- 著者
-
田中 美穂
児玉 聡
- 出版者
- 日本生命倫理学会
- 雑誌
- 生命倫理 (ISSN:13434063)
- 巻号頁・発行日
- vol.26, no.1, pp.107-114, 2016 (Released:2017-09-30)
- 参考文献数
- 38
日本において「尊厳死」法案が提案された背景には、医師による生命維持治療の中止行為が社会的・法的に問題となり、医師の行為の適法性の要件が医療的・社会的に喫緊の検討課題とされたという状況がある。最高裁まで争われた川崎協同病院事件は、当判決・決定の法的な含意が十分に理解されずに解釈されている可能性がある。そこで、当判決・決定に関する法律家の評釈を分析した結果、①治療中止の許容要件として示された「患者の自己決定権の尊重」と「医療者の治療義務の限界」の関係性が不明確であること、②家族等による患者の意思推定や代理決定の是非、③治療中止と差し控えは同等か否か、といった論点が抽出された。終末期における治療中止を許容する法律の是非について国会も含めて広く議論するべきである。また、家族等による同意や決定のあり方や、患者の選択を支援する仕組みについても十分に検討する必要がある。