著者
池田 尭弘
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.197-212, 2022-05-28 (Released:2022-05-31)
参考文献数
28

本稿は,石川県輪島市の「白米千枚田」を事例に,公的機関などによる保全に向けた支援や取り組みと,様々な立場の主体による水稲作の動向を分析することから,各主体の活動がどのように関わるなかで,「白米千枚田」が維持されてきたのかを明らかにした。その結果,「白米千枚田」は農業生産の場所という役割に加えて,様々な顕彰を受けることで文化財など様々な機能が追加され,農業体験の場所にもなっていた。こうした非農業者による農作業への参加は「白米千枚田」の維持に無視できないものとなっていた。しかし,「白米千枚田」での水稲作の継続に,文化財としての役割も加わることで,文化財としての評価対象の1つとなっていた「水稲作に関わる営為」の生産性の向上を阻むものとなっていた。このことは生産主義的な水稲作にとって障壁となり,水稲作の実施主体が農業者であろうと非農業者であろうと,「白米千枚田」を主たる収入を得る場所とさせにくくしていた。「白米千枚田」自体が商品として提供されることで,現時点では観光的利用による来訪者の増加などに寄与しているものの,喫緊の課題となる水稲作の継続には直接的に寄与していなかった。現行の保全を推進する体制では,若年層の農家が「白米千枚田」での水稲作を中心にした専業的経営をより成立させにくくなっていた。これは観光客や水稲作の当事者以外にはみえにくく,長期的に保全していく上での課題となっていた。

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