- 著者
-
早田 輝洋
- 出版者
- The Linguistic Society of Japan
- 雑誌
- 言語研究 (ISSN:00243914)
- 巻号頁・発行日
- vol.2000, no.118, pp.5-27, 2000-12-25 (Released:2007-10-23)
- 参考文献数
- 13
上代日本語の二段活用動詞は終止・・連体・・已然・で語幹末母音が/u/と交替する.この交替は文献時代では既に文法化していた.しかし,文法化する以前の音韻的条件は何だったのであろうか.語幹末母音が/u/と交替するのは,乙類音節で終る語幹末母音の次に終止語尾/-u/,連体語尾|-ru|,已然語尾/-re/の来る時であるが,終止語尾/-u/の場合は母音の融合かも知れぬゆえ考察から外すと/-ru//-re/の前,即ち/-r/の前ということになる.しかし,受身接辞/-rare//-raje/の前では交替は起きない.日本語の歴史を通じて,その/r/の音はr的な音であること,その音が当面の母音交替に関係ないことを論じ,ついで奈良時代の東西方言の対応や服部仮説から連体接辞の祖・*rua,巳然接辞の祖・*rua-giを再構すると,当該の母音交替は後続音節*ruaの母音*uによる逆行同化を思わせるものとなることを示す.過去接辞/-isi//-isi-ka/の・態素構成にも示唆する所がある。