- 著者
-
佐々木 翔哉
大澤 剛士
- 出版者
- 一般社団法人 日本生態学会
- 雑誌
- 保全生態学研究 (ISSN:13424327)
- 巻号頁・発行日
- pp.2208, (Released:2022-10-25)
- 参考文献数
- 40
タヌキ Nyctereutes procyonoidesは、東アジア地域に分布する食肉目イヌ科の中型哺乳類である。タヌキは人間の生活圏の近くにも生息し、農業被害や衛生上の問題等の様々な問題を引き起こすことがある。近年では、日本の様々な地域のタヌキ個体群において、疥癬症が流行している。ヒゼンダニ類が寄生することによって生じる疥癬症は、宿主の健康状態を悪化させ、活動や生態等に様々な影響を与える。疥癬症が引き起こす影響の 1つとして、夜行性の野生動物が昼間に活動するようになることが知られているが、タヌキにおけるその定量的な報告はほとんどみられない。タヌキの疥癬症を引き起こすイヌセンコウヒゼンダニはヒトやネコにほとんど寄生しないとされるが、感染したタヌキの活動が昼間に行われることで、昼に屋外に出されることが多いイヌにイヌセンコウヒゼンダニが感染する可能性が高まるほか、タヌキが持つ他の人獣共通感染症やダニ類などの寄生生物とヒトとの接触機会が増加する可能性がある。そこで本報告は、疥癬症に感染したタヌキが生息する東京都西部の 4つの都市公園において、約 1年間のカメラトラップ調査を行い、疥癬症に感染しているタヌキと健常なタヌキの活動時間を定量的に比較した。その結果、疥癬個体は健常個体よりも高率で昼間に活動していることが示された。この結果は、疥癬症が実際にタヌキの昼間の活動を引き起こしていることを示唆するものである。