- 著者
-
原 博
- 出版者
- 公益財団法人 腸内細菌学会
- 雑誌
- 腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
- 巻号頁・発行日
- vol.16, no.1, pp.35-42, 2002 (Released:2010-06-28)
- 参考文献数
- 32
- 被引用文献数
-
3
短鎖脂肪酸は, 大腸で作られる, 食物繊維や難消化性オリゴ糖からの発酵産物である.この発酵を行うのは, 腸内細菌叢と言われる大腸内に常在する膨大な数の微生物である.産生された短鎖脂肪酸は, 大腸で容易に吸収され, 肝臓や筋肉で代謝されてエネルギー源となる.短鎖脂肪酸の一種である酪酸は, 大腸粘膜でよく資化される, 大腸粘膜細胞の必須栄養素である.酪酸の欠乏は大腸の機能不全に繋がり, このような意味で酪酸は人の健康に不可欠なものと言える.短鎖脂肪酸は, エネルギー源としてだけではなく, 健康を維持する多くの生理作用を有している.すなわち, 水や, 欠乏しやすいミネラルであるカルシウムやマグネシウム, 鉄の吸収を促進し, 肝臓ではコレステロール合成を抑制, さらには, 大腸がんの発症を抑制する.酪酸は, 大腸の変異細胞にアポトーシスなどを起こさせ除去する.これらの短鎖脂肪酸がどのように作用するかは, ほとんど分かっていない.短鎖脂肪酸の研究は, 大腸発酵, ひいてはプレバイオティクスの生理的意味を解明するものである.