著者
中澤 高志
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.312-337, 2019-12-30 (Released:2020-12-30)
参考文献数
90
被引用文献数
1

本稿は,再生産の経済地理学に関する試論である.人口地理学と労働の地理学の相互交流を契機として再生産に対する地理学者の関心が高まってきたが,世代の再生産が長期的に保証されていることを暗黙の前提としてきた.資本・国家は,再生産の過程に介入しこれを統制しようとしてきたが,「資本主義の黄金時代」の終焉によってそれは困難となり,再生産は不調を来した.政府は,子育ての障害の除去に努め,再生産の期待を国民に負託するが,ボイコットに直面している.少子化対策は,経済支援や子育て環境の整備のように,経済主義あるいは環境決定論の色彩を帯びる.いずれも一定の条件が整えば場所とは無関係に世代の再生産が達成されると想定するが,現実には出生率の規定要因は無数にあり,その関係性自体が場所によって異なるため,画一的な少子化対策の効果は限定的である.一国の領域内での再生産が困難になると,再生産の空間スケールはグローバル化する.日本は,外国人労働者をスポット買いできる労働力と位置づけてきた.現行の処遇を続けても,外国人労働者にとって日本が選ばれる移動先であり続けられる保証はない.再生産の困難性は,再生産が人間の主体的な意思決定に委ねられていることに起因する.このことは,私的利益の追求が全体にとって最適の結果を必ずしももたらさないという個人と社会のアポリアを示すが,結婚や出産に関する自己決定権を捨てて,社会に殉じる必要はないし,そうすべきでもない.

言及状況

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Twitterでいろいろ少子化の議論されてるけど ・出生率の規定要因は無数にあり、画一的な環境整備の効果は限定的である ・再生産の困難性は再生産が人間の主体的な意思決定に委ねられていることに起因する という身も蓋もない話がある 再生産の困難性,再生産と主体性 https://t.co/ynEnlQjmiP
" 再生産の困難性は,再生産が人間の主体的な意思決定に委ねられていることに起因する." https://t.co/50UQF1npDe 身も蓋もない ナッジとかそういうのでどうにかできない部分はそりゃあるわな
中澤高志さんの論文をいくつか読んだ。 中澤高志(2019):再生産の困難性,再生産と主体性.経済地理学年報 65: 312-337. 大会報告論文なので,かなり自由に書いている印象です。ここでの「再生産」とは労働者としての子を産み育てるという単純な意味に限定しています。 https://t.co/2dcv5vi0jz
今年最も関心を抱いた論文(毎年nkzw先生な気がするが)。マルサスもマルクスも通用しなくなったいま,人口地理学と労働の地理学はどう向き合うのだろうか。 :J-STAGE Articles - 再生産の困難性,再生産と主体性 https://t.co/ZukZ9x2wrn

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