著者
富田 瑞樹 平吹 喜彦 菅野 洋 原 慶太郎
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.163-176, 2014-11-30 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
3

低頻度大規模攪乱である2011年3月の巨大津波の生態学的意味を議論するうえで、海岸林攪乱跡地における倒木や生残木などの生物的遺産の組成と構造を明らかにすることは重要である。本研究ではこれらを記載したうえで、攪乱前の標高、攪乱前後の標高差、汀線からの距離、マツ植栽時期の違いに起因するサイズ構成の差異などの環境条件が、攪乱後の海岸林の樹木群集の生残と損傷に与えた影響について解析した。2011年6月、仙台市の海岸林に設置した540m×40mの帯状区において胸高直径(DBH)が5cmを超える全ての樹木の生死・DBH・損傷様式を記録し、主な損傷様式を次の4つに区分した:傾倒(根系を地中に張ったまま地上部が物理的に傾いた状態)、曲げ折れ(根系を地中に張ったまま、幹基部が物理的に折れた状態)、根返り(根系が地表に現れて樹体全体が倒伏した状態)、流木(根系ごと引きぬかれた樹体全体が漂着したと推察される状態)。実生や稚樹の生存状況を明らかにするために、DBH5cm以下の樹木の種名と数を記録した。また、航空レーザー測量で求めた数値標高モデルを用いて津波前と津波後の標高を表した。海岸林は帯状区のほぼ中央で運河によって海側と陸側に区分され、海側には高標高の砂丘上に若齢クロマツ林が、陸側には一部に湿地を介在する低標高域にマツ・広葉樹混交壮齢林が成立していた。攪乱後の海側には生存幹が少なく、損傷様式は傾倒と曲げ折れが卓越した一方、陸側には多数の生存幹の他に多様な損傷様式が確認された。海側には広葉樹の実生や稚樹は出現しなかったが、陸側ではサクラ属やハンノキ、コナラなどの実生や稚樹が確認された。クロマツの実生や稚樹は両方に出現した。帯状区の海側と陸側の別をランダム効果、帯状区を10mに区分した方形区ごとの環境条件を説明変数、生存や損傷を応答変数とした一般化線形混合モデルによる解析の結果、マツの生存や各損傷様式の発生率は、汀線からの距離やサイズ構成、標高などに依存するが、その傾向は生存・損傷様式ごとに大きく異なること、若齢林が卓越する海側で傾倒率が、壮齢林が卓越する陸側で生存率が高いことが示された。また、マツや広葉樹の実生・稚樹が多数確認され、これらの生物的遺産を詳細に調査することで、減災・防災機能と生物多様性が共存する海岸林創出に向けて有用な知見が得られることが示唆された。

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