著者
横山 和正 服部 信孝
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.148, no.2, pp.105-120, 2016 (Released:2016-08-01)
参考文献数
118
被引用文献数
1

多発性硬化症(MS)はヘルパーT細胞1(Th1),Th17細胞などの獲得免疫により髄鞘タンパク質に対する自己免疫性炎症反応とそれに伴う脱髄が病態形成の中心とされてきたが,MSの進行に強く影響する神経変性過程では炎症性反応の他にもいまだ未解明の病態が関与していると考えられる.近年,MS変性過程での主なプレイヤーは自然免疫とされ,MSは経過により免疫病態がシフトする不均一な疾患と捉えられる.また,MSの大多数を占める再発寛解型MS(RRMS)患者は発症から10年以内に50%が二次性進行型MS(SPMS)へ移行するが,急性発作に対するステロイド療法では再発抑制と障害進行抑制効果に対してのエビデンスはないことから,MS治療では再発抑制効果,障害進行抑制効果が期待されるインターフェロンβ製剤,グラチラマー酢酸塩(GA)をはじめとする病態修飾療法(DMT)が主な治療選択肢となる.GAは,MSの動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の病因探索でミエリン塩基性タンパク(MBP)の生物学的認識を模倣する目的で4つのアミノ酸で化学合成され,EAEを改善することが示された合成ランダムポリペプチドである.GAはEAEに対する効果に基づいて開発され,RRMS患者を対象とした一連のピボタル試験で有効性が示されたことから1996年に米国,イスラエルで承認されて以降,世界50ヵ国以上でIFN β製剤とともにRRMSに対する第一選択薬として用いられている.GAは日本においても2015年に「多発性硬化症の再発予防」の効能効果で厚生労働省から製造販売承認を受けている.海外での20年以上にわたる臨床経験で確立された安全性に加え,MSにおける獲得免疫,自然免疫の炎症機序を標的とする免疫調整作用により,多くの新規DMTが登場しつつある現在でも,優れた治療選択肢となるものと期待される.

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