著者
瀧 雅人
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.6-15, 2016-01-05 (Released:2017-04-22)
参考文献数
18

遠い未来の論文誌が手に入り,問いの数々への解答が垣間見れたならば,と夢想された事のある方は少なくないのではないだろうか?もちろんこのような事は不可能だが,双対性という不思議な性質は,しばしば「未来の知識を垣間見る」ような感覚を引き起こす.二つの異なる理論が同じ物理を記述しているとき,それらの間には「双対性」(duality)がある,という.ひとたび非自明な双対性が発見されれば,伝統的な手法の射程を大きくこえて理論を理解する事ができる.実際AdS/CFTに代表されるような様々な双対性の発見が,近年の弦理論の発展を牽引してきた.そして2009年,Alday,Gaiottoおよび立川は,超対称ゲージ理論に関する,全く新しいタイプの双対性を発見する.それが本稿の主題「AGT予想(AGT対応)」である.この予想における主役は4次元時空中のN=2超対称理論と,それに付随して定まる2次元の共形場理論であり,それらの分配関数と相関関数が厳密に一致するというのが,彼らの予想である.この数十年の研究により,どちらの理論も,量子効果と対称性による拘束が競合した結果,とても非自明な形で解けてしまう理論である事がわかっている.その両者が実は密接に関係しているという事実は,その物理の重要な「何か」がいまだに理解されていない事を示唆する.これまでにAGT予想に対する数多くの拡張やチェックがなされ,この予想は広汎な理論たちの間に対して成立している一般的な性質だと考えられている.特にGaiottoの発見したクラスSというグループに属した4次元理論であれば,AGT予想が成立している証拠がある.そこで次に理解すべきは,このような現象の起こる物理的なメカニズムである.完全では無いものの,有望なシナリオがいくつかある.その一つは,超弦理論の親玉であるM理論に起源を求める考え方である.M理論には,M5ブレインという6次元的な広がりを持つ高次元の膜的な物体が存在する.このブレインの広がりを2次元と4次元時空に分け,一方をつぶしてしまうと,残された空間にのみ住む理論が得られる.これによりゲージ理論と共形場理論が結びつくという説明法がそれである.M5ブレイン上に励起する物理的自由度に関してはよくわかっていない事が多く,この「導出」は完全ではないが,いくつもの傍証が見つかっている.また興味深い事に,AGT予想を理解する事でM5ブレインに関する理解が進展する可能性もある.AGT予想に関する数学的な理解にも進展がみられる.特にMaulikとOkounkovは,ゲージ理論側を記述するインスタントン解のモジュライ空間のコホモロジーに,2次元共形対称性の表現空間としての構造が入る事を示し,予想の一部の証明に成功した.また逆にAlbaらは,2次元共形対称性の表現の上に,インスタントンモジュライ空間と類似の組み合わせ論的な構造が隠れている事を示す事で,予想の一部を証明した.

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AGT対応の解説が去年春の物理学会誌に掲載されていたらしい。 https://t.co/E09HG86gZj 今更感があるが、成熟しきった(?)という意味では最適な時期かもしれない。ざーと見た感じ、ここに書いてある内容はほぼ全て5年前には知られていた話。

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