- 著者
-
中島 淳
宮脇 崇
- 出版者
- 応用生態工学会
- 雑誌
- 応用生態工学 (ISSN:13443755)
- 巻号頁・発行日
- vol.24, no.1, pp.79-94, 2021-07-28 (Released:2021-10-01)
- 参考文献数
- 58
1.休耕田を掘削した湿地ビオトープ(手光ビオトープ)における3 年間の調査において,18 目 93 種の水生動物,4 種の沈水植物を確認した.このうち環境省あるいは福岡県レッドデータブック掲載種は 24 種であり,本ビオトープが生物多様性や希少種の保全に効果があったことがわかった.2.水生昆虫の種数は夏季(8 月)を中心とした時期に増加,冬季(2 月)を中心とした時期に減少し,顕著な季節性があることがわかった.このことから,止水性昆虫相の調査は夏季に行うことが適していると考えられた.3.水生昆虫の種数及び多様度指数(Hʼ)は顕著な移行帯(エコトーン)をもつ地点が大きかったが,一方で流水環境に特異な種も確認されたことから,生物多様性保全を目的とした場合には浅所から深所まで連続的に変化する移行帯を伴う環境構造とともに,止水から流水にかけての多様な流速環境をデザインすることが重要であると考えられた.4.本ビオトープで確認された水生昆虫類は,ほぼ全種が近隣の 2 km 以内のため池に生息する種であったが,その一方でそれらのため池に生息しながらビオトープで確認されない種もあった.このことから,本ビオトープの水生昆虫相は,周囲の水生昆虫相とビオトープの環境構造の 2 点から決定したものと考えられた.5.本ビオトープの水生生物相は侵略性のある外来種であるアメリカザリガニとスクミリンゴガイによる悪影響を受けていたものと考えられた.