著者
楊 海英
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.419-453, 2008-12-31 (Released:2017-08-21)

社会主義者たちは「民族の消滅」を理想に掲げ、そのために闘争してきた歴史がある。中国共産党は文化大革命中に、彼らが得意としてきた暴力で以て「民族の消滅」を実現させようとした。内モンゴル自治区では、この地域が中国領とされたがゆえに、モンゴル人を対象とした大量虐殺事件が発生した。本稿は、中国文化大革命中の1967年末期から1970年初頭にかけて、内モンゴル自治区で発生した「内モンゴル人民革命党員大量虐殺事件」をジェノサイド研究の視点からアプローチしたものである。内モンゴル人民革命党は、モンゴル族の自決と独立のために、1925年にモンゴル人民共和国とコミンテルンの支持と関与のもとで成立した政党である。その後、日本統治時代を経て、第二次世界大戦後にモンゴル人民共和国との統一を目指したが、中国共産党によって阻止された。文化大革命中に「内モンゴル人民革命党の歴史は偉大な祖国を分裂させる運動である」と毛澤東・中国共産党中央委員会から断罪され、モンゴル人のエリートたちを根こそぎ粛清する殺戮が発動されたのである。本研究は、従来から研究者たちによって指摘されている「国民国家型ジェノサイド」理論に沿って、ジェノサイドと近代の諸原理とりわけ国民国家と民族自決の問題との関連性に焦点をあてている。国民国家たる中国からの統合と、その統合に反対して別の国民国家を建設しようとしたモンゴル人たちが大量虐殺の対象にされた経緯を分析したものである。「モンゴル人ジェノサイド」に社会主義中国の対少数民族政策の強権的、暴力的な本質が内包されている。

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