著者
三浦 洋
出版者
日本西洋古典学会
雑誌
西洋古典学研究 (ISSN:04479114)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.72-83, 1997-03-10 (Released:2017-05-23)

アリストテレスは『形而上学』Θ巻第6章(以下, Θ6)で様々な行為を「エネルゲイア(活動)」と「キーネーシス(運動)」に区別している.その一方の「ネルゲイア」とは,現在進行と完了が同時に成立する行為であり,「見る」がその典型例である(「見ている」と同時に「見てしまった」といえる).他方「キーネーシス」とは,一定の目的に向かう末完了的な過程を持つ行為であり,現在進行と完了が同時には成立しない.その典型例は「建築」である(「建築している」と同時に「建築してしまった」ということはない).この区別をめぐっては従来,他のテキストとの関連が注目される一方で,このような排他的区別の成立を根本的に疑う見解が研究者から示されてきた.とりわけ,アクリルが投げかけた疑問と,それを解消するべくペナーが提起した「二局面構造説」は,区別の成否を検討する上で重要な論点を提示している.本稿は,ぺナー説を批判的に検討しつつ,アクリルの疑問の発生源である「一つの現実態を構成する二つの項」をめぐる問題を解明し,疑問の解消を目指すものである.関連テキストにおけるアリストテレスの議論を検討することにより, 「エネルゲイア」と「キーネーシス」の区別が,単一の現実態,すなわち単一の事態について必然的に成立する区別であることを明らかにしたい.

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