著者
久保 明教
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.518-539, 2007-03-31 (Released:2017-08-28)

1999年に販売が開始されたエンターテインメント・ロボット「アイボ」は、生活空間において人々の間近で動作する初めてのロボットとして多くの注目を浴びた。本稿では、アイボの開発と受容の過程を横断的に検討し、テクノロジーにおける科学的側面と文化的側面がいかなる関係を取り結ぶかについて考察する。科学およびテクノロジーを社会的ないし文化的事象として捉える研究は近年盛んになされてきたが、その多次元的な性質ゆえにテクノロジーを包括的に考察することには困難が伴う。本稿では、アイボという技術的人工物が科学的知識、工学的製作、日常的実践等の接点となっていることに注目し、異なる領域に属する諸要素が接続される様々な局面を分析することで、境界横断的なテクノロジーの動態を捉えることを試みる。そこで明らかになるのは、開発と受容の過程において、科学的要素と文化的要素が組み合わされる中でアイボの有様が方向づけられていったことである。開発過程においては、人工知能研究およびロボット工学上の成果である設計手法を基盤にしながらも、ロボットをめぐる人々の想像力に基づいた語りを工学的装置へと翻訳することによってアイボがデザインされていった。一方、受容過程においては、アイボ・オーナーの生活する空間に特有の日常的な事物の有様とアイボの機能システムの作動が結びつくなかで、アイボの動作が様々な形で解釈されるようになり、開発者の想定を超える意味をアイボは獲得していった。筆者は、開発者による工学的デザインとアイボ・オーナーによる解釈が科学的要素と文化的要素を組み合わせることで妥当性を生み出す営為であったと分析した上で、実在と意味を媒介するテクノロジーの働きにおいて科学と文化の相互作用が捉えられることを示した。

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