- 著者
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木村 秀雄
- 出版者
- 日本文化人類学会
- 雑誌
- 文化人類学 (ISSN:13490648)
- 巻号頁・発行日
- vol.72, no.3, pp.383-401, 2007-12-31 (Released:2017-08-21)
- 被引用文献数
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4
人類学は非常に厳しい環境の中にある。厳しい批評を受けて、民族誌という作品を書く力が減衰してしまっている。そのような状況の中で、批評が新しい民族誌の新しい方向性を切り開き、そこから生まれた新たな民族誌が再び新たな批評を生み出すという循環が成り立たなくなっているのだ。現在の世界を取り巻く状況を、世界無形文化遺産、特にボリビアの先住民であるカリャワヤを題材にして論じていく。そこから引き出せることは、世界無形文化遺産の制定は、危機にさらされた文化の保護を目的にしていて、そこで行われる活動は国際協力と似た性格を持つこと、職業的人類学者の書く民族誌は著作権を手放さない限り、究極的には人類学者の商売の道具であること、現地社会に調査の成果を還元するためには、無名の民族誌制作者として働くボランティアという立場もあるということである。そして最後に、複雑さをます世界の中で、民族誌の作成にも批評にも画一的な指針は存在しなくなっているが、そのことが逆に民族誌の自由度をますことにつながり、古いタイプの愚直な民族誌をも含め、民族誌の可能性は広がっていることが論じられる。