著者
田仲 陽子 南角 学 吉岡 佑二 秋山 治彦 柿木 良介
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101562, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】これまでに、変形性股関節症の股関節の変性は骨盤アライメントの異常と相互に関連しており、この骨盤アライメントの異常は歩行を中心とした運動機能に影響するという報告がなされてきている。そのため、変形性股関節症患者のリハビリテーションにおいては、骨盤アライメントに対する評価や介入が重要となる。また、変形性股関節症患者の運動機能の向上を図るための効果的な介入を行うためには、骨盤アライメントと股関節周囲筋との関連性をより詳細に検討することが必要と考えられるが、これらの関連を検討した報告は少ない。そこで、本研究の目的は、末期の変形性股関節症患者の股関節周囲筋の筋萎縮を定量的に評価し、骨盤アライメントとの関連性を明らかにすることとする。【方法】末期の片側変形性股関節症と診断された32名(男性3名、女性29名、年齢63.8±9.7歳、身長153.0±7.0cm、体重53.5±10.6kg、BMI22.8±4.0kg/m²)を対象とした。股関節周囲筋の筋断面積と骨盤アライメントの測定には、当院整形外科の処方により放射線技師が撮影したCT画像と静止立位における全脊柱のレントゲン画像を用いた。股関節周囲筋の筋断面積の測定は、Raschらの方法に従い仙腸関節最下端での水平断におけるCT画像を採用し、画像解析ソフト(TeraRecon社製)を用いて各筋群の筋断面積の測定を行った。対象筋群は腸骨筋、大腰筋、腸腰筋(腸骨筋+大腰筋)、大殿筋、中殿筋、小殿筋とし、得られた筋断面積から求めた患健比(患側筋断面積/健側筋断面積)×100(%)を筋萎縮率と定義した。また、骨盤アライメントとして、静止立位における全脊柱のレントゲン画像から、土井口らの方法に従って骨盤傾斜角(仙骨岬角と恥骨結合上縁を結んだ線と仙骨岬角から垂直におろした線の成す角)を測定した。さらに、先行研究の健常者の骨盤傾斜角の平均値(26.6度)に基づいて骨盤前傾群と骨盤後傾群の2群に分けた。統計処理には、各筋群の患側と健側の筋断面積の比較には対応のないt検定を、骨盤前傾群と骨盤後傾群の各筋の萎縮率の比較には、マンホイットニーのU検定を用い、統計学的有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は京都大学医学部の倫理委員会の承認を受け、対象者には本研究の主旨ならびに目的を説明し研究への参加に対する同意を得て実施した。【結果】骨盤傾斜角測定の結果、骨盤前傾群は15名(骨盤傾斜角19.4±4.3度)、骨盤後傾群は17名(骨盤傾斜角34.1±5.0度)であった。各筋の筋断面積測定の結果、全ての筋群において患側は健側に比べて有意に低値を示した。また、筋萎縮率については、腸腰筋が骨盤前傾群で63.0±14.3%(患側676.9±152.8mm²、健側1103.0±251.5mm²)、骨盤後傾群で75.4±16.7%(患側836.1±282.5mm²、健側1105.4±242.9mm²)であり、腸骨筋が骨盤前傾群で60.7±20.8%(患側435.6±134.0mm²、健側743.7±152.7mm²)、骨盤後傾群で75.9±19.5%(患側588.8±187.8mm²、健側783.0±163.5mm²)と、骨盤前傾群が骨盤後傾群に比べ有意に低値を示した。大腰筋、大殿筋、中殿筋、小殿筋の筋萎縮率は2群間に有意差を認めなかった。【考察】本研究の結果より、変形性股関節症患者の骨盤傾斜角に関連していた筋は腸腰筋と腸骨筋のみであり、大腰筋や殿筋群には骨盤アライメントの影響を認めなかった。先行研究において、骨盤後傾位のほうが骨盤前傾位よりも股関節屈曲筋力を発揮しやすいことが報告されている。これらの先行研究を考慮すると、過度な骨盤前傾位を呈している変形性股関節症患者では、静止立位時や動作時において腸腰筋の筋活動が得られにくく、患側の腸腰筋の筋萎縮が顕著に生じていたと考えられる。また、大腰筋に関しては第2腰椎に起始部を持ち姿勢保持に働く筋とされており、静止立位時の骨盤前後傾に対しどちらも正中位に保持しようとする方向に働くと考えられ、大腰筋の筋萎縮率は骨盤前傾群と骨盤後傾群の間に差を認めなかったものと思われる。今後の課題として、変形性股関節症患者に対し腸腰筋に着目したトレーニングを施行することが、立位姿勢や運動機能の改善に有効であるかを検討していく必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】これまで、変形性股関節症患者の骨盤アライメントの異常については多く報告されてきた。しかし、骨盤アライメントと股関節周囲筋の関連性について詳細に検討した報告は少なく、骨盤アライメントの改善に有効とされる介入内容は不明瞭であった。本研究の結果より、骨盤アライメントと腸腰筋の筋萎縮に関連があることが明らかとなった。この結果は、変形性股関節症患者の姿勢改善や運動機能向上に対し効果的なトレーニング方法を立案する際の一助となると考えられる。

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『股関節OAの骨盤前後傾と筋萎縮』 患側、健側の筋断面積を比較 腸骨筋 ・前傾群(患側435.6±134.0mm²、健側743.7±152.7mm² ・後傾群で患側588.8±187.8mm²、健側783.0±163.5mm² →前傾群が低値を示した ➡︎骨盤前傾で固定→腸骨筋短縮+萎縮している 遠心性の運動が重要 https://t.co/nGdvm9kC1I

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