての失語症とも, 発声・発語器官の麻痺や筋力低下による麻痺性 (運動障害性) 構音障害とも異なる特殊な構音障害である.この障害の本態の解明はいまだ十分とはいえないが, その出現率は低くなく, 臨床上, この障害の取り扱いは重要である.本稿では, 発語失行症の構音障害の特徴, 構音器官の動態などについてのこれまでの研究結果を概括し, 障害像を浮き彫りにするとともに, 評価・診断を中心とした臨床的アプローチについても考察を加える.最後に, 臨床場面での今後の課題について若干私見を述べる.
著者
岡ノ谷 一夫
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.364-370, 1999-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
23

鳴禽類においては歌はオスがメスを性的に誘引するための行動である.また, この行動は幼鳥期に親から学習される行動である.一般に鳥の歌は複数の歌素を固定した順番に配列することでできている.しかし, ジュウシマツの歌は特異で, 複数の歌素を非決定的に配列してうたう.この配列規則は, 有限状態文法としてあらわすことができる.どうしてジュウシマツの歌はこのように複雑なのであろうか.まず, 解剖学的なレベルでの局所破壊実験により, 歌を制御する階層的構造が明らかになった.次に, 機能を知るためのメスの好みを測定する実験により, 複雑な歌はメスの性選択により進化したことが示唆された.さらに, ジュウシマツの祖先種であるコシジロキンパラのオスの歌はより単純であるが, メスは潜在的に複雑な歌に対する好みをもつことがわかった.以上の結果から, 複雑な行動の進化と脳の変化について考察し, ヒトの言語の起源に迫る手がかりとしたい.
著者
栗田 茂二朗
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.185-193, 1988-04-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
5
被引用文献数
3 3

剖検より得られた男63個, 女59個の喉頭を肉眼的, 組織学的に観測し以下の結果を得た.1) 声帯の長さ, 声帯膜様部の長さは, 新生児より年齢とともに増大し, 20歳頃に成人の長さに達する.2) 声帯粘膜の厚さは, 新生児でも0.75~0.95mmでかなり厚く, 年齢に伴う増大はわずかである.3) 新生児では声帯靱帯が形成されていない.靱帯の発達は, まず線維束が膜様部全長に連なり, 次に弾性線維, 膠原線維の層が分化し, さらに密度を増すという過程をとおって完成する.4) 粘膜固有層浅層は, 加齢とともに浮腫状となって厚くなる.中間層は弾性線維の萎縮のため薄くなり, 深層は膠原線維の増生によって厚くなる.これらの傾向は男の方で顕著であった.
著者
内山 勉
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.329-335, 2011-10-20
参考文献数
18
被引用文献数
3

聴覚活用による早期療育を受けた平均聴力レベル(聴力)が90dB以上の人工内耳装用の難聴児(CI群18名)を対象に,療育開始年齢と早期療育効果との関係について,6歳時点のWPPSI知能検査言語性IQ(VIQ)を基に検討した.療育開始0歳・CI手術2歳のCI群VIQ(平均116.0)は,療育開始2歳・CI手術3歳以降のCI群VIQ(平均92.1)より有意に高かった.また療育開始年齢と聴力が同じ補聴器装用児(HA群26名)とCI群を比較したところ,療育開始2歳CI群VIQ(平均92.1)は療育開始2歳HA群VIQ(平均70.3)より有意に高かった.また言語発達遅滞(VIQ80未満)の出現比率は,療育開始2歳HA群(70.0%)が療育開始2歳CI群(14.2%)に比べ有意に高かった.これらの結果から,聴力90dB以上の難聴児では0歳からの早期療育と2歳での人工内耳装用は明らかに言語習得に効果があり,療育開始年齢と人工内耳手術年齢は難聴児の言語習得を促進させる重要な要因であることが明らかになった.
著者
渡部 信一
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.217-226, 1987-10-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
30

1健忘失語例の語想起障害に対して, 認知心理学的観点から考察した結果, 以下の点が明らかになった.1) 本症例は再生に著しい障害を示したが, 再認は全く障害されていない.これは言語情報の検索過程に限局した障害であり, 検索過程と再認過程を独立した別の過程であるとする二重過程説を支持していると考えた.2) 語想起困難に陥った場合でもTOT現象が全く出現せず, 本症例の語想起困難時の検索は非常に低い検索レベルにとどまり, かつ部分的検索も行われていないことが明らかになった.3) 「しんかんせ」のヒントで「新幹線」が想起できないことから, 本症例はひとつの単語をひとつのパターンとして記憶していると考えられた.4) 手がかり効果がなかったことなどから, 本症例の語検索は自動的検索が主であり, 語想起困難に陥った場合の制御的検索は非常に困難であることが明らかになった.
著者
府川 昭世
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.103-108, 1980-04-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

運動の外在・内在フィードバックモデルを言語運動に適用し, 言語課題で熟知度の低いことばの朗読はDAF効果を受けやすく, 練習や語の有意味性によって熟知度が高くなるほど, フィードバックが内在化してDAF効果が小さいであろうと予想して, 実験的検証を試みた.小学6年生の男女60名を均質な3群に分け, W群は単語, NS群は無意味綴り, NSP群は練習した無意味綴りの刺激語を朗読させた.流暢さの指標として1秒当たりの正しいモーラ数〈CMR〉をとり, DAF効果を〈1-DAFのCMR/NAFのCMR〉と定義した.被験者全体では熟知度の高い単語はDAF効果は小さく, 熟知度の低い無意味綴りはDAF効果は大であった.無意味綴りの練習群と非練習群とのDAF効果には, 被験者全体としては有意差がなかったが, 男女間では男子は練習群が非練習群よりDAF効果が有意に大きく, その逆に女子では練習群が非練習群よりDAF効果が小さくなる傾向がみられた.DAF効果には性差があり, 無意味綴り練習群と単語群に有意に認められた.
著者
川崎 美香 森 寿子 藤本 政明
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.110-118, 2005-04-20 (Released:2010-12-08)
参考文献数
22

乳幼児の指導を行う際, 母親の心理的安定は訓練効果を高めるうえで重要である.われわれは注意欠陥多動性障害 (attention deficit hyperactivity disorder, 以下ADHD) を合併した人工内耳 (cochlear implant, 以下CI) 装用聾児 (兄, R.H.) と健聴児 (弟) の双生児をもつ母親に, TK式幼児用親子関係検査 (以下TK式) を実施し, 以下の知見を得た.症例R.H.に対するCI術前の母子関係を健聴な弟と比較すると, 術後2年が経過しても変化は見られなかった.術後2年7ヵ月後, R.H.に実施した言語・知能検査が正常となった時点で, 母子関係は兄弟間で類似する結果となった.比較対照群として検討した聴覚障害単一例2例とその兄弟との母子関係では, CI術前は健聴な兄弟に比べ, TK式で問題性が高かったが, CI術後約1年が経過した時点で, 母子関係は安定した.ADHDを合併したR.H.では単一障害例に比し, CI術後母子関係が安定するまでに約3倍の時間を要し, ADHD合併例に対する母親指導の難しさとその重要性が示唆された.
著者
高橋 ヒロ子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.302-310, 1986-10-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
24

呼吸・発声の障害を主とする脳性麻痺アテトーゼ型四肢麻痺児 (9歳9ヵ月) に心理リハビリテーションの手技 (実施期間: S.58.6.~S.59.4.) とボバースアプローチの手技 (実施期間: S.59.5.~S.60.12.) を通して, 呼吸・発声の改善をはかり, 次の結果を得た.1) 心理リハビリテーションの手技によって「アー」発声持続時間は0.12秒から0.61秒にのび, 呼吸パターンも改善した.しかし, 発声姿勢はトニックな全身性パターンが減少したものの, 座位, 立位では動揺の大きい伸展パターンが出現し, 発声持続がのびるにつれ, むしろ顕著になった.2) ボバースアプローチの手技によって「アー」発声持続時間は0.61秒から2.70秒にさらにのび, 呼吸パターンもさらに改善した.また, 伸展パターンは減少し正中線を交互に動揺するパターンに変化した.両手技とも呼吸・発声に改善を得たが, 姿勢筋緊張の改善と頸部・体幹の安定性の向上および呼吸・発声の分離運動の発達の促通を同時に実施することのできるボバースアプローチの手技がより有効であると考察した.

4 0 0 0 OA 聴覚と音痴

著者
加我 君孝
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.266-271, 2000-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
7
著者
石毛 美代子 新美 成二 森 浩一
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.347-354, 1996-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
25
被引用文献数
4 3

声帯振動の状態を調べる方法の一つにElectroglottography (以下EGG) がある.EGGは非侵襲的で, 操作が容易, かつ装置が高価でないなど, 音声の研究のみならず臨床においてもすぐれた有用な特徴を持っている.欧米では音声障害患者のルーチンの検査として用いることも少なくない.しかしわが国においては, EGGを使用している施設はむしろ限られており, 声帯振動の一般的な評価方法として普及しているとはいい難い.そこで, あらためてEGGの原理や必要最小限の装置としてどんなものがあれば実際に使用することができるか, 波形から声帯振動の何がわかるか, さらにEGGの模式波形と実際の波形はどのように異なるか, などについてこれまでの研究結果を概説し, EGGが声帯振動の評価として, また音声訓練のバイオフィードバックとして, 簡便でかつ有効な方法であることを述べた.
著者
重野 純
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.260-265, 2000-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

生理的には正常なのに正しい音程が分からず, そのために正しい音程で曲を再生できない場合を, 生理的に問題がある場合と区別して認知的音痴と呼んだ.そして, 何がどうして分からないのかについて考えた.その際, (1) 音の高さにおける2種類の性質―ハイトとクロマ―, (2) 2種類の音感―絶対音感と相対音感―, (3) 音楽におけるカテゴリ知覚, の3つの側面から考察した.その結果, 認知的音痴は音名についても音程についてもカテゴリ知覚ができないことや, 音の高さや音程をカテゴリ記憶ではなく感覚痕跡記憶により記憶するため不確実な認知・再生しかできないことなどが原因として考えられた.さらに, 認知的音痴は相対音感を磨くことによりその解消が図られるのではないかということが示唆された.
著者
苅安 誠
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.271-279, 1990-07-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
18
被引用文献数
2

吃音のブロック症状を音声産生の側面からとらえると, 呼気流の一時的な停止状態であり, とくに発声・構音ブロックは, 声門及び声道での閉鎖力が呼気力を上回ることによって起こると推定できる.そこで, 今回の研究の目的は, ブロックと挿入を主症状とする成人吃音者に対して, リズム発話法と運動制御アプローチを併用し, その効果を調べることである.症例は, 29歳の男性吃音者であった.訓練は, 流暢性の獲得とその保持の2段階であった.第1段階ではリズム発話法によって流暢に話すことのできる安全速度を獲得し, 同時に呼吸と発声に対する運動制御アプローチを行なった.第2段階では発声構音に対する運動制御アプローチを行なった.訓練前後及び訓練終了後2ヵ月・1年半経過観察時の音読・自発話の流暢性を比較した結果, ブロック症状だけでなく挿入の頻度も減少しその効果が1年半後も持続していた.
著者
力丸 裕
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.455-461, 1996-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
15
被引用文献数
1

本論文では音楽知覚に不可欠な音感覚を脳が創りだしているという基礎事実について述べた.目的としている音のどの物理的周波数成分 (スペクトル) にも関係のない音を, われわれがよく知覚することは, 聴覚心理学の分野では19世紀からよく知られた事実である.実は, これによってわれわれは音楽を楽しむことができるのである.たとえば, いくつかの連続した高次倍音を加えると, 「ミッシングファンダメンタル」と呼ばれる実在しない低周波の基本周波数に対応したピッチが聴こえる.この現象を容易に理解するために, これまでにみつかった心理学的事実を簡単に紹介し, さらに, 聴覚中枢におけるミッシングファンダメンタルのピッチ抽出機構と関連のある神経生理学的知見をいくつか提供した.ミッシングファンダメンタルとして知られる時間情報で創られるピッチ (時間ピッチ) が, 周波数成分に基づきスペクトルで創られるピッチ (場所ピッチ) を処理している考えられる一次聴覚野ニューロンと同じニューロンによって取り扱われているかどうかが調べられた.その結果, 一次聴覚野において時間ピッチは場所ピッチと同一のニューロンによって取り扱われているらしいことが判明している.紹介しているデータは心理学的知見とよく一致している.