著者
村上 薫
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.328-345, 2017 (Released:2018-05-16)
参考文献数
33

名誉(ナームス)に基づく暴力をめぐり、トルコの公論はふたつの批判的議論を提示してきた。ひとつは、国際的な名誉殺人への関心の高まりを背景として名誉殺人を因習殺人と名付けるものである。名誉殺人を東部のクルド系住民の後進性と結びつけるこの言説は、名誉殺人を特定の集団内で不可避的に起きる問題として他者化した。もうひとつは、欧米のフェミニズム理論を背景として、暴力の原因を家父長制に求めるものである。名誉殺人を含む女性への暴力は、普遍的で非歴史的な男性支配の制度としての家父長制によると説明される。前者では名誉は特定の地域や集団の因習に読み替えられ、後者では名誉は家父長制に還元される結果、なぜ名誉が暴力を正当化するのか、掘り下げて考察することができない。 本稿は、名誉を一方で特定のエスニック集団に本質化された後進性との関係において、他方で家父長制との関係において、一元的に意味づける議論を離れ、人々の名誉の解釈と実践に焦点を当てることにより、暴力が発動する機序を地域社会の日常的関係のなかで理解しようとするものである。イスタンブルの移住者社会の事例に即した議論を通して、本稿では都市における移住者の周縁化、失業の増加と貧困化、あるいは女性の権利言説の高まりといった、グローバル化がつくりだす今日的状況において、名誉の解釈をめぐって駆け引きが可能な状況が生まれ、新たな暴力が誘発されていることを示す。名誉の解釈とルールが流動化し、一律でなくなる状況ではまた、暴力が誘発されるとともに、暴力に対抗する新たな契機も生み出されることを指摘する。

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@KazukoIto_Law しかしやり過ぎると却って子供を危機に晒します。 『子供が体に自信を持つ権利』『子供が好きな服を着て記録する権利』を忘れては駄目です 名誉解釈の多様化と暴力 イスタンブルの移住者社会の日常生活をめぐって https://t.co/WistpjD3Am 「マグダレンの祈り」実話 https://t.co/I2MlKLrWwg #r_blog
https://t.co/HN6w4lwiPE「名誉殺人に議論の焦点を絞るなら、日常生活のなかで名誉を理由として行使される、より軽微な暴力(たとえば外出の制限や服装の管理)が看過されることも指摘しておかねばならない」トルコでは前者をやる人は後者全無視なんですか?マジで?よう知らんけど。

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