- 著者
-
岸本 秀樹
- 出版者
- The Linguistic Society of Japan
- 雑誌
- 言語研究 (ISSN:00243914)
- 巻号頁・発行日
- vol.153, pp.5-39, 2018 (Released:2018-12-29)
- 参考文献数
- 64
- 被引用文献数
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本稿では,文の否定辞のスコープの拡がり方を観察することにより,日本語において,主要部移動と名詞句移動の存在を確認することができることを論じる。日本語の否定辞は主要部移動を起こす要素で,移動が起こるかどうかによって,そのスコープの拡がり方が異なる。否定のスコープ内でのみ認可される否定極性表現の振る舞いから,日本語では,形容詞から脱範疇化により文法要素となった否定辞は主要部移動を起こし,形容詞の範疇的性質を残す否定辞は移動を起こさないこと,および,日本語の主語は,時制辞が主格の項を認可する場合に,文の主語位置への移動を起こすことを示す。また,「なる」に節が埋め込まれた複文では,主語の移動が起こった場合に,主節の主語位置に移動する構文と主語が埋め込み節内でのみ移動する構文があることも示す。