著者
植木 岳雪
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2010年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.128, 2010 (Released:2010-06-10)

はじめに 関東山地から関東平野に流れる相模川,多摩川,荒川などの河川は,氷期―間氷期サイクルに対応した河床変動(貝塚,1969)を示すことが知られている.すなわち,氷期には気温と海面の低下によって,上流部では堆積段丘,下流部では侵食段丘が形成され,河床縦断面は急勾配で直線状になる.一方,間氷期には気温と海面の上昇によって,上流部では侵食段丘,下流部では谷を埋める平野が形成され,河床縦断面は緩勾配で下に凸の形になる. 相模川では本流の上流部,支流の道志川で最終氷期に堆積段丘が形成された(相模原市地形・地質調査会,1986).堆積段丘の主体をなす本流性の礫層には御岳第一テフラ(On-Pm1)がはさまれ,箱根東京テフラ(HK-TP)あるいは姶良Tnテフラ(AT)にほぼ同じ高さの段丘面が覆われる.このことから,酸素同位体ステージ5cから3にかけて本流の上流部と道志川の谷が埋積されたことがわかる.また,HK-TPの降下後にいったん谷の下刻が生じたことが示唆される.一方,支流の中津川,串川の堆積段丘はHK-TPに覆われ,それらの河川では酸素同位体ステージ4には谷の埋積が終了していたことになる.また,支流の境川の谷中には角礫層が分布しているが,それは局所的なものとされている(久保,1988). 相模川と同様に,多摩川でも本流の上流部で最終氷期に堆積段丘が形成された(高木,1990).堆積段丘の主体をなす本流性の礫層にはHK-TP,最上部の支流性の礫層中にはATがはさまれることから,酸素同位体ステージ4から3にかけて本流の上流部の谷が埋積されたことがわかる.一方,支流では上流部まで侵食段丘が分布しており,最終氷期に谷が埋積されたかどうかは明らかではなかった. 本研究では,5万分の1地質図幅「八王子」の調査研究の一環として,相模川,多摩川の段丘の記載を行った.その中で,相模川の支流の中津川,串川,境川,多摩川の支流の浅川の堆積段丘の形成時期について,新たな知見が得られたのでここに報告する. 中津川・串川 中津川の堆積段丘(半原台地)と串川の堆積段丘(串川面)はHK-TPに覆われるとされていたが,HK-TPは段丘礫層中にはさまれることが明らかになった. 境川 境川の角礫層は谷を埋積しており,HK-TPが含まれていることがわかった. 浅川 浅川には侵食段丘が連続的に分布しているが,八王子市西浅川町,元八王子町,下恩方町では谷を埋積する礫層が見られる.下恩方町の礫層中の腐植のAMS14C年代は,10120+/-60 yBPであった. 相模川と多摩川の支流の堆積段丘の形成時期 相模川の支流の中津川と串川では,本流と同様にHK-TPの降下後の酸素同位体ステージ3まで谷の埋積が続いた.境川でもHK-TPの降下をはさんで谷の埋積が行われた.多摩川の支流の浅川では,谷の埋積が盛んであった時期はわからないが,完新世の直前まで谷の埋積が行われた所がある.このように,相模川,多摩川の支流でも,本流と同様に酸素同位体ステージ3にかけて堆積段丘が形成されていたことがわかった.境川や浅川で堆積段丘がほとんど分布しないのは,もともと堆積段丘の分布や谷を埋積した礫層の厚さが小さく,完新世の下刻作用で失われたためと思われる. 引用文献 貝塚(1969)科学,39,11-19;久保(1988)地理評,61A,25-48;相模原市地形・地質調査会(1986)相模原の地形地質調査報告書(第3報),相模原市;高木(1990)第四紀研究,28,399-411.

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