著者
井上 武
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.166-174, 2019-12-20 (Released:2020-01-10)
参考文献数
54

動物は,外部からの刺激がない環境でも不規則に運動することがある。この自発的に起こるゆらぎは,環境応答行動や指向性運動の正確さを妨げると考えられてきたため,その役割はあまり注目されてこなかった。しかし近年,プラナリアなどを用いた解析から自発的な運動が動物行動の適応性に重要であることが明らかになった。プラナリアは,感覚器官を介して感知した様々な環境情報を脳に集約することで適切な応答行動をとる。例えば,光刺激を頭部にある左右1対の眼で受容し,受け取った信号を脳に送って処理することで光から逃避する行動を示す。プラナリアの光応答行動を制御する機構はすでに十分明らかにされていると考えられていたが,近年,不規則に頭部を左右に振る自発振動が光の方向を正確に認識して効率的に逃避するために不可欠であることが明らかになった。また,自発振動の角度はプラナリアの眼の傾きの角度と相関していたことから,自発振動は眼の形態と密接な関係があることも分かった。さらに,自発振動は落ち葉や石の窪地に隠れるための行動にも必要であるだけでなく,その角度は光応答行動と隠れ行動の両方にとって最適な角度になっていることも明らかになった。これまでノイズと考えられていた自発的に起こる不規則な運動は,従来考えられてきた以上に,動物行動の適応性や効率のために巧みに調節されていることが見えてきた。

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