著者
阿部 慶賀
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.509-515, 2019-12-01 (Released:2020-03-01)
参考文献数
12

本稿ではBailenson らの研究グループによる,ヴァーチャルリアリティを用いた社会的態度の変容に関する研究を紹介する.Bailenson らは,近年のヘッドマウントディスプレイ (HMD) を用いた没入型のデジタルゲーム環境を用い,さまざまな社会心理学的研究に着手している.近年のデジタルゲームの多くは,プレイヤー自身を代替してゲーム環境内でふるまうアバターを登場させ,他者とコミュニケーションをとれるよう設計されている.この時のアバターは,必ずしもプレイヤーの姿を忠実に模している必要は無く,むしろプレイヤーが望む容姿に設計できるようになっていることが多い.顔つきや体格はもちろんのこと,年齢や性別にかかわる特徴も自由に変更できる. デジタルゲームの環境では容姿が自由自在に変えられる.その一方で,私たちは相手の外見や容姿によって態度を変えてしまうことも知られている.初対面ならだらしない身なりの者よりは,清潔に整えた身なりの者を信用してしまうし,好みの容姿の異性はその内面もポジティブに評価してしまうこともある.Bailenson らの研究グループでは,他者に対して抱く偏見や態度を,VR によって克服する可能性を模索している.普段の自分ではない他者の姿,特に偏見の目を向けていた相手の立場になるようアバターを変更し,文字通り相手の身になって電脳世界の中をふるまい,他者と接触する.こうすることでそれまで抱いていた偏見を克服できるのではないか,という期待のもと,実際に実験を重ねている. 今回紹介するのは,高齢者の立場になってみる実験と,異なる人種の立場になってみる実験である.近年ではVR 開発環境も容易に整いやすくなったが,いざ心理学実験の環境として実装するには配慮すべき点が多数有ることを再確認させられる論文である.そのため,実験環境や手続きに関する記述を詳細に示すことにした.今回紹介する論文はやや時間の経過した論文ではあるが,身体性研究,そして近年本学会でも活発に展開されている「プロジェクション科学」研究においても,これらの知見は実用的な価値を含むものとして一読の価値があろう.

言及状況

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