- 著者
-
揚妻 直樹
揚妻-柳原 芳美
杉浦 秀樹
- 出版者
- 一般社団法人 日本生態学会
- 雑誌
- 保全生態学研究 (ISSN:13424327)
- 巻号頁・発行日
- pp.1923, (Released:2021-04-20)
- 参考文献数
- 43
捕獲圧がかかっていないニホンジカ個体群では、個体数が指数関数的に激増した後、短期間で大量死(個体群崩壊)を起こすものの、その後も再び急速に個体数を増加させ、安定しないと考えられてきた。ところが、捕獲圧が全くかかっていないシカ個体群を対象に長期動態を明らかにした研究例は少なく、知見は限られている。ニホンジカは多様な生態系に分布しており、各地域個体群に見られる動態のバリエーションが十分に把握されてきたとは言い難い。さらなる情報の蓄積が必要である。本研究の調査地である屋久島西部・世界自然遺産地域の照葉樹林では、過去数十年間シカの捕獲圧がほぼかけられてこなかった。そこで我々はこの地域の半山地区と、そこから 1.3 km離れた川原地区の 2か所で、 2001年から 2018年まで毎年夏に踏査によるルートセンサスを実施した。シカ生息密度は 2014年まで年率 9.1%で増加傾向にあったものの、その後は年率 15.2%の減少に転じていた。半山地区と川原地区の生息密度は増加期においても減少期においても違いがなく、同調して変化していた。半山地区で実施したカメラトラップ(自動撮影カメラ)による調査でも、シカ撮影率は 2014年から 2018年にかけて減少傾向にあった(年率 -10.0%)。この個体数の減少は、これまで報告されてきたような短期間の大量死によるものではなく、数年かけて進行していた。減少期間中( 2014年~ 2018年)に半山地区で識別していたシカ 19個体(メス 13頭・オス 6頭)を対象に地区内に定住(生存・死亡)していたか、地区外へ移出したかを直接観察により確認した。その結果、地区内の年定住率は 96.5%と高く、 3.5%は原因不明の消失であり、地区外へ移出した個体は確認できなかった。このことから、調査地域内で個体数減少が起きており、何らかの自然環境要因が関わっていた可能性が示された。今後も調査を継続し、捕獲圧のかからない地域におけるシカ個体群の挙動を明らかにしていくことが重要である。