著者
池澤 秀起 高木 綾一 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100556, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】肩関節疾患患者の肩関節挙上運動は、肩甲骨の挙上など代償運動を認めることが多い。この原因の一つとして、僧帽筋下部線維の筋力低下による肩甲骨内転、上方回旋運動の減少が挙げられる。理学療法の場面において、患側上肢の運動により僧帽筋下部線維の筋活動を促すが、可動域制限や代償運動により難渋する。そこで、僧帽筋下部線維の筋活動を促す方法として、腹臥位での患側上肢と反対側の股関節外転位空間保持が有効ではないかと考えた。その結果、第47 回日本理学療法学術大会において、腹臥位での股関節中間位空間保持と腹臥位での肩関節外転145 度位保持は同程度の僧帽筋下部線維の筋活動を認めたと報告した。一方、先行研究では下肢への抵抗負荷を用いない自重負荷であったことから、下肢への抵抗負荷を考慮することで僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促せるのではないかと考えた。腹臥位での股関節中間位空間保持において下肢への抵抗負荷の有無が僧帽筋下部線維や肩甲骨周囲筋の筋活動に与える影響を明確にし、僧帽筋下部線維のトレーニングの一助にしたいと考えた。【方法】対象は上下肢、体幹に現在疾患を有さない健常男性22 名(年齢25.4 ± 2.4 歳、身長168.9 ± 2.2cm、体重60.6 ± 4.0kg)とした。測定課題は、利き腕と反対側の股関節中間位空間保持とした。測定肢位は、ベッドと顎の間に両手を重ねた腹臥位で股関節中間位とした。測定筋は、股関節中間位空間保持側と反対側で利き腕側の僧帽筋上部線維、僧帽筋中部線維、僧帽筋下部線維とした。股関節中間位空間保持側への抵抗負荷量は、対象者の体重の0%、10%、30%、50%の重さを抵抗負荷量として設定し、Isoforce(オージー技研社製)を用いて測定した。抵抗負荷をかける位置は、大腿骨内側上顆と外側上顆を結んだ線の中点と坐骨を結んだ線分の中点とし、鉛直下方向に抵抗を加えた。筋電図測定にはテレメトリー筋電計MQ-8(キッセイコムテック社製)を使用した。測定筋の筋活動は、1 秒間当たりの筋電図積分値を安静腹臥位の筋電図積分値で除した筋電図積分値相対値で表した。また、抵抗負荷が無い場合(0%)、抵抗負荷が体重の10%、30%、50%とした場合の測定筋の筋電図積分値相対値を算出し、4 群全ての筋電図積分値相対値をそれぞれ比較した。比較には一元配置分散分析及び多重比較検定を用い、危険率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者に本研究の目的及び方法を説明し、同意を得た。【結果】僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は、抵抗負荷が0%に対して、抵抗負荷が30%、50%において有意に増加した。また、僧帽筋上部線維、僧帽筋中部線維の筋電図積分値相対値は、抵抗負荷が0%、10%、30%に対して、抵抗負荷が50%において有意に増加した。【考察】腹臥位での股関節中間位空間保持において、空間保持側と反対側の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は、抵抗負荷が0%に対して、抵抗負荷が30%、50%において有意に増加した。この要因として、脊柱の固定には体幹筋や肩甲骨周囲筋の選択的な筋活動ではなく、全ての筋群の協調的な筋活動により脊柱の固定を図るのではないかと推察する。このことから、腹臥位での股関節中間位保持における下肢への抵抗運動において僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促すことは難しいのではないかと考える。また、僧帽筋上部線維、僧帽筋中部線維の筋電図積分値相対値は、抵抗負荷が0%、10%、30%に対して、抵抗負荷が50%において有意に増加した。低負荷での股関節中間位空間保持では、骨盤や脊柱を固定するために両側の腰部多裂筋の筋活動が作用したと推察する。一方、高負荷での股関節中間位空間保持では、骨盤や脊柱を固定するためにより大きな力が必要になる。そのため、腰部多裂筋など骨盤と脊柱に付着する筋群に加え、空間保持側と反対側の僧帽筋など脊柱と肩甲骨に付着する筋群の筋活動が増大することで脊柱の固定を図ったのではないかと考える。一方、肩関節挙上時に肩甲骨内転筋の筋緊張低下により肩甲骨外転位を呈する対象者は、高負荷での抵抗運動により僧帽筋上部・中部・下部線維の筋活動を総合的に促すことが可能となるため効果的なトレーニングになるのではないかと推察する。しかし、肩関節挙上時に僧帽筋上部線維の過剰な筋活動を認める対象者は、高負荷での抵抗運動は効果的ではないと考える。【理学療法学研究としての意義】腹臥位での股関節中間位空間保持課題において、抵抗負荷の増減により僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促すことは難しいが、高負荷での抵抗運動は、肩関節挙上時に肩甲骨の内転運動が乏しい対象者のトレーニングとして効果的であることが示唆された。

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『僧帽筋運動療法』 ○顎の下に両手を重ねた腹臥位で股関節中間位 →股伸展空間保持、負荷は体重○% ・下部線維 負荷0%と比べ30%50%で有意に増加 ・上部、中部線維 負荷0、10、30%と比べ50%で有意に増加 ➡︎下部:低負荷、全線維:高負荷 僧帽筋のexとして有効 https://t.co/NsxBg5MLEx

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