著者
柴 静子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第61回大会/2018年例会
巻号頁・発行日
pp.10, 2018 (Released:2018-09-07)

【研究の背景および目的と方法】本年3月末に公示された新高等学校学習指導要領では、「政治や経済,社会の変化との関係に着目した我が国の文化の特色、我が国の先人の取組や知恵、武道に関する内容の充実、和食、和服及び和室など、日本の伝統的な生活文化の継承・創造に関する内容を充実したこと」が改訂の眼目とされている。発表者が平成26年度に行った広島県と山口県の高等学校の家庭科教師を対象とした調査では、その時点で既に95%の教師が、「家庭基礎」や「家庭総合」において,「衣食住の文化や様式について授業をしたことがある」と答えていた。それらは,浴衣の着装やたたみ方・帯の結び方の実習、外部講師による着付け講習、刺し子のコースターやランチョンマットの製作、日本の伝統文化である着物や風呂敷についての解説、備後絣や柳井縞についての解説、着物解き布のはぎれを使用した小物製作などであった。これらは生徒の興味を喚起する実践であるが、上記の指導要領改訂の際に考慮された、「先人の取組と知恵を知り、社会的・歴史的視点から衣生活文化を継承・発展させる」という視角から見ると、再考の余地があるように思われる。全国を見廻すと、かつて生糸や絹織物の名産地であった埼玉県秩父市や群馬県伊勢崎市においては、総合的な学習として「銘仙」を取り上げている小・中学校がいくつかある。伊勢崎市立境北中学校においては、「伊勢崎銘仙によるふるさと学習」が中学2年生の衣服分野と絡めて実践されている。平成 26年度は、家庭科の授業で、伊勢崎銘仙について専門的知識を有する外部講師を招き講話をしてもらったこと、および数多くの銘仙を準備し、実際に着用してよさを実感させたこと、さらには他地域のものと比較ができるように、多様な伊勢崎銘仙を展示するといった環境づくりをしたこと、その結果、生徒は感動し、興味関心は高まった、という報告がなされている。このように「銘仙」に焦点を合わせて、衣生活の伝統と文化に関する学習が実践されていることは、この着物への国内外からの注目が高まっている今日、意義深いことと考える。銘仙は、大正期から昭和戦後期にかけて、長期にわたり大衆向け着物として衣生活を支配した、歴史的・社会的に見て特別な意味をもつ着物である。そのように考えると、銘仙についての学習は、特定の地域に限定されるものではなく、着物の文化に関する学習として広く全国の学校に普及させる価値があると思われる。そこで本研究においては、銘仙の実物収集と考察、国内外の関連文献の検討およびはぎれ布を使用した教材見本の製作を通して、銘仙に焦点を当てた衣生活の伝統・文化の学習の創造に向けての基礎的資料を提供することを目的とした。【結果】1.銘仙の五大産地として、伊勢崎、秩父、足利、桐生、八王子が認められているが、これらに限定されず日本全国で生産されており、中には品質に相当問題があるようなものまで流通していた。2.1932年までの銘仙生産量は、伊勢崎が他の地域を圧倒していた。伊勢崎銘仙の特徴は「併用絣」にあり、他地域の銘仙に比べて色の鮮やかさで抜き出ている。伊勢崎銘仙には「馬首印(マーク)」や「正絹マーク」が付けられており、収集した着物や羽織、反物や洗い張りの中にも、このようなマークが見られるものがある。3.銘仙の大きな特徴は、アール・ヌーボーやアール・デコの影響を受けた、まるで絵画といってもよいデザインにある。ボストン美術館、ミネアポリス美術館などの海外の美術館には、相当数の銘仙が収蔵されているが、それらのデザインの多くはこの範疇に入る。4.近年、海外のコレクターが銘仙を収集し、写真・図を中心とした大型本を出版するなど、活発化している。色鮮やかで大胆な模様の伊勢崎銘仙(併用絣)が数多く取り上げられているが、収集した銘仙の中にも類似のデザインのものがある。5.本研究から、銘仙は、国際的、歴史的、社会的、文化的要素を入れて教材化することが可能であることが示唆された。

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