- 著者
-
三浦 尚子
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
- 巻号頁・発行日
- vol.94, no.4, pp.234-249, 2021-07-01 (Released:2023-02-19)
- 参考文献数
- 61
- 被引用文献数
-
5
本稿は日本の精神医療改革の新たな理念となる「地域移行」を,M. セールのエクスティテューションextitutionという施設/制度の対置概念を用いて,病院施設/医療制度の「内」と「外」を組み合わせて考察するものである.「地域移行」とは,長期在院者が相談員などの病院外の制度に帰属する者と共に,「閉鎖性」の病棟から「開放性」の病棟,病院近隣,前住地へと向かう多元的なプロセスであり,長期在院者は外の日常世界に慣れることでトラウマを軽減させ,人間としての尊厳を回復させている.ただし,「地域移行」は実際のところ行きつ戻りつの進捗で,国が想定する支援期間よりも時日を要するものであった.「地域移行」に参与する相談員の不足,基礎自治体ごとに異なる対応に加え,精神科病院の偏在とそれを活用した「転院システム」が存在する東京都では,長期在院者や相談員らの努力と偶有的な状況に依拠することで「地域移行」の実現が可能となっている.