著者
友田 明美
出版者
The Japanese Society of Child Neurology
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.345-351, 2011-09-01
参考文献数
22
被引用文献数
1

児童虐待は, 日本の少子化社会の中でも近年増加の一途をたどっている. 小児期に様々な虐待経験のある被虐待者脳MRI形態の検討により, 虐待や育児放棄による幼少期母子関係の破綻 (愛着形成の障害) が社会性の発達障害を引き起こすこと, さらにその障害が脳の構造機能の変容に起因することが示唆された. 「性的虐待」では, 最初に目に映った情報を処理する脳の視覚野で脳の容積が減ったり, 「暴言虐待」では, コミュニケーション能力に重要な役割を持つ聴覚野で大脳白質髄鞘化が異常をきたしたりすることが明らかになった. 被虐待児に認められる "社会性発達障害" という観点から, こころに負った傷は容易には癒やされないことが予想される. 被虐待児たちの精神発達を慎重に見守ることの重要性を強調したい. しかしながら, 被虐待児たちの脳変成も多様な治療で改善される可能性があると考えられる.
著者
斎藤 義朗 福村 忍 齋藤 貴志 小牧 宏文 中川 栄二 須貝 研司 佐々木 征行
出版者
The Japanese Society of Child Neurology
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.477-481, 2012-11-01

ノイロトロピン<sup>®</sup> (Neurotropin, ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液) は頸肩腕症候群や帯状疱疹後疼痛に有効であり, 成人の一次性頭痛に対する効果も報告されている. 今回, 他の各種薬剤に効果が乏しかった慢性頭痛の小児2例で本剤が有効であった. いずれも中学生女子, 片頭痛を発症して2~3年後に増悪をきたし, 不登校にいたった経過で, 起立性調節障害の併存, 間欠的な四肢・背部の疼痛, MRI上の大脳白質散在性病変も共通していた. Neurotropinには他の鎮痛薬にはない下降性疼痛抑制系の増強効果があり, 小児の難治な慢性頭痛にも有効と示唆された.
著者
荒木 章子 大日向 純子 鈴木 菜生 岩佐 諭美 雨宮 聡 田中 肇 藤枝 憲二
出版者
The Japanese Society of Child Neurology
雑誌
脳と発達 (ISSN:18847668)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.370-374, 2008

北海道旭川市において, 3歳児健診受診児の保護者に対し, 子どもの睡眠習慣に関するアンケート調査を行った. 受診者450名のうち404名 (90.4%) から回答を得た. 就床時刻は平均21.4時で, 22時以降は36%であった. 起床時刻は平均7.5時であった. 夜間睡眠時間は平均10.1時間で, 就床時刻が22時以降の児は22時以前と比べて, 有意に夜間睡眠時間が短かった (p<0.01). 午睡をとる児の12%は終了時刻が17時以降で, それらの児の平均就床時刻は22.1時であった. 就床時刻の遅延は, 食欲低下やカッとなって怒りっぽいという愁訴と関係があった (いずれもp<0.05). 保護者は就床環境に対して高い意識を示すが, 日中の活動性や午睡への意識は低かった. 25%の保護者は子どもの睡眠に問題を感じていたが, 医師への相談はわずか3%であった. 睡眠リズムの確立は, 心身の健全な発達と関係があり, 医療機関は積極的に啓発活動する必要がある.
著者
神保 恵理子 桃井 真里子
出版者
The Japanese Society of Child Neurology
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.215-219, 2015

発達障害の中でも自閉症スペクトラム障害 (autism spectrum disorders ; ASD) は遺伝性要因が強い疾患である. 発症には, 多数の遺伝子の関与と共に, 遺伝子×環境性要因によるエピゲノム形成が示唆される. 罹患者の約40%にゲノム異常や遺伝子変異が検出されていることから, 今後の分子遺伝学的研究の進展は, 発症機序などの解明に不可欠である. これまでの解析から, ASD候補遺伝子はシナプス恒常性に関与するものが多い. 筆者らは, ASD特異的変異が惹起するシナプス機能性蛋白のloss-of-functionに加え, gain-of-functionの存在を示してきた. ASD, さらに合併疾患にも関与する共通分子機構の解明, 治療へと繋がることを期待したい.
著者
帆足 英一
出版者
The Japanese Society of Child Neurology
雑誌
脳と発達 (ISSN:18847668)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.303-310, 1977

夜尿症の病態生理を明らかにする目的で, idiopathic enuresis 21例について終夜睡眠ポリグラフを第1夜に記録し, 分析をおこなった.<BR>1) 正常児と比較して, 睡眠段階の割り合いはSV, S1, S3の増加, SREM, S4の減少傾向がみられた.<BR>2) 夜尿時の睡眠段階は, 22回の夜尿のうちS2で12例 (54.5%) と多く, S3, SREMは各1例と少ない.<BR>3) 夜尿前後の睡眠段階の変化から, 覚醒機構の未熟性あるいは障害が推定された.<BR>4) REM睡眠とNREM睡眠の周期的変動の乱れがつよく, 入眠期の障害とREM睡眠の睡眠内周期の障害が推定された
著者
塚本 東子 石川 達也 張 尚美 水野 久美子
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF CHILD NEUROLOGY
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.523-527, 2001-11-01
参考文献数
22
被引用文献数
2

歳で発症したナルコレプシーの1男児例を報告した. 症例は, 昼間の眠気過剰・睡眠発作で発症し, その後, 情動性脱力発作および夜間睡眠分断を呈した.睡眠ポリグラフ検査では, 入眠時REM睡眠期 (sleep-onset REM period, SOREMP) が出現し, ヒト主要組織抗原 (HLA) は, DR2およびDQB1*0602が陽性であった. 治療は, 昼間の眠気に対しmethylphenidate, 情動性脱力発作に対しclomipramineを用い有効であった. 思春期前発症のナルコレプシー患者は行動異常を伴うことが多く, てんかん, 注意欠陥多動性障害と誤診されたり, 周囲から怠け者とみられることもあり, 特に本症例のような就学児の場合は, 早期診断治療と周囲の理解, 援助が必要である.
著者
山城 大 相原 正男 小野 智佳子 金村 英秋 青柳 閣郎 後藤 裕介 岩垂 喜貴 中澤 眞平
出版者
The Japanese Society of Child Neurology
雑誌
脳と発達 (ISSN:18847668)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.372-377, 2004

交感神経皮膚反応 (sympathetic skin response; SSR) は情動表出反応として出現することが報告されている.情動機能を評価する画像をオリジナルに作製し, これらを視覚刺激として呈示した際に出現するSSRについて健常小児と健常成人で比較検討した.小児では成人に比し高いSSR出現率を認めた.さらに, 不快な画像におけるSSR出現率は, 成人では生理的に不快な画像に比し暴力行為などの非社会的画像で有意に高かったが, 小児においては両者に明らかな差異を認めなかった.このことから, 小児期から成人にいたる情動的評価・意義の相違と変化は, 情動発達に伴う推移を示すものと思われる.情動の客観的評価に視覚刺激によるSSRが有用であると考えられる.
著者
堀口 寿広
出版者
The Japanese Society of Child Neurology
雑誌
脳と発達 (ISSN:18847668)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.193-197, 2007

発達障害福祉サービスのあり方を検討する目的で, アンケート形式で施設サービスの自己評価を実施した. 回答した21施設は利用者の個別の要求に対応していると答える一方で, 不満や苦情処理のあり方, 個人情報の保護, 職員の教育や医療との連携に改善すべき点が多いと感じていた. 児の施設は全体的にサービスが充実していると回答していた.施設内に苦情受け付けの仕組みを設け, サービス内容を利用者に説明し意見交換を行うことにより, 利用者一人ひとりのニーズに沿った支援を提供することが必要である.
著者
森 健治 橋本 俊顕 原田 雅史 米田 吉宏 島川 清司 藤井 笑子 山上 貴司 宮崎 雅仁 西條 隆彦 黒田 泰弘
出版者
The Japanese Society of Child Neurology
雑誌
脳と発達 (ISSN:18847668)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.329-335, 2001

自閉症患児29例 (IQ50以上=6例, IQ50未満=23例) および正常小児19例において, 扁桃体~海馬を含む左, 右側頭葉内側部, 左小脳半球の3箇所にてproton magnetic resonancespectroscopy (1H-MRS) を施行し, 代謝物質の濃度を抑制されていない組織水を用いた内部標準法にて測定した.IQ50未満の自閉症患児においては, 扁桃体~海馬を含む左側頭葉内側部および左小脳半球にてN-acetylaspartate濃度が有意に低下していた.これは, これらの部位における神経細胞の減少や発達異常あるいは神経活動の低下を反映していると考えられ, 自閉症で報告されている神経病理学的所見および脳血流SPECTの所見とよく一致していた.1H-MRSは自閉症の病態解明に有用であると考えられる.

1 0 0 0 OA Myotubular myopathy

著者
祖父江 逸郎 向山 昌邦
出版者
The Japanese Society of Child Neurology
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.5, no.6, pp.507-512, 1973-11-01 (Released:2011-05-24)
参考文献数
9

Three cases of myotubular myopathy (8 years girl, 9 years girl and 13 years boy) were reported. Age of onset was at birth in 2 cases and 1 year after birth in one case. No heredity was found in all cases.The clinical course was progressive in 2 cases and stationary in one case. Neurological examinations revealed proximal dominant muscular weakness, decreased deep reflexes, facial muscle weakness and no sensory disturbances in all cases, abnormalities of ocular movement in 2 cases and impairment of intelligence in one case.Muscle biopsy showed centrally situated nuclei, halo around the nuclei and type I fiber atrophy which are characteristic to myotubular myopathy. Electromyographic findings were low amplitude potential, short duration and fibrillation potential. Values of serum enzymes were within normal limit. Blood chemistries were all negative.Fairly close relation was found between clinical progression and ratio of the affected fibers observed in muscle biopsy.Pathogenisis of this disease was discussed from the clinical and pathological findings.
著者
帆足 英一
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF CHILD NEUROLOGY
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.321-328, 1977

Idiopathic enuresis 10例について, Imipramine内服前後の終夜睡眠ポリグラフを比較検討した結果, 次の点が明らかとなった.<BR>1) 睡眠段階ではSREM, S4, S3+S4の減少とS2の増加をみとめた. (P<0.05)<BR>2) 元来不規則であった睡眠リズムには著変なく, 不規則さが続いている.<BR>3) 夜尿前の覚醒傾向が強まり, 夜尿時の睡眠深度も浅くなる傾向があり, 覚醒機構への作用が推定された.<BR>4) 脈拍, 呼吸, 筋電図, 皮膚電気反射などへの影響から, 自律機構への賦活作用が推定された.<BR>以上の現象から, Imipramineは夜尿症児にみられた睡眠中の生理的覚醒 (Physiologicalarousal) 現象を増強し, その結果夜尿は改善され, これらはImipramineの抗コリン作用が関与するものと推定された.
著者
堀田 秀樹 帆足 英一 奥山 裕子 熊谷 公明 遠藤 四郎
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF CHILD NEUROLOGY
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.9, no.6, pp.504-511, 1977

生後4ヵ月目に前屈発作が出現した点頭てんかん児にACTH療法, hydrocortisone療法, ケトン食療法を行なったが, 効果なく種々の発作型を推移し, 極度の精神運動発達遅延をきたした.われわれは本症例におけるACTH療法の適, 不適, 経過中みられた痙攣, その他の症状, 並びに治療に前後して行なった終夜睡眠ポリグラフィーにおける所見について検討した.その結果本症例における脳障害ぱ広範かつ重篶であり, その脳障害発現には点頭てんかん本来の脳障害に加えてホルモン剤などの影響もたぶんにあると思われた.
著者
三宅 捷太 田中 文雅 松井 潔 宮川 田鶴子 山下 純正 山田 美智子 岩本 弘子
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF CHILD NEUROLOGY
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.329-335, 1991

神奈川県立こども医療センター神経内科を受診し昭和45年5月~平成元年3月までに死亡した症例をてんかんに焦点をあてて検討した.<BR>1. 院内死亡総数2,244例中神経内科患者の死亡数は237例 (11%) で, その74%が重症心身障害児であった.<BR>2. 対象237例のうちてんかんをもつ例は128例 (54%) で, 死因は肺炎, 慢性呼吸不全, 誤嚥の三者が60%を占め, 直接死因が痙攣であったものは14%であった. また死亡場所は38%が自宅であった.<BR>3. 点頭てんかんを既往にもつ146例中16例 (11%) が死亡し周生期障害による症例が多く, その死因の約半数が呼吸障害であった.<BR>4. 乳児重症ミオクロニーてんかん8例中4例 (50%) が死亡し, 死因は3例が痙攣重積症で, 死亡場所は2例が自宅であった. 死亡例と生存例とを比較した結果, 臨床的に予後を推測させる明瞭な因子は認められなかった.<BR>5. てんかんが主たる障害で, その他の障害が軽微であった16例について分析した結果, 有熱性痙攣の既往と部分てんかんが多く認められた. 16例の死因は痙攣重積症10例, 短時間の発作 (手術後と学校の給食後) による急性死2例, 発作時の転倒による硬膜下血腫1例, 風呂における溺死1例, 病死 (肺炎) 1例, 詳細不明1例であった. 16例中7例の死亡場所が白宅であった. 自宅での死亡が多いことから, 発作への対処と呼吸管理の指導, 誤嚥などの事故防止が死亡の予防に重要と考えられた.
著者
山内 秀雄 平野 悟 桜川 宣男 黒川 徹
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF CHILD NEUROLOGY
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.291-293, 1992

顔面および下肢の皮膚の単純性血管腫, 同側の頭皮動静脈凄, 対側の小脳動静脈奇形を同時に合併した7歳女児を報告した. 小脳出血で発症し, 発症までの精神運動発達および診察上神経学的所見は正常であった. 皮膚および頭蓋内病変の合併が偶然である可能性も否定できないが, 病因論的には胎芽期における血管形成期の錯誤現象の結果生じたものと考えた. これまで報告されている神経皮膚症候群中で本例に該当するものはない. しかし本例は, 神経皮膚症候群の基本的疾患概念を満足するものであり新しい神経皮膚症候群である可能性をもつものとして考慮すべきであると考えられた.
著者
関 亨 山脇 英範 鈴木 伸幸
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF CHILD NEUROLOGY
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.156-162, 1982

てんかん児に対する予防接種の問題点につき, 現在までにえられた知見の概要および日本小児神経学会評議員のうち小児科関係の方々の御協力によるアンケート調査成績を述べ, これらをふまえて現時点におけるてんかん児に対する予防接種対策案を述べた.<BR>てんかん児に対していたずらに予防接種を回避することには問題がある.予防接種の種類による有効性, 必要性, 副反応の強弱, およびてんかん児の個体側要因との組合せによって個々の予防接種施行の可否を決定すべきであり, 本問題につき行政へのすみやかな反映を切に望むものである.<BR>なお, てんかん児に対する予防接種は集団接種ではなく, 個別接種で行なうことはいうまでもないことである.
著者
安立 多惠子 平林 伸一 汐田 まどか 鈴木 周平 若宮 英司 北山 真次 河野 政樹 前岡 幸憲 小枝 達也
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF CHILD NEUROLOGY
雑誌
脳と発達 = OFFICIAL JOURNAL OF THE JAPANESE SOCIETY OF CHILD NEUROLOGY (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.177-181, 2006-05-01
参考文献数
12
被引用文献数
2

注意欠陥/多動性障害 (AD/HD), Asperger障害 (AS), 高機能自閉症 (HFA) の状況認知能力に関する特徴を検討するために, 比喩文と皮肉文から構成されている比喩・皮肉文テスト (MSST) を開発した. 今回はAS群66名, HFA群20名, AD/HD群37名を対象とし, MSSTの得点プロフィールを比較した. その結果, AS群では皮肉文の得点が特異的に低かったが, HFA群とAD/HD群では比喩文と皮肉文の得点に差がなかった. 以上より, AS群の特徴は言語能力が良好であるにもかかわらず, 皮肉という状況の理解困難であろうと考えられた.
著者
東 健一郎 波多野 光紀 平岡 興三 鈴木 英太郎
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF CHILD NEUROLOGY
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.6, no.5, pp.349-357, 1974

1970年から1972年までの3年間におれおれの教室で, 外科的治療を要する乳児化膿性髄膜炎の症例9例を治療した. その内訳は, 水頭症7例, 脳膿瘍1例, 硬膜下膿瘍1例であつた.<BR>水頭症に対しては, 髄液が無菌となつてからすくなくとも2カ月間観察した後に, 脳室腹腔シャントを施行した. このような注意深い治療にも拘らず, 大部分の患者で, シャントバルブの閉塞や感染のために, 頻回のシャント再建が必要であつた. 髄液の長期間にわたる蛋白および細胞数の増加は, シャントバルブの疏通性を妨げる原因となるものである. われわれは, このような障害を克服するために, 皮下に留置したOmmaya貯水槽による頻回の髄液排除, あるいは脳室洗浄による髄液の稀釈を行なつて, よい成績を得た. 脳膿瘍の患者は, 後に発生した水頭症の手術後死亡したが, 硬膜下膿瘍の患者は膿瘍腔のドレナージによつて完全に治癒した.<BR>われわれの経験では, このような化膿性髄膜炎の合併症の外科的治療は, 術前に神経学的脱落症状がなければ良い結果を得ることができる. したがって, 外科的治療は不可逆性の脳損傷がおこる前に, 出来る限り早く行なわなければならない.
著者
早川 武敏
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF CHILD NEUROLOGY
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.308-328, 1980

小児てんかん患児のstatus発症頻度を知る目的で, 昭和52年10月より同53年9月までの一年間に当科を初診したてんかん患児348例, およびけいれん重延状態急性期の臨床像検討の目的で昭和50年1月より昭和53年10月までにけいれん重延状態を主訴とし当科に入院した患児67例, さらに小児てんかん重延状態の比較的長期予後, またはてんかん重延状態をくりかえしやすい患児の特性を検討するため, 昭和49年以前にてんかん重延状態で入院し, その後, 自発的に当科外来通院中のてんかん患児32例を対象に調査し次の結果を得た.<BR>1. 小児のてんかん患児におけるてんかん重延状態の頻度は8%で, 男女差はなかったが, 精神運動発達障害のある群は精神運動発達正常群に比べ2~3倍の頻度を示した.<BR>2. 小児てんかん重延状態の発作型は全身性強直間代性けいれん, 一側間代性けいれんが主体をなし, 25%の症例はstatusで発症した.status以前のてんかん発作型との比較では, 前者ではStatuSで発症又は全身性けいれんを示すのが多いのに比べ, 後者ではStatUSで発症または一側性, 焦点性けいれんが多く, 時に全身性けいれんがみられた.<BR>3. 小児けいれん重延状態の原因はてんかんが多く, 続いて脳炎, 脳症であるが, 脳腫瘍はまれであった.<BR>4. 小児けいれん重延状態の治療はジアゼパムが第一選択薬であるが, ジアゼパム無効例は (1).statusの原因. (2).個体の基礎疾患. (3).statusの発作型に関連を求められる.<BR>ジアゼパム有効量は大部分0.3~0.5mg/kgに含まれるが, 効果不十分な場合, 全身状態に注意して1.0mg/kgまで増量すべきである.<BR>5. Statusの内容, 種類により,<BR>A群: 持続性けいれん<BR>B群: 頻回にくりかえすけいれん発作<BR>C群: A群とB群が同程度にみられる群に分類すると, 頻度はA群に多く, 年齢はA, B群で差をみない.原因別では各群にてんかんが多いが, C群ではてんかん以外の症例の頻度がやや高い.A, B群間では原因不明, 症候性てんかんの頻度に差はなかった.発作型はA群では一側間代性けいれん, B群では全身強直間代性けいれん, 全身強直性けいれんが多かった.けいれん持続時間はA群では2時間以内が多く, B, C群では長時間例が半数を占めた.ジアゼパム効果はA群で良好であるのに比しB, C群では効果が劣った.<BR>6.小児のけいれん重延状態の予後を規定する因子はその原因, 発症年齢, けいれん持続時間, 急性期治療効果の良否, statusの種類等があげられる.てんかん重延状態による障害は56%にみられたが, 一過性障害が多く (43%), 恒久的障害を示した症例は13%であった.<BR>7. てんかん重延状態をくりかえしやすい小児は初回のstatus以前より精神運動発達の遅れを示すものが多く, statusをくりかえしやすい要因として, 一側脳半球の障害またはdiffuse cortico-centrencephalic damageを推測した.<BR>8. てんかん児においてstatusをおこしやすい患児の特性を知り, 有効血中濃度を目標に抗けいれん剤の調整が必要である.
著者
市場 尚文
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF CHILD NEUROLOGY
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.16, no.6, pp.470-475, 1984

折れ線型自閉症の病態生理の解明のため, Rutterの診断基準にもとつく幼児自閉症28名と折れ線型自閉症22名の計50名を対象として, 臨床的脳波学的検討を行った。<BR>その結果, 折れ線型自閉症では特異な経過で自閉症を発症する他, 幼児自閉症に比較して脳障害を示唆する臨床的脳波学的所見が少ない傾向があること, psychic traumaと考えうる誘因を有する症例が多いこと, 予後とくに言語予後が不良であることが特徴的であった.このため, 折れ線型自閉症の成因としては, 幼児自閉症の成因とされている脳器質性障害による言語認知障害とは異なる機序が推測された.