- 著者
-
大村 朋彦
中村 潤
- 出版者
- 公益社団法人 腐食防食学会
- 雑誌
- Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.5, pp.241-247, 2011-05-15 (Released:2011-11-05)
- 参考文献数
- 26
- 被引用文献数
-
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7
ステンレス鋼の水素脆性について,高圧水素ガス環境における水素環境脆化に関する最近の研究を中心に,化学組成の影響,水素吸収の影響,疲労特性の観点から概説した.低ひずみ速度引張試験(Slow Strain Rate Test,SSRT)により評価したステンレス鋼の水素環境脆化特性は,ひずみ誘起マルテンサイト相生成の観点から,化学組成の影響を強く受ける.SUS304Lのような合金元素含有量の少ないオーステナイト系ステンレス鋼はひずみ誘起マルテンサイト生成に伴い水素環境中で顕著な延性の低下を示す.SUS316LやA286のような安定オーステナイト系ステンレス鋼は水素環境脆化に対して充分な抵抗性を示す.水素環境脆化特性と水素吸収の相関も調査されている.HEE感受性と水溶液中の陰極チャージによる水素脆化特性は同じ水素吸収依存性を示すことから,水素環境脆化が外部の水素ガス環境からの水素吸収で引き起こされることが示唆される.高圧水素ガス環境における疲労特性が内外圧疲労試験により評価されている.SUS304のような準安定オーステナイト系ステンレス鋼は水素ガスにより疲労寿命の低下を示すが,SUS316Lのような安定オーステナイト系ステンレス鋼の疲労寿命は水素の影響をほとんど受けない.析出強化型ステンレス鋼A286は水素ガスによる疲労寿命の低下を示し,転位のプラナー化や粒界のη相析出の影響が原因と考えられている.